忍び寄る病魔
霧島神社の目の前までやってきたところで、俺たちは立ち止まった。由香は俺に向き直って言った。
「じゃ、ここまででいいから。あんたも用事とやらがあるんでしょ。まあ、でも……送ってくれてありがとうね」
「え? 最後の部分がよく聞きとれなかったんですけど」
にやにやする俺の太ももに由香は足蹴りをくらわす。俺は大げさに痛がる振りをしてそれに答えた。
「ま、それじゃ霧江さんにもよろしくな」
「はいはい」
俺はそれだけ言って、由香と別れようとした。
しかし俺が由香に背を向けたその瞬間、突然俺の視界がぐにゃりとゆがんだ。そのゆがみ具合は昨日のそれよりも一段とひどく、俺は思わず平衡感覚を失って地面にしゃがみ込んでしまう。それを見た由香が慌てて俺に手を貸す。俺は情けなく由香の手に捕まり、じっと視界のゆがみが治るのを待った。
おかしい。この症状は数日に一度起こる程度だったはずなのに。間の感覚が明らかに縮まっている。
ようやくゆがみが落ち着き、俺はよろよろと立ち上がった。俺は心配する由香にもう大丈夫だと言う。
「全然大丈夫そうには見えないんだけど。それに改めて見れば、顔色もわる……。って、水前寺!」
俺が驚き、由香の顔を見ると、由香は自分の鼻を必死に指さしている。何が何だかわからぬまま自分の鼻に手をやると、鼻の穴付近になにやら粘り気のない液体が付いていることに気が付く。鼻から手を離し、その液体を確認すると、それは血だった。
どうやら鼻血が出ているらしい。ぼんんやりとした頭でそのことを理解すると同時に、鼻から血があふれ出るように流れ始めた。突然の出来事に頭が追い付かない俺に対し、由香はすぐさまポケットからハンカチを取り出して、俺の鼻の穴をふさいだ。
「とりあえず、家に来て!」
俺は由香に促されるまま霧島神社の母屋へと向かった。
母屋にあがると、俺はそのままリビングに連れていかれた。リビングでは霧江さんが何やら電話をしており、入ってきた俺の顔を見るなり驚きの表情を浮かべた。霧江さんは電話の相手に一言告げてから、俺と由香に話しかける。
「どうしたの愁ちゃん、鼻血? それになんだか顔色が悪そうだけど」
さきほどからずっとハンカチで鼻を押さえているが、まだ出血が止まる気配がない。由香は先ほどの俺の様態を簡単に告げ、鼻血を手当てするための氷やらを取りに行くといってリビングから出ていった。
俺はまだ体調がすぐれないし、また立ったままでいるのも何なので、適当に椅子に座った。 霧江さんは再び電話に出て、一言二言だけ言葉を交わして電話を切った。
俺は何気なしに霧江さんに話しかける。
「神社への問い合わせかなんかですか」
「いや、ちょっと学校からね。由香が昨日見た不審者についてお話したいから、明日の正午過ぎに学校に来て欲しいって」
霧江さんの言葉に俺は軽く相槌を打つ。
保護者である霧江さんまで学校に呼び出すなんて、学校側も不審者に対しかなり頭を悩ませているのだろう。今朝のHRの感じではそれほどの深刻さは感じられなかったが。
「やっぱり、由香の担任から?」
「いや、生活指導の岩村先生とかなんとか言ってたかな。お会いしたことはないんだけど、なーんか聞いたことあるような声だったんだよねぇ。まあ、そんな話はいいとしてさ、愁ちゃん」
霧江さんも腰をおろし、俺の顔を覗き込んでくる。その顔はいつになく真剣で、思わず俺も緊張してしまった。
「……神力のせいなの?」




