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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第四章
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包囲網

 俺がようやく家の前までたどり着くと、玄関の外に平島ほのかがいた。平島は俺の姿を見つけると、右手を上げ挨拶をしてくる。


「どうしたんだ、平島。あずさに用事か?」

「あずさちゃんの受験がちょうど先週終わったんで、おつかれ様を言いに来たんです。あと、水前寺くんにも用事があって……」


 平島の言う通り、ちょうど先週にあずさの中学入試試験が行われた。緊急入院というアクシデントがあったものの、あずさは持ち前の勝負強さを発揮し、当日もきちんと実力を出し切れたようだ。もともと合格確実と言われていたため、よほどのことがない限り合格は間違いないだろう。

 平島には直前まであずさの勉強を教えてもらっていた。成績云々というよりは、精神的にあずさを支えてもらっていたのだ。


「用事ってなんだ?」

「牧場さんについてです」


 俺はその言葉にピクリと反応する。


「あっくんからの大事な伝言なんです。だから、できればウリエルちゃんにも一緒に聞いてほしかったんですけど……」

「ウリエルね……」


 俺と平島の間に気まずい沈黙が流れた。

 俺は先日の出来事を思い出す。俺が話をしている最中、ウリエルは突然震えだし、そのまま理由も言わず走り去ってしまった。その直後に俺は吐血をしてしまい、ウリエルを追いかけるどころではなかった。その日の夜、俺は霧江さんにウリエルが帰ってきていないかを尋ねた。すると霧江さんは、ウリエルがつい先ほど帰ってきて、そしてすぐに出ていってしまったと告げた。


「いつもの様子からは考えられないほどの慌てっぷりだったの。そして、私がどうしたのって聞くよりも先に、突然今すぐにバイトをやめさせてくれって……。あまりにも切羽詰まっていたから、何も聞けなくってね。とりあえずウリエルちゃんの荷物と、今月分のバイト代を渡したの。それからウリエルちゃんはお礼を言って、そのままどこかへ行っちゃった……。せっかく楽しく過ごせてたのに、なんで突然……」


 それ以来ウリエルの消息は不明だ。

 平島や由香も、ウリエルのことを心配している。俺と初めて出会った時とは違い、今はバイトで稼いだお金を持っているとはいえ、やはり心配せざるを得ない。そして何よりも、なぜ突然行方をくらませたのか理由が全く分からないままなのだ。いったいどういうわけでウリエルは俺たちの前から姿を消さざるを得なくなったのか。


「ま、まあでもウリエルちゃんなら大丈夫ですよ。私たちなんかよりずっとしっかりしてますし。きっとそのうち帰ってきてくれますって!」


 平島の励ましに俺も相槌を打つ。


「そうだな。何かわけがあってそうしているんだし、俺たちが変に騒ぎ立てるべきじゃないのかもしれない。とにかく、嵐田からの伝言を伝えてくれ」

「はい、あっくんから二つの伝言を頼まれたんです。まず、一つ目。つい先日、赤川さんが組織の拘束所から逃げ出しました」


 俺は耳を疑う。赤川が逃亡だって?


「待て! それってそんな軽く話していいものなのかよ。それにどうやって……」

「どうやら組織にいる牧場さんのシンパが協力したようです。正直、水前寺くんにお話するのもためらわれるくらいの大失態なんですけど、やっぱり関係者だから話しておいた方がいいってあっくんから言われて……」


 赤川は以前、牧場を捕まえるチームの一員としてやってきた平島たちとともにこの町へやってきた。しかし、その一方でひそかに牧場と通じており、裏切り者として嵐田に捕まえられたのだ。その逮捕には俺やウリエル、さらに二十年前の霧江さんが関わっていた。


「そしてもう一つの伝言です。こっちの方が大事なんですけど、実はそろそろ牧場さんを捕まえられそうなんです」

「捕まえられそうって、あの牧場を?」


 俺の言葉に平島はうなづいた。


「はい、チェンさんの協力もあって、銀行強盗を牧場さんと一緒にやった魔術師から色々情報を聞き出すことができたんです。あと、私を含めた組織のチームが一丸となって罠を張ってですね、牧場さんの居場所を少しずつ絞っているんです」

「罠って、平島たちが以前しかけたやつか?」


 平島はこくりと首を縦に振った。


「まあでも、それよりももう少しだけ手の込んだ魔術式ですね。その罠のいくつかが牧場さんを捕捉しているんです。この調子でいけば、一週間もしないうちに牧場さんの居場所を突き止めて、そのまますぐに捕まえられそうです」


 俺は平島の言葉に思わず拍子抜けしてしまう。

 牧場風太郎が捕まりそう? あの狡猾で抜け目のない男が? 

 俺が思わずその疑問を漏らすと、平島は少しだけ苦笑いを浮かべた。


「確かに、この前は赤川さんのせいで失敗しちゃいましたけど……。赤川さんの裏切りさえなければ、あの時もきちんと牧場さんを捕まえることができてたはずなんですよ。いくら牧場さんが手ごわいと言っても、組織には優秀な人材がたくさんいるんです。時間と手間さえかければ確実に捕まえられます」


 平島の言葉に俺も納得がいく。なんだかんだ言って、平島の組織は規模も大きく、さらに魔術のプロフェッショナルがそろっているのだ。魔術関連での事件に対しては、もしかしたら警察と同じだけの対処能力があるのかもしれない。 


「なるほどな。そういえば嵐田もこのために身を粉にして働いてたもんな」

「その通り、努力の結晶ってわけなんです。まあでも、今回はチェンさんの協力のおかげで時間が短縮できたというのも事実なんですけどね」


 大きな手掛かりになったのはおそらく、稲岡大輔による情報提供だろう。一方的に利用されていた赤川とは違い、曲がりなりにも対等な立場として牧場と行動を共にしていたんだ。最後の最後に裏切られてしまったけど。

 しかし、俺はそこである素朴な疑問を抱く。


「そういえばなんだけどさ……。なんで牧場は稲岡大輔とともに銀行強盗なんて真似をしたんだ? 今回はそれが原因で居場所が見つかりそうになっているのに。俺の知る限りじゃ、牧場はもっと慎重な人間だったと思うんだが」


 平島は肩をすくませながら答えた。


「水前寺くんの言う通りです。正直、銀行強盗なんて危ない真似は牧場さんらしくありません。あっくんも逃亡生活で頭のねじが緩くなったとしか考えられないって言ってます。それに赤川さんの逃亡だってそうです。仮に逃亡に成功したところで、魔術師ではない赤川さんが牧場さんの役に立つとは思えません。ひそかに跡をつけられて、結局潜伏先が発覚する恐れだってあるっていうのに」


 平島の言葉に俺もうなづく。

 以前の牧場なら決してそのような真似はしない。牧場は確実性をなによりも求めていたし、必要最小限を超えた行動は極力控えるような人間だった。だからこそ、銀行強盗の件といい、最近の牧場にはどこか荒っぽさが感じられて仕方がない。

 確かに牧場が狙う神力を手にすれば、組織から逃げ続ける生活からおさらばできる。しかし、だからと言って牧場は無茶な手段は取らず、少しずつ慎重に目的の実現へと向かおうとしていた。組織に捕まる、あるいは霧江さんから神力によって返り討ちにされてしまえば一発でゲームオーバーだから。

 そして少なくとも、牧場はあと少しで神力を手に入れることができる地点にいるとは思えない。なぜなら、最大の難関である神力の封印を牧場には解くことができないからだ。この問題をどうにかしない限り、神力を手に入れることはできない。それなのに、なぜ牧場はこれほどまでに焦りを見せているのだろうか。俺にはその理由がわからない。


「ところで、なんですけど……。大丈夫ですか、水前寺くん? なんだか顔色が悪いようにみえるんですけど」


 その言葉に俺ははっと我に返った。平島は俺の顔を心配げな表情でのぞきこんでいる。


「あ、ああ。最近調子が悪くってな。でも、そんなに気にしなくていいから」

「あんまり顔色が悪いから、献血にでも行ってきたのかと思いましたよ」


 俺は脈略のない単語に首を傾げる。


「なんだよ、献血って」

「いや、学校の帰り道に献血バスが止まっていたのをちょっと思い出しちゃって。町中ではなかなか見ませんからね」


 考え事をしていたせいか、そのような献血バスに気が付かなかった。確かにここらへんでは見かけないから、印象に残るのもうなづける。

 平島は時計を確認し、もうそろそろ嵐田と打ち合わせをしなければならない時間だと言った。


「ちゃんと身体は大事にしなくちゃいけませんよ」


 平島は別れ際にそれだけ伝え、家に帰っていった。俺も平島を見送った後、玄関の扉を開け、家に入っていった。 

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