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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
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人海戦術

「ああ、わかった。あとから病院に行く。じゃあ、電話切るぞ親父」


 俺がそう言いながら電話を切ると、すぐそばにいたウリエルが声をかけてきた。


「どうだった、妹の容体は」

「今さっき突然目が覚めたって。これから検査を始めるそうだけど、神力の力が本物なら心配いらないだろう」


 俺はそう伝えながら、今まで重く乗しかかっていた肩の荷がどさりと落ちたような気がした。

 よかった、あずさが目を覚まして。

 俺の安心した様子を見てウリエルも胸を撫で下ろしたようだ。しかし、すぐさま表情を切り替えて言った。


「余韻に浸りたいのもわかるが、まだ問題は残っている。とにかく、魔術式を消しに行くぞ」


 俺はうなづき、母屋に平島を呼びに行った。ウリエルは、準備のため由香が寝ている小屋へ向かった。平島と霧江さんは時間を忘れて盛り上がっていて、俺たちが十分程度戻ってこなかったことをそれほど気に留めていない様子だった。俺にもっとゆっくりしていくよう勧める霧江さんを振り切り、俺は平島を連れて外に出る。

 俺たちはそのままウリエルのいる小屋に入っていった。中ではウリエルがテーブルに地図を広げていた。どうやら由香は部屋の奥に移動させたらしい。俺たちはそれぞれ地図を受け取った。この町が詳細に書かれた地図だ。三人にそれぞれ一枚ずつ、計三枚ある。


「へぇ、こんな地図があるんですね。知りませんでした」


 平島が物珍し気に地図を眺めている。


「……役所に行けばもらえるんだ」


 まあ、俺も一昨日までこの地図の存在なんて知らなかったわけだが。ちなみに、この三枚の地図のうちの一枚は俺がカンパニーの魔術師に返し損ねた地図だ。ちょうど学ランのポケットの中に入ったままだったので、昨日のうちにウリエルに手渡していたのだ。これがこんなところで役に立つとは思わなかった。


「二人ともそろそろいいか。テーブルの地図を見てくれ」


 俺たちはウリエルの地図を見る。その地図上には多くの黒点が印されていた。黒点を大体の目安でつなげると、それは横の直線が平衡に三つ浮かび上がるのが見て取れる。


「この黒点の位置が魔術式の場所だ。几帳面にも等間隔に書かれているようだ」

「やりましたね、水前寺くん。私たちの作戦通りじゃないですか


 平島の言葉に俺はうなづく。この計画を思いついたのは俺だが、しかし、それには平島の力が不可欠であったことは事実だ。平島には感謝してもしきれない、と俺は心の中でつぶやいた。


              









「昨日の話、本当なんですか!? この前の銀行強盗が放火計画を企ててるって!」


 今朝、平島は俺に会うなりそう問い詰めてきた。昨日に引き続き、今日も俺は平島に少しだけ早く家を出るように頼んだのだ。もちろん待ち合わせ場所と目的は違う。


「ああ、本当だ。魔術式を使ってあちこちを同時に放火するつもりらしい。どうにかしないとまずいことになる」

「でも、発動時間は今日の日没なんですよね? あっくんとかに急遽連絡を取ったんですけど、やっぱり急すぎて応援が間に合わないようです」


 慌てふためく平島をなだめるように俺はゆっくりと喋った。


「それはわかってる。だけど、どうにかするしかない。そのために協力してくれ平島」

「きょ、協力っていきなり言われましても」

「とりあえずは、俺の言うことに話をあわせてくれるだけでいいんだ。歩きながら話す」


 俺は学校に向かうと平島に告げた。平島もわけがわからないまま俺についてくる。


「あれ、水前寺くん。なんで封筒なんて持ってるんですか」


 平島は俺が右手に持つ封筒に目をつけ尋ねた。


「これを作戦に使う。ああ、そうだ。できれば、今すぐ転校してきたときに使ってた『印象操作』の魔術を自分自身にかけていてくれないか?」

「それくらいやりますけど。でも、いったい何をしようとしてるんですか?」


 平島の顔に明らかな戸惑いが浮かぶ。しかし、一から作戦を伝えようとしたその時、俺は目の前に今回の作戦における重要人物が歩いているのを発見した。学校で待ち合わせをしていたのだが、偶然にも通学路で出会えたようだ。

 俺はその人物の元に駆け寄り、後ろから声をかける。


「おっす、権田」


 権田はゆっくりと俺の方へ振り返った。


「おお、水前寺か。通学路で会えるなんてな。わざわざ待ち合わせ場所にいく手間が省けた」


 平島が遅れて駆け寄ってきて、権田に元気よく挨拶をする。権田も平島を見るやいなや口元を緩ませ、機嫌よく挨拶を返した。しかし、権田は緩んだ気を引き締まるかのように咳ばらいをし、俺に向き直る。


「ところで水前寺。昨日お前が連絡したことは本当なのか?」

「ああ、ここにいる平島ほのかが今現在とても困ってるんだ。ファンクラブ会長であるお前の力を貸してほしい」

「わ、私!?」


 すっとんきょうな声をあげた平島に俺は目配せをした。平島はさっきの約束を思い出したようで、慌てて言いなおす。


「そ、そうなんです。私とっても困ってて……」


 平島の言葉に権田は腕を組み、感慨深くうなづいた。


「ほのかちゃんが困っているというのなら、ファンクラブ会長として見過ごすわけにはいかない。では、水前寺。昨日言っていたものを渡せ」


 俺は封筒から百枚程度の紙束を取り出し、その半分を権田に渡した。平島は中身が気になったのか、一枚だけ俺から受け取った。


「こ、これって……迷いネコのポスターですよね? あれ、この裏に書いてあるのって……」


 平島は権田に聞こえない程度の音量でつぶやく。

 そうだ。これは平島の言う通り迷いネコのポスターに違いない。紙には黒い猫の写真とその下に猫の特徴や連絡先が書いてある。一見、何の変哲もない迷いネコのポスターだ。まあ、もちろん少しだけ細工はしてあるけれど。


「先週から平島の可愛がってた猫が行方不明になってるんだ。だから、平島ほのかファンクラブ会員全員で、このポスターを町中に貼ってくれ。それも今日中に、だ。今日は午前で学校が終わるし、その帰りにも張ってくれればいい。頼んだぞ、権田。今日中だからな」

「当たり前だ。ほのかちゃんのためなんだからな。力づくででも、そうさせるさ」


 俺が咳ばらいで合図を送ると、平島も権田に向かってお願いしますと頭を下げた。

 権田は再び顔を緩ませた後、これから朝練で走り込みがあると言って立ち去っていった。走り込みの途中でもこのポスターを貼ると約束してくれた。俺たち二人はそのまま権田の背中を見送る。

 権田が曲がり角を曲がり、完全に姿が見えなくなった後、平島はポスターを俺に突き付けて言った。


「水前寺くん。このポスターの隅に書かれてるのって、『探知』の魔術じゃないですか?」

「ああ。ウリエルに書いてもらったんだ。うまくいけば、魔術式の場所がわかる」


 魔術式の場所さえわかれば問題は解決する。それには多くの協力者が必要だった。しかし、魔術式なんてふざけたものを信じてくれる人はなかなかいない。だからこそ、魔術式について伏せた状態で協力してもらうんだ。平島の力を借りて。

 作戦は単純だ。

 ウリエルに探索範囲を可能な限り広げた『探知』の魔術式を紙に書いてもらう。探知した魔術式の場所が町の地図上に点として浮かびあがるような工夫をしたうえで。

 その魔術式をパソコンで読み取った後、適当に作った迷いネコのポスターの端っこに画像としてくっつける。あとはそれを百枚程度印刷すれば完成だ。

 協力者として思い浮かんだのは平島ほのかファンクラブの会員。権田を筆頭に、平島が困っていると言えば、なんだってしてくれそうだと思ったのだ。会員全員がポスターを貼る。それと彼らの通学路からは外れるであろう箇所を俺が学校をさぼってカバーする。こうすれば町中全体にポスターを貼ることができ、魔術式の場所を特定できるというわけだ。


「それにしても、このポスターを見て本当に連絡が来たらどうしましょう?」

「大丈夫だ。写真はネットから探してきたものだし、連絡先もでたらめだからな。……それに平島が言う猫はもしかしたら町中にはいないかもしれないしな。じゃあ、俺はこれから着替えて、町にこのポスターを貼って回りに行くから」


 平島は手伝ったほうがいいかと聞いてきたが、その必要はいらない答えた。俺がカバーする場所は案外狭い。一人でも十分に回りきれる。俺は平島に学校が終わった後霧島神社に来るように伝え、学校とは逆の方向へ走り出した。

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