表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
63/95

封印解除

「安心しろ、しばらくは起きない。飲み物の中に睡眠薬を入れておいたからな」


 ウリエルはそういうと、由香を抱き起こし壁にもたれかけさせた。そしてポケットから裁縫用の針とライターを取り出し、ライターに火をつけ、針の先端をあぶって殺菌をする。


「血を飲む作業っていうのは、ウリエルがやってくれるのか?」

「お前にやらせるわけにはいかないだろ」


 ウリエルは由香の左手の人差し指をつかみ、そして加熱殺菌が施された針で指の腹を刺した。睡眠薬がよく効いているのか、由香は目を覚まさない。針を抜くと、刺した箇所からジワリと血がにじみ出てくる。ウリエルはその様子をじっと眺めたのち、ゆっくりと由香の左の人差し指を口にくわえた。

 俺はなんだか見てはいけないものを見ているような気がしてその光景から背中をそむける。そのまましばらく沈黙が流れた。


「もう終わったぞ。別に目を背ける必要もないだろうに」


 その言葉を聞き俺が振り返ると、ウリエルが由香の人差し指にばんそうこうを張っていた。目覚めるころには傷もふさがっているはず、とウリエルはつぶやく。


「本当にそれっぽっちの血で大丈夫なのか?」

「一応他の方法も考えているが、これで大丈夫なはずだ。とにかく試してみよう」


 由香を再び寝かし、俺たちは小屋の外へ出た。

 神力の封印を解くため倉庫に向かうのかと思ったが、ウリエルは本殿の元へ向かうと言った。


「神力の封印は倉庫にあるんじゃなかったのか」

「他の場所にもあるんだ。むしろこっちの方が都合がいい」


 俺は黙ってウリエルについて行き、本殿の目の前に来た。ウリエルは賽銭箱の片端に近づき、俺に反対側を持つように指示する。

 言われた通り俺は反対側を持った。


「もしかして、これも神力の封印なのか?」

「封印の一角と言った方が正確だな。これを私がある方向へずらすことで、封印が解けるはず。掛け声とともに持ち上げるぞ。私の言う通りの方向に動かすんだ」


 ウリエルの掛け声に合わせ、賽銭箱を持ち上げる。見た目の重量感とは裏腹に、賽銭箱は簡単に持ち上がった。そのまま賽銭箱を横にずらしていき、ウリエルがもういいといったところで下す。

 ふと賽銭箱があった場所に目をやる。するとその場所には漢字のような文字がびっしりと書かれたあるのが見え、俺は思わず声を漏らした。


「おいおい、一回この下をのぞいたことがあるが、こんな気味の悪いものなんてなかったぞ」

「私たちで言う、魔術式のようなものだろう。これが現れたということは、これで神力の封印が解けたと考えていい」

「作戦成功ってことか」


 ウリエルがうなづいた。正直実感はわかない。


「お前の言う通りになったな。じゃあ、さっさと願い事を済ませよう」

「ああ。そうだな……」


 ウリエルがどこか浮ついた表情のまま答えた。この状況で別のことを考えているのか。俺がもう一度声をかけると、ウリエルはびくっと肩を震わせて返事をした。


「なんだよ。昨日の夜から少し変だぞ。何か気になることがあるのか?」


 しかし、ウリエルは慌てて首を横に振る。


「いや、別になんでもない。ただ別の考え事をしていただけんだ。とにかく、霧江さんがほのかの相手をしているうちに願い事を済ませるぞ。内容は昨日話し合ったものでいいんだな?」

「ちょっと待ってくれ。一つ思いついたことがあるんだ」


 俺がそう言うと、ウリエルは不思議そうに俺を見つめた。


「さっきウリエルは逃亡犯の行動が予測できるって言ったよな。今もまだそれはできるか?」

「ああ、今もまだやつは町中にいる。どうやら発動時間ぎりぎりまで魔術式の数を増やすようだぞ。しかし、それがどうかしたか? 今からやつを捕まえてもらえるように願い事をするんだろ?」


 平島には逃亡犯の存在を注意していたのだが、俺の計画がうまくいった場合には神力によってやつを捕まえてもらうことになっていた。それは逃亡犯をそのまま野放しにしておくことはできないこと、そしてやつの居場所が見当もつかないことから結論付けた内容だった。

 しかし、やつの場所がわかるとなったら話が別だ。


「神力に直接やつを捕まえてもらう必要がなくなったということにならないか? 場所がわかるなら、その場所に行って直接捕まえることができるんだし」


 俺の意見にウリエルは眉をひそめる。


「わからないことはないがな。しかし、逃亡犯をどうやって捕まえるんだ? やつは魔術師で武器を持っているかもしれない。それに、そこまでの危険を冒すメリットがない」

「いや、メリットはある。やつから牧場の情報を聞き出せるというメリットだ」


 昨日決めた願い事の内容は、俺がおととい出会ったカンパニーの魔術師にやつを都合よく捕まえさせるというものだった。

 カンパニーの魔術師にはまだ逃亡犯が牧場とつながりがあるということを知らない。連絡手段はなく、伝えることもできない。そのまま先に逃亡犯の身柄を渡した場合、やつから牧場の情報を引き出すことが不可能になってしまう。

 牧場の情報を得るためには嵐田にそれを任せるのが一番なのだが、嵐田は現在この町におらず、また嵐田に再び神力の効力を見せつけることになってしまう。嵐田の勘の鋭さ、そして魔力の消費をできるだけ抑えなければいけないという事情を考えれば、この作戦はあまりよろしくない。


「お前の言いたいことはわかった。確かにお前の言うことにも一理ある」

「魔術式を消し終わった後、そいつのもとに俺が行く。そして、その時点で逃亡犯を捕まえ、俺が牧場について聞き出す。捕まえ方については一つ考えがあるんだ」

「わかっているとは思うが、願い事は自分の魔力量の限度でしか叶えることができないんだぞ。その基準はクリアしているのか?」


 俺は大丈夫と答え、その作戦の概略を伝えた。ウリエルは少しだけ考えた後、不承不承認めてくれた。

 霧江さんが俺たちが来ないのを不審に思い、外へ出てこないとも限らない。早めに願い事を生ませる必要がある。俺は五円玉を二枚取り出し、一枚をウリエルに渡した。


「とにかく、時間がない。ウリエルはあずさの心臓病回復を願ってくれ」


 しかし、俺の言葉にウリエルは少し黙り込む。

 やはりさっきから様子がおかしい。俺がそのことについて尋ねようとしたとき、ウリエルはゆっくりと首を縦に振った。


「わかった。私が病気の回復について神力に願い事をしよう。しかし」


 ウリエルは俺に向き直って言った。


「本当に私が願っていいのか? 私が裏切って別のお願いをするのかもしれないんだぞ」


 俺は少しだけ驚いた後、ウリエルの目を見つめて答えた。


「逃亡犯を捕まえるための願い事は俺にしかできない。それに、今回はお前が手伝ってくれなければ神力の封印さえ解けなかったんだ。今さら信用できないなんて馬鹿げているし、お前に対して礼を欠くことになる」

「……なるほどな。そこまで言うなら、私がそのお願いをしよう」


 ウリエルは納得しきったのか、そこでいったん言葉を切り、俺をじっと見つめながらつぶやいた。


「しかしな、水前寺。今回の放火計画の件もそうだが、そのようなことばっかりしているといつか痛い目に遭うぞ」

「……ご忠告ありがとうな」


 俺は五円玉を賽銭箱に投げ入れると、ウリエルもそれに続いた。

 そして、別に作法を守る必要はないのだが、俺は手を合わせ目をつぶる。そして、神力への願い事を口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ