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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
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決行の日

 俺は自転車を霧島神社の駐輪場に置き、今の時間を確認する。時刻は正午過ぎ。魔術式の発動まではまだ時間がある。俺は階段を駆け上り、神社の境内に入った。

 神社の本殿前にウリエルと、学校帰りの平島ほのかの姿が見えた。俺が二人の元に駆け寄ると、平島が声をかけてくる。


「待ってましたよ、水前寺くん。というか、汗がすごいですね。ずっと自転車で走り回ってたんですか?」


 俺は袖で汗をぬぐいうなづいた。


「やっぱり、私も学校さぼってお手伝いした方がよかったんじゃないですか?」

「いや、それについては大丈夫だ。どっちにしろ一人増えたところで変わりはないからな。…それで、ウリエル。計画はうまくいってるのか?」


 俺がウリエルに尋ねると、ウリエルは少しだけ戸惑いの表情を浮かべた。ウリエルの反応に俺は一瞬身体を強張らせる。


「し、失敗なのか?」

「いや、その逆だ。何というのかな。あきれるくらいに計画がうまくいっている」


 ウリエルの言葉を聞くとともに、俺の口から安堵のため息がこぼれる。というのも、俺が思いついたアイデアがうまくいかなかった場合、ウリエルの提案通りに作戦を実行すると決めていたからだった。つまり、平島に神力について打ち明け、神力へのお願いを手伝ってもらうという作戦だ。

 しかし、一か八かの俺の作戦は成功した。これで平島に神力の秘密を打ち明ける必要がなくなった。肩を撫で下ろす俺に対し、ウリエルはさらに言葉を続ける。


「水前寺の作戦どおり、魔術式の場所が大体把握できた。しかも、だ。嬉しいことに、魔術式の場所が規則に基づいてきれいに配置されている。消して回るのに好都合だ。ランダムに魔術式を書いているかと思ったんだがな、意外にも逃亡犯は几帳面な性格をしている」

「どれくらいの時間がかかるかわかるか?」

「三人で分担して効率的に回れば、三時間もかからないな。発動までに十分間に合う」


 発動は日が完全に暮れた瞬間。思った以上に時間があることに俺は拍子抜けした。ここまでうまくいって大丈夫なのかとさえ思えるほどだ。


「あと、もう一つだけ。逃亡犯は今もまだ魔術式を書いて回っているようだ。先ほどから一定の間隔で魔術式が増えていっている」

「え、それって大丈夫なんですか。私たちが消して回っている間に出くわしちゃったりしたら……」


 平島が心配そうにウリエルを見つめる。


「その心配はいらない。さっき規則的に書かれていると言っただろ? だから奴の行動を大雑把に予測できる。私が鉢合わせにならないように上手く指示してみせる」


 逃亡犯の行動が予測できるだと。その情報ってかなり重要なんじゃないのか。しかし、俺の思考は平島の声によって遮られた。


「やりましたね、お二人さん! それじゃあ、早速魔術式を消しに行きましょう!」

「いや、そのことなんだがな、ほのか」


 意気込む平島をウリエルがなだめる。

 そうだ。俺の計画がうまくいったからと言って、問題がすべて解決したわけじゃない。間髪入れずに次の計画を実行しなければならないのだ。つまり、霧江さんの目を盗み神力の封印を解くという作戦を。


「ここまで来れば、もう時間に余裕がある。ほのかも学校が終わったばかりだし、もう少しのんびりしてからでも構わないのではないか?」

「何言ってるんですか、ウリエルちゃん! そんなの放火計画を止めてからでいいじゃないですか!」


 平島に言い返され、ウリエルがたじろぐ。もう少しうまい言い訳を考え付かなかったのかと俺は心の中で突っ込みを入れた。

 霧江さんの目を盗む。霧江さんは病弱で、家の中にいることが多い。だから、俺たちが外で何かをしていても、それがばれてしまう可能性は低い。しかし、万が一俺とウリエルが神力の封印を解いている姿を見られた場合、計画が一気におじゃんになってしまう。そのために、霧江さんを十分程度家の中に縛り付けておく必要がある。そして、そのために平島が必要なのだ。


「まあ、平島。俺もさっきまで自転車で駆けまわってきたから、もう少し休まなくちゃいけない。それに、ウリエルの家に行ったことないって言ってただろ。これを機会に、お邪魔してみたらどうだ」


 フォローのつもりで俺が平島に話しかける。

 すると、平島も俺の言うことももっともだと考えたのか、母屋の方へ寄ることに渋々同意した。

 ウリエルと俺は早速平島を母屋の方へ連れていき、玄関を開ける。すると、中から音を聞きつけた霧江さんが出てきた。そして、平島の姿を見るやいなや、驚きの表情を浮かべ、そしてすぐにこれ以上ないくらいに顔全体をほころばせた。


「どうもおじゃまします。私、ウリエルちゃんの友達で平島ほのかって言います」


 平島の挨拶を聞き終わらないうちに、霧江さんは平島に近づき、その手を握った。


「ふふふ、初めましてほのかちゃん。私は霧島霧江って言うの。よろしくね」

「霧江……さん?」


 平島は目を見張った。


「どうしたの?」

「私にもちょうど霧江っていう名前の友達がいるんですよ! 珍しい名前なのに、こんな偶然あるんですね!」


 興奮して話す平島に対し、霧江さんは目を細めながら相槌を打つ。二十年ぶりの再会なんだ、うれしくないはずがない。二人はそのまま会話を弾ませ始めた。以前とまったく同じように、二人は早くも打ち解けあったようだ。

 霧江さんはそのまま平島に中に入るように促し、平島もそれに従う。


「ほらほら、二人も早く中に入った」


 ご機嫌な霧江さんに、俺は自転車のカギを閉め忘れたのかもしれないと嘘をつき、少し外へ出てくると告げた。ウリエルもその場を離れるため、俺と同じように適当な嘘をつく。

 すぐに戻るからと霧江さんと平島に言ってから、俺たちは外へ出た。


「とりあえず、これで霧江さんはしばらく外へ出てこないだろう」

「ああ、平島も中に入れることができたし。それに二人が再会できてなによりだ。次は由香から血を採取する作業か……」

「それは大丈夫だ。すでに手筈は整えてある」


 ウリエルはそういうと、神社の本殿のすぐそばにある小屋へ俺を案内した。普段お守りなどを売っている小屋で、中に売り子がくつろげるスペースがある。俺たちが中に入ると、そこでは霧島由香が畳の上ですやすやと眠っていた。

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