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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
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願い事の内容

 しかし、ウリエルの言うことが正しい場合、願い事を何にするのかをかなり慎重に決めなければならない。二つ以上の願い事だけでなく、一つの願い事だって魔力が足りず、不完全に願い事が叶えられてしまうことだってありえるのだ。


「とにかく、私たちがやらなければならないことを整理しよう。さっき水前寺が述べた願い事を優先度が高い順に並べるとこうだ。

 1、水前寺あずさの心臓病を治す

 2、町中の魔術式を消し、放火を防ぐ

 3、逃亡犯を捕まえる

 4、牧場風太郎の居所を突き止める

私か水前寺が1をお願いするとして、問題はその他だ」


 ウリエルはさらに続けて話す。


「まず2に関して。正直私たちどちらかの魔力量で実現できるか微妙なところだが、ここは神力の最小魔力量で願い事を実現させるという原則を信じるしかない。しかし、1と2を私と水前寺でお願いした場合、3と4はお願いできなくなる。最悪牧場に関しては諦めるとしても、逃亡犯をそのままにしておくことはかなり危うい」


 ウリエルの言葉に俺は納得する。


「確かにな。たとえ今回の放火計画を防げたとしても、逃亡犯が同じことをやろないとは限らない。やつを追っているとかいうカンパニーの魔術師が捕まえる前に、もう一度魔術式を書かれてしまったら終わりだ」

「カ、カンパニーの魔術師だと?」


 俺の言葉にウリエルが突然驚きの声をあげた。

 そういえばウリエルには言っていなかったな。俺は逃亡犯が元カンパニー所属の魔術師であり、また別の魔術師がそいつを捕まえるためにこの町にやってきていることを伝えた。


「カンパニーの魔術師なら、お前の知っている人間かもしれないな」

「あ、ああ。そうだな……」


 ウリエルは何か考え込むようなしぐさをしたのち、小さな声でつぶやいた。


「まさかな……」


 その言葉を聞き、俺はその二人の魔術師の名前を言おうと思った。しかし、ウリエルは意図的に話題を避けようとするかのように俺の言葉を遮り、言葉を続けた。


「まあ、その魔術師が今日明日中に逃亡犯を捕まえるとは考えられない。一週間以内に捕まえたとしても、その間に逃亡犯がすでに新たな魔術式を書き終わっているかもしれない。やはり、何とかして計画をつぶすとともにそいつを捕まえる必要がある」

「でも、それは無理なんだろ? 願い事は二つしかできないってさっき言ったはずだ」

「いや、一つだけ方法を考え付いた」


 ウリエルはそこで間を空ける。


「ほのかの力を借りればいい」

「平島の!?」


 俺の動揺をなだめるようにウリエルは一言一言確かめるかのように説明する。


「簡単な話だ。願い事を二つしか叶えられないのは、魔力を持っている人間が二人しかいないため。ならば、もう一人魔術師を用意すればいい話だ。そして、私たちの周りで協力してくれる魔術師はほのか以外に存在しない」

「でも、平島は神力のことなんて知らない。確かにあいつのことだから協力はしてくれるだろうけど、それってつまり……」

「そうだな。たとえ秘密にしておいてくれと頼んでおいても、いつか嵐田にばれてしまうかもしれない」


 ウリエルはなんてことないかのように話した。

 ウリエルの言うことは正しい。確かに平島にも願い事をするよう頼めば、今の問題は解決に向かう。しかし、平島が神力の存在を知ることになれば、嵐田にそれが伝わってしまうのは避けられないような気がする。こちらが協力を申し出る以上、平島が秘密を守らなければならない義理はないし、たとえ秘密にする約束をしたとしても、平島がうっかり嵐田に漏らしてしまうことは大いにあり得る。というか、その光景が目に浮かぶ。


「リスクは承知の上だ。これ以外に方法がない」

「ちょっと待ってくれ。もしかしたら、他に方法があるかもしれない。結論付けるのはまだ早いぞ。そうだ。神力を頼らないで町の魔術式を消したり、あるいは逃亡犯を捕まえることはできないか? どちらか一つでも可能なら、願い事は二つで事足りる」

「確かにその可能性については考えてなかったな。しかし、町に潜んでいる逃亡犯を捕まえることも、いくつあるかもわからない魔術式を消すのも難しいように思えるが」


 逃亡犯は町に潜んでいる。もちろん『印象操作』の魔術を使っているだろう。その魔術に消費した魔力が少なければ、俺にも逃亡犯の確認はできるが、問題はどこに隠れているかがわからないということだ。カンパニーから派遣されたあの魔術師なら何か手がかりをつかんでいるかもしれない。しかし、残念ながらやつと連絡を取る手段はない。

 では、魔術式のほうはどうだ。魔術式がある場所さえ突き止めることができれば、それを消すのに神力を頼る必要もない。その時、俺はあることを思い出した。


「ウリエル。今日俺が見た『探知』の魔術とやらで町中の魔術式を見つけることはできないのか? 確か俺と別れた後にそれを使って魔術式を探しに行ってたよな」


 『探知』の魔術。その名の通り、魔術式の場所を探し当てる魔術だ。確かウリエルは今日、その魔術式は消費魔力がないに等しく、さらにやろうと思えば探知範囲をずっと広げることができると言っていた。俺とウリエルがその魔術式を持ち、町中を自転車で回る。そして、しらみつぶしに魔術式を消していく。いわゆるローラー作戦ってやつだ。

 しかし、ウリエルは俺の作戦を否定する。


「確かに着眼点はいい。お前の言う通り、『探知』の魔術で町の魔術式を探すことはできる。しかし、だ。時間と労力が足りない。平島にも協力してもらうとしても、たった三人で町全体を一日、いや半日程度で回り切ることはできるのか? いくら自転車と言っても移動時間がかかりすぎる。魔術式の場所がすべてわかった状態でやっと、発動時間に間に合うかどうかじゃないのか。それに、もう一つ気になることがある」

「なんだよ気になることって」


 嫌な予感がしつつも、俺はウリエルに聞いてみる。


「お前と別れた後に見つけた魔術式。解読の結果、ちょうど今日の朝に書かれたものだということがわかった。つまり、逃亡犯は明日発動する魔術式を今朝にも書いていた。ひょっとしたら今この瞬間にも逃亡犯は魔術式を書いているのかもしれない」


 なるほど。時間をかかりすぎては、その間に別の魔術式が作られてしまうかもしれないということか。一つか二つ程度ならばとるに足らないのかもしれないが、それが四つ五つになると大変なことになる。

 俺はそこで考えを整理してみることにした。

 まず逃亡犯を捕まえることについて。しかし、第一に逃亡犯の居場所がわからない。それに嵐田は明後日の夜まで帰ってこれないと言っていた。そうした場合、俺たちだけで危険人物を捕まえることができるのか? 相手は成人男性で、しかも魔術師だ。写真で見た限り、牧場みたいにひょろひょろというわけでもなかったはずだし。平島が武闘派と呼んでいたカンパニーの魔術師なら捕まえることができるだろう。それに逃亡犯についての手がかりをすでに手にしているかもしれない。しかし、連絡を取ることができない。

 次に魔術式を消すことについて。『探知』の魔術を使うのは我ながらいい考えだと思ったが、時間と手間がかかりすぎるという点で非現実的だ。

 やはりウリエルの言う通り、平島に神力のことについて打ち明けるしかないのか。


「もう手詰まりだ。やはり平島の力を借りるしかない」

「他に方法はないのか」

「考え付かないな。逃亡犯を探すにも手がかりがない。それに魔術式を消すにしても、たった三人じゃ時間が足りなさすぎる。人手が十分にあれば可能なのかもしれないが、魔術なんて突拍子もない話を信じてくれる人間はいないしな」


 しかし、ウリエルの言葉を聞いたその瞬間俺はあるアイデアを思い付いた。こんなしょうもない発想でうまくいくのか。いや、だけどもしかしたら。

 俺はその可能性を頭の隅に置きつつ、ウリエルにあることを尋ねた。


「おい、ウリエル。さっきの『探知』の魔術式についてなんだけど。こんなことってできるか?」


 俺は疑問をウリエルにぶつけた。俺の言葉にウリエルは眉をひそめる。できないのかと一瞬身構えたが、ウリエルは可能だと返事をした。


「なんだ、水前寺。なにか思いついたのか?」

「正直言って自信はない。しかし、やってみる価値はあるのかもしれない」

「いったいどうするつもりだ」


 ウリエルと向き合い、俺は答えた。


「平島の力を借りるんだよ」

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