表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
60/95

神力の仕組み

 霧島家の血を体内に取り込む。それだけで霧島家の人間だと見なされる。傍から見れば、ぶっとんだ理論であることは間違いない。しかし、そのウリエルの推理はなぜだか妙に説得力があるように感じられた。


「血を取り込むって言ったって、どうするんだよ。口から摂取するだけでいいとはいえ、どうやって霧島家の血を手に入れるんだ?」

「それは簡単だろう。霧江さんからは無理でも、由香から血をもらえばいい。少々荒っぽくはなるが、薬で眠らせている間にその作業をすれば問題ない。

 計画はこうだ。霧江さんの注意をそらしておく。その間に眠らせていた由香から血を採取する。その血を飲んだ状態で神力の封印を解き、お願いをする。そして霧江さんに知られてしまう前に再度封印をかける」


 血は少量でいい。だとすれば、針か何かで由香の一部を刺し、そこから流れた血を一滴だけ拝借すれば事足りるということか。

 ウリエルの推測。そして、それを実行に移すための計画。どちらの論理も危ない綱渡りであることは確かだ。それでも、神力の封印を解くことへの道筋がわずかながら見える。俺はその可能性に気分が高揚し始める。


「完ぺきとは言えない。それでも、神力の封印さえ解くことができれば、あずさの病気も魔術式のテロもすべて解決できる!」


 しかし、ウリエルはなぜか浮かない表情のままでいる。不審に思った俺はウリエルにどうしたのかと尋ねた。


「まだだ。さっきの計画がうまくいき、神力の封印を解くことができたとしてもだ。まだ問題が残っている」

「なんだよ、問題って」

「神力に何をお願いするかだ」


 神力への願い事だと。俺はウリエルの言っていることが理解できなかった。神力はあらゆる願いを叶えてくれる究極の力だ。その力を使えるのならば、問題は解決したのも同然じゃないのか。


「何をお願いするかって、簡単じゃないか。あずさの病気を治すこと、町中に仕掛けられた魔術式を消すこと、そして逃亡犯を捕まえること。この三つを全部同時にお願いしたらいい。いや、待てよ。この際、牧場の居場所やらについても神力に聞いた方がいいのかもしれない」


 生き生きと語る俺にウリエルは冷たい水を浴びせかけた。


「それは無理だ」

「なんだよ、無理って」

「忘れたのか、水前寺。神力は願い事をした人間が持つ魔力の限度でしかその力を発揮してくれないということを」


 俺は息を飲み込む。そうだ、すっかり忘れていた。願い事は魔術量に制限されてしまうという事実を。


「さすがにそれを一人でお願いすることは無理だ。魔力を持つ私と水前寺が一個ずつお願いする必要がある」

「一つずつっていうのはさすがにビビりすぎなんじゃないのか? 俺に魔力がどれだけあるのかはわからないけど、せめて二つくらいをどっちかが一緒にお願いすることはできるはずだ」


 しかし、ウリエルは首を横に振る。


「リスクが大きすぎる。チャンスは一度きりなんだぞ。二つをお願いして、魔力が足りず、叶えてもらえなかったらどうするんだ。霧島神社にいたままじゃ、その願い事が実現したのかさえ分からないってのに。それにだ、一つ気になることがある」

「なんだよ気になることって」

「神力の効力についてだ。水前寺。お前が一番最初に神力に叶えてもらった願い事を覚えているか?」


 思いがけない言葉に俺は心臓が止まりそうになる。一番最初に叶えてもらった願い事だって。そんなもの忘れるはずがないじゃないか、俺の黒歴史だぞ。

 しかし、願い事を話すよう命令されると思いきや、ウリエルは全く別の言葉を真剣な表情で口にした。


「別にいますぐそれについて話せと言うつもりはない。ただ、確認したいことがあるんだ。水前寺のその願い事、それは本当に、そっくりそのまま実現したのか? 一言一句、正確な状態で?」







―――どうか、黒髪ショートの美少女が突然空から降ってきて、悪の組織から彼女と一緒に逃避行を行う、そんな展開が訪れますように。







 俺はあの黒歴史をできるだけ忠実に思い出してみる。今の今まで気にもしていなかったが、果たして俺の中学時代の願い事は果たして実現したと言えるのか?

 黒髪ショートの美少女が突然空から降ってくる。これは叶えられた。ウリエルは俺が登校中、突然地面に倒れた状態で現れて……。いや、違う。ウリエルは空から降ってきていない! それに悪の組織についてはどうだ? 嵐田と赤川。あいつらが俺の願い事で言う悪の組織の人間のはず。しかし、それもおかしい。二人は悪の組織の人間ではない。俺が初めてやつらと対面した日、嵐田は言ったはずだ。俺たちは別にやくざなんかじゃない、と。

 俺はその事実を確認した後、ウリエルの顔を見て答えた。


「……言われてみればそうだ。神力は俺の願い事を忠実に叶えていない。むしろ中途半端と言うか、形だけが願い事と一致しているという感じだ」

「なるほどな」


 ウリエルは納得したような表情を浮かべている。


「どういうことだ? 神力にも叶えることのできない願い事があるっていうことなのか」

「違うな。神力自体には、水前寺の願い事を実現するだけの力が備わっているはず。願い事が忠実に実現しなかったのは、単に水前寺の魔力が足りなかったということなんだろう」


 確か、牧場は人を物質移転させるだけでも相当な魔力量が必要だと言っていた気がする。そう考えた場合、三人を移転させるだけで俺の魔力のほとんどを使い切ってしまったということか。


「そして、このことからある一つの仮説が立てられる。神力は魔力量以上の願い事に対しては、それをキャンセルするのではなく、魔力量が許す限度でだけ、その願い事を叶えようとする特性があるということだ」


 俺はそこで初めて、ウリエルが二つ以上の願い事をすることに反対しているのかを理解した。


「なるほど。俺が二つの願い事をし、それが魔力量オーバーだった場合、神力は俺の魔力の限度でなんとかその二つの願い事を叶えようとする。しかし、それがどの程度なのかはわからない。どちらか一つだけを叶えてくれるのかもしれないし、もしかしたら、その二つを中途半端な形で叶えようとするかもしれない。それだと結局放火を完全に防ぐことができなかったという事態になりかねない」


 俺の言葉にウリエルが付け加える。


「それに、だ。願い事は張本人の魔力を消費して実行される。願い事が上手くいかなかったら、違う願い事を改めてするということはできない」


 願い事ができるチャンスは一回きり。失敗は許されない。神力そのものが得体のしれないものである以上、常に最悪の事態を考えて行動しなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ