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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
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霧島家の血

 俺はウリエルの顔をまじまじと見つめる。俺はウリエルが冗談を言っているのかと思ったが、その表情は何かを決意した凛々しいものだった。

 封印を騙すとはいったいどういう意味なのか。


「ずっと疑問に思っていた。神力の封印はどうやって霧島家の人間と霧島家の人間以外を峻別しているのか」


 俺はウリエルの言葉の意味を考える。

 確かに言われてみればその通りだ。超自然的な力であるがゆえにそのような疑問を今まで抱くことはなかった。

 ウリエルや平島がいつも説明している魔術は、俺が思っている以上にシステマチックに動いている。そして思い返してみれば、神力も魔術と同じように動いている。例えば、最小の魔術量で願い事叶えようとする原則といったように。そう考えた場合、霧島家の秘術もまた同じようにシステマチックに動いていると推定しても構わないはずだ。


「霧島家かどうかを知る方法ね……。DNAとかじゃないのか」

「その可能性を否定することはできない。しかし、だ。魔術と通底すると考えた場合、それとは違う基準を使っていると考えた方がいいのかもしれない。水前寺は、二か月前、この霧島神社で牧場が言っていたことを覚えているか?」


 何か言っていたっけ? 俺は懸命に記憶をたどり、ある言葉を思い出した。






―――おそらく霧島家の血が一滴でも流れていれば霧島家だとみなされるからね。あ、ちなみに魔術ではDNAとかではなくて血の方がより重要なファクターになってるんだ。魔術に性質上類似している神力もこの原理は当てはまると思われる。これは魔術に暗い水前寺くんのための補足説明」






「血か。封印もまた霧島家に受け継がれている血に反応しているのか」


 ウリエルは俺の言葉にうなづく。


「私も同じように考える。封印は霧島家の血によって、霧島家の人間かどうかを判断しているはずだ。そして、次の疑問が浮かぶ。どれだけの血が流れていれば霧島家の人間と見なされるのか。答えだけ先に言うと、牧場が言っていたように、一滴だけでも流れていれば霧島家の人間だと見なされるはずだ。理由は二つ。一つ目は、先ほど言ったように、封印は昔に発明されたもので、構造が極めてシンプル。何cc以上とか、何パーセント以上といった厳格に条件に加えるとなると、もっと複雑な構造にならざるを得ないはずだ。そして、二つ目の理由。霧島家の人間が代々、神力を守ることになっている。しかし、時代が進むにつれて、霧島家の血が薄まってしまうのは避けられない。そのことを考えた場合、厳格な条件を課すのはあまりにその有効性を欠くことになる」


 ウリエルの推論を聞きながら、俺は気になった点について尋ねてみる。


「待ってくれ。時代が進むにつれて血が薄まるって聞いて疑問に思ったんだが、もし血を霧島家である条件とした場合、霧島家が途絶えてしまったら一巻の終わりじゃないのか? 実際、霧江さん以前の神主はほとんどが男性だったと聞いてるぞ。分家が存在しているとしても、その人らの中には婿養子だっていたはずだ。霧島家が細々と続いていたとしても、どの時代においても霧島家の血を直接引く男がいたとは思えない」


 俺の言葉を聞き、ウリエルはしばらく考え込む。


「何か、対抗策があるのかもしれない」

「対抗策?」

「血が途絶えてしまわないようにする、あるいは無関係の人間を一時的にも霧島家の人間にしてしまうような工夫だ。確か、次期神主が受けなければならない儀式があるとか霧江さんは言っていたな」


 次期神主候補が受ける儀式。確か、神力に一つだけ願い事を願うと言った形式的儀式。霧江さんは二十年前にその儀式で、神力に個人的なお願いをし、現代にタイムリープしてしまった。


「対抗策を講じるとすれば、その儀式内で行われるはずだ。その儀式の途中で、もしかしたら霧島家の血を次期神主身体に取り込ませるのかもしれない」

「待て待て。摂取するって、どういうことだよ」


 俺は慌てて問い詰める。


「手段はわからない。口から摂取しているのかもしれないな。確か二十年前の霧江さんは、願い事をする前に神酒を飲むと言っていた。その中に、霧島家の血が含まれていると考えることはできないだろうか。もちろん秘術か何かで、その血が飲んだ人間の本来の血液と混ざり合うようにして。そしてこれが正しいとするならば、やはり霧島家の人間であることを示すのに、やはり血の量はあまり関係ないことが言える」


 祭礼で神酒を飲むのは確かだ。神力を守るために封印の秘術が開発されたように、そのような秘術が開発され、代々受け継がれているとしても不思議ではない。しかし。


「もしその論理が許されるなら、儀式で血とは別の何かが次期神主の体内に入り、それに封印が反応するってことも可能にならないか?」

「それはない。現に儀式をまだ受けていない、霧島由香が封印を解いている。その時点で何か遺伝的なものが封印の判断材料であることが確定している」


 反論をつぶされ、俺は黙り込む。

 ウリエルは咳ばらいをしたのち、改まった口調で再び話し始めた。


「まあ、長々と説明したが、結論に入ることにしよう。神力の封印は霧島家の血に反応している。そして、血の量は関係ない。つまり、反応はオールオアナッシングで判断される。そう考えた時」


 ウリエルはそこで一瞬だけ言葉を切り、俺の顔を見つめた。


「例えば、霧島家の人間から輸血された人間もまた、一時的に霧島家の人間だと見なされるのではないか? いや、封印がわざわざ血管の中を識別しているとも考えられない以上、血を体内に取り込んだだけでも、霧島家の人間だと見なされるのではないだろうか」

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