表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
58/95

神力の封印

 日が暮れ、あたりが暗闇につつまれた夜。俺は息を切らしながら霧島神社の階段を上っていく。階段を上り切り境内に入ると、ベンチに一人で座っているウリエルの姿が見えた。俺は疲れた足にむち打ち、ウリエルの元へ駆け寄る。ウリエルは息を切らしながら近づいてくる俺を見て、驚きの表情を浮かべた。


「どうしたんだ、水前寺。そんなに慌てきった様子で? それに平島は一緒じゃないのか?」


 俺は呼吸を乱しながら答える。


「平島には霧島神社に集合と伝えてないんだ」

「それはいったいどう意味で……」

「とにかく聞いてくれ」


 俺の有無を言わさぬ口調にウリエルは口をつぐむ。俺のただならぬ様子を察したらしい。


「あずさが……俺の妹が倒れた。今ちょうど病院のベッドで寝てる」


 俺の言葉にウリエルは少しだけ拍子抜けしたのか、呆れた口調で返事をした。


「なんだ、あまりびっくりさせるな。いくら妹思いだと言っても、慌てすぎだぞ。風邪か何かが悪化したに過ぎないんだろ?」

「違う!」


 俺は言葉を荒げる。俺の言葉に気圧されたのか、一瞬だけウリエルはびくっと身体を震わせた。


「違うんだ……。このままだと最悪命に関わるって、医者が……」

「どういうことだ? 意味が分からない。詳しく話してくれ」

「ウリエルは、俺の母親が少し前に病気で死んだってことを知ってるか?」

「あ、ああ。……霧江さんから聞いている」


 俺は必死に頭を落ち着かせて、できるだけきちんとウリエルに説明できるように言葉を選ぼうと試みる。正直、ここでウリエルと話していなければ頭がおかしくなってしまいそうなくらいだった。


「できるだけ簡単に説明する。俺の母親はもともと心臓に病気を持ってて、それをこじらせて死んじまったんだ。ちょうど俺が高校にあがるときだ」

「それが水前寺の妹とどういう関係が……?」

「その心臓病は遺伝するものなんだ。そして最悪なことに、俺にではなく、あずさに遺伝している」


 ウリエルは俺の言おうとしていることが理解できたのか、驚きの表情を浮かべた。そして、とぎれとぎれの声で俺に尋ねてくる。


「まさか。その心臓病のせいでお前の妹が倒れたって言うのか……?」


 俺はゆっくりとうなづく。ウリエルの言う通り、あずさは母親と同じ心臓病を発症したのだ。母親の命を奪ったのと同じ心臓病を。

 俺はウリエルにあずさの現状を簡明に伝えた。家で倒れた後、意識不明なまま病院に運ばれ、今も病院のベッドで静かに眠っていること。意識はまだ戻っていない。今回、幸運なことに命に別状がなかったものの、今後の容体しだいでは手術を受ける必要がある。しかしその手術が成功するとは限らない。さらに、その手術を受けることになれば当然のように長期入院が必要となり、まじかに迫った中学入試を受験することはできない。受験ができないとなると、あずさの今まで努力が水の泡になる。いや、それだけならまだいい。もし、手術が成功しなかったら。もし、俺の母親と同じような結末を迎えてしまうことになったら。


「ウリエル。お前に頼みがある」


 俺はウリエルの顔を見つめる。


「あずさを助けたい。神力の封印の解き方について教えてくれ」


 今日の午後。ウリエルと神力について話していた時のことを思い出す。あの時、ウリエルは神力の封印を解き方について言葉を濁した。まるで、封印の解き方が他にあることを知っているかのように。

 もちろん、そのことに確信はない。しかし、俺にできるのはそのわずかな可能性に賭けることだけだった。


「お前が俺に協力しなくちゃいけない義理はもうないってことはわかる。それと、お前の目的のためにその手段を取っておきたいって思っているのかもしれない。それでも……。頼む。力を貸してくれ」


 俺は頭を下げる。

 俺たちの間に重たい沈黙が流れる。やはりウリエルは封印の解き方を知らなかったのか、と俺があきらめかけたその時、ウリエルが小さな声でつぶやいた。


「絶対とは言い切れない……。それでも、封印を解く方法に心当たりがないわけではない」


 俺は顔をあげ、ウリエルの顔を見つめる。


「だが、その手段を確かめる価値はある。……お前の妹を助けるために」

「……協力してくれるのか?」


 ウリエルはゆっくりとうなづいた。


「ああ。もちろんだ。それにお前の妹の件がなくとも、神力の力を頼らざるを得なかったわけだしな」

「ど、どういうことだよ」

「魔術式が発動する時間帯がわかった」


 俺はその時、町中に張られた魔術式のことを思い出す。そうだ。あずさのことで頭がいっぱいだったが、本来この場所でウリエルと待ち合わせしたのもそれが理由だった。


「で、その時間帯は……?」

「最も恐れていた時間だ。明日の夜、つまり日が沈んだ瞬間に発動するように仕組まれていた」


 俺はその言葉に言葉を失う。明日の夜? もう残り二十四時間と少しじゃないか。これだと嵐田の組織に応援を依頼することもできず、時間内に町中の魔術式を消すことなんて不可能に近い。それに真夜中に火の手があがるとなれば、大規模な被害につながってしまう可能性が高くなる。


「私が言った通り、牧場はあえてぎりぎりのタイミングでお前にこの放火計画について知らせたようだな。やはり、あいつは私たちが神力を使うことを期待していると言わざるを得ない。相当のくず野郎だな、あいつは」


 ウリエルの口調から、牧場に対する怒りが伝わってくる。


「事情はわかった。神力に頼らざるを得ないってことか」

「ああ、正直牧場の思惑通りことを進めることは心外だが、止むを得ない。町のためと……そして、お前の妹のためにもな……」

「すまない」


 謝る俺に、ウリエルは肩をすくませた。


「お前が謝ることはない。お前が妹さんを大事に思ってることは伝わったからな」

「それでだ、ウリエル。どうやって神力の封印を解くつもりなんだ?」


 時間が惜しい俺は早速本題へと切り込んだ。ウリエルも俺の焦る気持ちを理解してくれたのか、そのまま神力の話に移ってくれた。


「私はこの町に来て以来、霧江さんと一緒に神力について調べてきた。もちろん実際に使わせてもらうことはできないが、それでも封印の仕組みや霧島家の歴史については十分に研究を進めることができたと思う。その結果わかったことなんだが、神力の封印といった霧島家に代々伝わる術式は魔術と相通じる箇所が多い。むしろ昔に作られたものだからなのか、最新の魔術と比べて構造が極めて単純なんだ。だから、封印はどこをどうすれば解くことができるとか、逆に封印をかけるにはどうすればいいのかなら私にも理解できるんだ。しかし、問題はそこじゃない。」


 俺も真の問題については理解していた。

 神力の封印を解く。これが乗り越えるべき壁だ。神力の封印は霧島家の人間にしか解くことができないという制約が付いている。そのため俺とウリエルは解くことができない。そして、霧江さんを頼ることができないとなると答えはこれしかないのではないだろうか。


「霧島由香に事情を明かし、神力の封印を解いてもらう……とかか?」


 霧島由香。霧島家の血を受け継ぐ人間で俺の幼馴染。そして、三か月前に神力の封印をを実際に解いた張本人でもある。

 由香はおそらく神力のことについて霧江さんから話を聞いていない。しかし、緊急事態である今現在、四の五も言ってられない。由香に神力のことを話し、三か月前と同じように神力を解いてもらうよう必死に頼み込むしかないのではないか。

 しかし、俺の出した答えに対し、ウリエルは意外にも首を横に振った。


「ダメなんだ、水前寺。それは不可能だ」

「ど、どうして?」

「由香は今、神力を封印することができない。できないように霧江さんからちょっとした封印をかけられているんだ」


 初耳だった。霧江さんが由香に封印をかけただって? いったい何のために? 俺がそのことについて尋ねると、ウリエルはぽつりぽつりと語り始めた。


「理由は簡単だ。由香が三か月前と同じように、うっかり神力の封印を解いてしまわないようにするためだ。実際、霧江さんの知らない所で神力の封印が解かれ、霧島家の人間ではないお前が神力を使っていしまうという一大事を起こしてしまった。牧場風太郎の存在もあるしな。神力を守る義務を負う霧江さんとしては、そのような事故が二度と起こらないよう最低限の行為をとらなければならない。おそらく、由香が血を吐いて倒れ、その治療にあたった時にその封印をかけたんだろう」

「なんでお前がそんなことを知ってるんだ?」

「直接霧江さんから聞いたからな。これは間違いない。つまり、霧島由香は霧島家の人間ではあるが、今現在神力の封印を解くことができない」


 俺は頭を抱えたい気分に陥った。頼みの綱であった由香が神力の封印を解くことができないなんて。そうなると、霧島家の人間から協力を受けることはできないことになる。確か霧江さんの旦那さんは婿養子だったはずだしな。


「霧江さんもだめ。由香もだめ。そんな状況でいったいどうしようっていうんだよ」

「結論を急ぐな、水前寺。まだ希望は残っている」

「希望?」

「封印を騙す。それが残された手段だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ