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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
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「探知」の魔術、「発火」の魔術

「み、見つかったのか水前寺!」


 突然の声に俺は思わず身体をびくっと震わせた。

 顔をあげると、そこには息を切らしながら、俺が持つネックポーチをじっと見つめるウリエルがいた。きっと尾行の前にいた洋菓子店まで行ったみたが落し物が見つからず、見落としたに違いないと考えて元来た道を走りながら戻ってきたに違いない。


「あ、ああ。そこに電柱の陰に落ちてたぞ」


 そうつぶやきながら、俺は思わず身構える。俺が勝手に中身をのぞこうとしていたところを見られたからだ。

 しかし、ウリエルの反応は俺の予想から大きく外れたものだった


「よ、よかった……」


 ウリエルは安堵の表情を浮かべ、一気に気が抜けたのか、そばの電柱によろよろともたれかかった。


「見つかってよかった……本当に」


 ウリエルは疲れ切った声でそう繰り返した。

 俺はさっきまでの自分の行動を恥じながら、ウリエルにネックポーチを返した。その時になってようやくウリエルは疑わしげに俺の顔を見つめた。


「もしかして、中身を見たのか?」

「見てないから安心しろ。それに見られて困るんだったらちゃんと大事に身に着けとけよ。かけ紐の部分が切れてしまってる」


 ウリエルは切れた紐を確認しながらうなづいた。そして、ギュッとそのネックポーチを握り締めたあと、それを大事そうにポケットの中にしまった。

 俺はウリエルに呼吸が落ち着いたかと尋ねる。


「もう大丈夫だ。すまないな、少しばかり取り乱してしまって」

「別に気にしなくていい。大事なもんなんだからな」


 結局ポーチの中身を見ることはできなかった。この際、直接本人に聞いてみようかと考えたが、俺の思考を遮るようにウリエルがコホンと咳ばらいをした。


「とにかくだ。無事見つかったことだし。改めて地図の地点に行こう」

「あ、ああそうだな」


 本来の目的を忘れるところだった。とりあえず牧場がハガキで伝えたものについて調べなければならない。俺はハガキを取り出し、二人でそこに書かれた地図を頼りに歩き出した。


              




 地図は俺の比較的近所の住所を抜粋したもので、倉庫からそれほど遠く離れていない場所を示していた。

 とりあえず、地図上の黒い点で示された地点へと行ってみる。しかし、そこは単なる袋小路で、すぐそばにゴミ袋が積み上げられていることを除けば特段変わったものは見当たらない。場所が間違っているのかと思い再び地図を確認するが、やはりこの場所で間違いないようだ。


「もしかして牧場にからかわれただけ?」


 俺はウリエルに聞いてみる。ウリエルは少しだけ考えるしぐさをしたのち、首を横に振った。


「いや、わざわざそんな手の込んだいたずらはしないだろう。この場所に何かあると考えたほうがいい」

「何かあるって言ったって、ここにはなんもないぞ」

「本当に何もないのか?」

「本当にって、どういうことだよ」

「ただ見えていないだけかもしれない」


 俺はウリエルの言わんとしていることに気が付いた。


「魔術式か。それも『印象操作』の魔術がかけられた」


 牧場は魔術師だ。それに、一緒にいるはずの逃亡犯稲岡大輔も確か魔術師。何かの魔術式をここに書いているという可能性は否定できない。


「でも、印象操作がかけられてるなら、見つけるのは大変じゃないか?」

「いや、魔術式があるとわかればこっちのものだ。水前寺。紙とペンを持っていないか」


 俺はウリエルにシャーペンとルーズリーフを一枚手渡した。ウリエルはそれを受け取ると、塀を下敷き代わりにして何かを書き始める。数分後、ウリエルは魔術式を書き終わったのかペンを止めた。

 俺がのぞき込むと、そこには魔術式が書かれていた。もちろん俺にはそれが何の魔術式であるのかはわからない。いつもと違うところと言えば、魔術式の下の余白部分に簡略な地図が書かれていることくらいだった。どうやらこの場所を簡単に図示したものらしい。そして地図のある地点に小さな黒点が浮かび上がっている。


「なるほど。そこのごみ袋の下だ。水前寺、ごみ袋をどかしてくれ」


 わけがわからないまま俺は近くに置かれてあったごみ袋に近づき、それらをどかしていく。中のものが漏れているのか、一番下のごみ袋を持ち上げた時に下からぽたぽたと液体が垂れた。

 そしてごみ袋が置いてあった場所を確認する。するとそこには魔術式が白いチョークで書かれていた。


「簡単に探知ができたことを考えてみても、『印象操作』の魔術が組み込まれているわけではないようだな。目視でも確認できる」


 俺は地面に書かれた魔術式を凝視しながらウリエルに尋ねる。


「お前が書いたやつとここに書かれてあるやつはどういう魔術式なんだ」

「私が書いたのは『探知』の魔術式。その名の通り、魔術式の場所を探知することができる。探知した魔術式の場所を地図上で指し示すように工夫を加えている。これはかなり基本的な魔術式だが、範囲を広げたり、精密度をあげることでいろいろと応用が利く。それに魔力をほとんど消費しないのも特徴的だな。そしてここに書かれてあるのは……」


 ウリエルは魔術式に近づき、じっと魔術式を見つめた。


「『発火』の魔術式だな。それに時限式になっている」

「発火? 火が出るってことか?」


 ウリエルは首を横に振る。


「そんなたいそうなものじゃない。発火とはいっても、線香花火程度の火花が少し散るだけだ」


 線香花火程度の火花が出るだけ。俺はその言葉に首を傾げる。

 牧場がハガキで伝えようとしていたのは間違いなくこの魔術式のことだろう。それなのに、そんな火花が出るだけのしょうもないことをなぜわざわざ伝えようと思ったのか。俺がそのことをウリエルに,話すと、ウリエルは少しだけ考えた後に答えた。


「もちろん、この魔術式自体は危険なものじゃない。この魔術式だけならな」

「どういう意味だ」

「水前寺が持ってるごみ袋、下が濡れていないか?」


 俺は手に持ったごみ袋を再び見つめる。ウリエルの言う通り、ごみ袋の下は何か液体で濡れている。中のものが漏れただけだろうと考えた時、そこから特有のにおいがしていることに気が付いた。


「このにおいって、もしかしてガソリン?」


 俺はこのごみ袋が魔術式のちょうど真上に置かれていたことを思い出す。もしこの状態のまま火花が散れば確実にこのごみ袋に引火する。そして、そこから残りの積み上げられたごみ袋にも火が移っていく。ちょうど塀の向こうは一軒家だ。もしごみ袋から家に飛び火してしまったら、ボヤ騒ぎ程度では済まないかもしれない。

 なるほど。確かに放っておくには危険な代物だ。


「あとさっき時限式とか言っていたけど、それはいったいなんだ?」

「ああ、この魔術式は時間が立てば火花が散るように仕組まれている。大体の魔術式は最後のピリオドにあたる記号を書き終えた瞬間に術が発動するんだ。しかし、条件式と言って、時間が経過したり、あるいは何らかの条件が満たされたときに魔術が発動するようにできるテクニックがあるんだ。これを組み込んでおけばある程度魔術の発動時間を後にずらすことができる。これを書いた魔術式は、他の魔術式を組み込むだけの技量はないが、条件式を付け加えることくらいはできたようだな」


 時限式。つまり時間が立てば火花が散り、ガソリンに引火するという仕掛けか。

 その時俺はあることを思い出し、慌てて牧場からのハガキを取り出す。地図にはここを含めて数個の黒い点が書かれている。


「おい、この牧場の言うことが正しいとしたら……。この残りのところにも同じような魔術式が書かれているっていうことか?」

「それだけでは済まないかもしれないな」


 ウリエルが真剣な表情で言った。


「それだけで済まないって……」

「地図の横に書かれた言葉。あとはよろしく。急いだ方がいいかも。これはこの数か所だけをどうにかしてと言っているだけなのか?」


 俺はウリエルの言わんとすることを理解し、身体を強張らせる。


「まさか、この数か所以外にも魔術式が書かれているって言いたいわけじゃないだろうな」


 ウリエルは苦々しい表情を浮かべる。どうやら俺の言ったとおりらしい。


「この魔術式が単なる些細ないたずらだと言うわけではないことは確かだ。そう考えた場合、なぜこのような真似をしようとしたのかはわからないが、少なくともこの魔術式でどのようなことをしようとしているのかは想像できる

 魔術式は時限式、ある時間に魔術が発動する。もしその発動時間が他の魔術式と同じ時間に設定されていたらどうだろうか。その場合、少なくとも三か所以上の場所で同時にボヤ騒ぎ、もっとひどければ火事が発生する。一斉に通報を受けた消防がそれらすべてに対応できるとは思えない。つまり、魔術式がどれだけ多く書かれているかによるが、相当なパニックに陥るのは目に見えるな」


 俺の額から一筋の汗が流れる。この場所は住宅に囲まれているとはいえ、人通りは少ない。それにもし住宅に人がいない、あるいは寝静まった時間帯にセットされていた場合、火の手が予想以上に拡大することだってありえる。その結果、怪我人、いや死人だって出るかもしれない。


「これって、俺たちが思っている以上にやばいことなんじゃないのか?」

「その可能性も否定できない。とにかく、牧場が見つけた他の場所に行ってみよう」


 ウリエルはそういうと、ルーズリーフの裏に地面に書かれた魔術式の一部を書き写した。そして、懐から平島が持っていたのと同じようなチョークを取り出し、『発火』の魔術式の上に大きくバツ印を書いた。こうしておけば魔術式が発動することはない。

 ウリエルがバツ印を書き終えるのを見守った後、俺はハガキの地図を確認し、ここから一番近くの地点へと向かった

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