表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
54/95

ネックポーチ

 俺はくしゃくしゃに丸められた紙幣を伸ばし、それが本物の一万円札であることを確かめた。いったいなんでこのボストンバックの中にお金が入っているのか。それもこのように乱雑に詰め込まれたような形で。


「おい、ちょっとこっちに来てみろ」


 ウリエルは何かを見つけたようで、一人倉庫の奥へ進んでいった。俺もその後をついて行く。すると、資材に隠れて抜け穴からは死角となっていた奥隅に、こじんまりとしたテーブルのようなものが置いてあった。

 テーブルだけなら別に何の問題もない。しかし、その上には二人分の紙コップと紙皿があった。紙コップの中には飲み残しが入っていて、その状態から察するにそれほど長い間放置されているわけだはないことがわかった。ウリエルがその紙コップの中身を覗き込み、それがビールか何かだと言った。

 そうなると、あずさたちが残していったものではない。つまり、少なくとも大人二人がここで食事か何かをしていたということだ。


「いったいこれはどういうことなんだろうな」


 ウリエルが俺に向きかえり尋ねてきた。

 もちろん俺が知る由もない。しかし、そう答えようとしたとき、俺はテーブルのすぐそばに投げ捨てられていた黒い布のようなものに気が付いた。俺はそれをつかみ、広げてみる。黒い布には上に二つ、そして下に一つ穴が開いていた。


「これって覆面?」

「まあ、そうとしか見えないな」


 その時、俺の頭の中にある記憶が浮かび上がってきた。


「この前銀行強盗をした、逃亡犯……稲岡大輔……」

「いきなり何を言ってるんだお前は」


 突然の俺の言葉にウリエルはあきれ顔でつぶやいた。銀行強盗をした稲岡大輔が魔術師であること、そして牧場がその銀行強盗に関係しているということをウリエルはまだ知らない。俺は慌てて、嵐田から聞いた話をかいつまんで話した。


「つまり、ここで牧場と逃亡犯が二人仲良く食事をしていたと考えているのか?」


ウリエルは信じられないという顔つきで尋ねてきた。


「もちろん直感でしかないけど……。そう考えたらつじつまが合う。逃亡犯もいくら魔術師だからと言って潜伏先が必要なはずだ。それに牧場は組織から追われる身だしな。足のつかない隠れ場所としてこの廃倉庫を使ったいたと考えることができないか?」


 一時的に身を隠すためか、それとも仲間と作戦会議でも開くためにここを利用していたのかはわからない。しかし、そこには牧場風太郎もいたのだろう。

 しかし、偶然にも秘密基地としてこの場所の存在を知っていたあずさたちが猫を連れ込み、その世話のために毎日通うようになった。もちろん逃亡犯としては、いくら『印象操作』の魔術をかけているからといって、人が出入りするような場所に長く居続けるわけにはいかない。だからこそ、あずさたちの姿を確認するとすぐに牧場と稲岡大輔はこの場所を去った。いや、牧場はあずさが魔力持ちであることを知っている。そのことを稲岡に伝えたのかもしれない。

 先ほどのボストンバックは銀行強盗の際に金を詰め込むために使用したもので、その後別の入れ物に金を移し替えたのだろう。おそらく牧場と金を山分けするために。内ポケットの中の一万円札は、移し替える際に気が付かなかった分かもしれない。

 それにもう一つ説明がつくことがある。それは牧場がハガキでこの場所の存在を伝える際、不親切に花崎倉庫とだけ書いていたことだ。牧場はきっと逃亡犯とともにこの倉庫に入ってくるあずさを見ていたのだ。だからこそ、花崎倉庫と伝えれば、俺が妹であるあずさからこの場所の存在を容易に知ることができると考えたのだろう。結果としては、あずさが俺に教えてくれず、わざわざ尾行する羽目になったのだが。


「確かに変に筋は通ってるな。しかし、仮にそれが正しいとして、牧場はなぜこの場所の存在を伝えたんだ? 牧場と逃亡犯は仲間なのだろう? もぬけの殻とはいえ、わざわざ自分と逃亡犯の足跡を見せることに何の意味があるんだ?」

「正直それは全くわからない」


 牧場の目的は何なのだろう。

 俺たちがこの場所に来たところで、知ることができたのは少し前までこの場所に逃亡犯と牧場がいたという事実だけだ。それが牧場にとってどのような利益を生んでいるのか。例えば、嵐田から牧場が銀行強盗に関わっているという事実を聞かなかったとすれば、むしろ牧場にとっては銀行強盗に自分が一枚噛んでいたという重要な情報を俺たちに漏らしてしまうことになる。果たしてこのことによって、牧場に何かメリットが生まれるのだろうか

 駄目だ。いくら考えても答えが出てこない。俺が悶々と考えている様子を見ながら、ウリエルはため息をついた。


「いくら考えてもわからないものはわからない。それなら、牧場がお前に伝えたもう一つの伝言をあたってみた方がいいのかもしれない」

「あのへたくそな地図か」


 簡略化された地図と、その上に書かれてある数個の黒い点。そして「あとはよろしく。でも急いだほうがいいかも」という殴り書き。「花崎倉庫に行ってみたら?」と同じだけ意味不明な伝言だ。しかし、それについて調べる価値あるのかもしれない。

 俺はうなづき、ウリエルとともにその地図が示す場所へと向かうことにした。

 しかし、先ほどの抜け穴から外へ出ようとしたその時だった。突然ウリエルが立ち止まり、何かを探すかのように自分の胸のあたりを探り出した。


「どうしたんだよ」

「な、ない……」


 ウリエルは顔を青ざめながら言った。


「ないって、いったい何が?」

「ネックポーチが……ないんだ」


 ウリエルはかすれるような声でつぶやいた。俺は慌ててウリエルに心当たりがないのかと尋ねてみる。


「なんで……。ケーキを食べていた時は確かにあった……。いつ……どこで」

「お、落ち着け。尾行中に落としたんじゃないか。だったら元来た道を戻れば……」


 俺はいたって冷静に言葉を返したのだが、ウリエルは俺の言葉を聞くとともに、俺を置いて抜け穴から外へ飛び出していった。ネックポーチを探しに行くのだろう。しかし、慌てすぎだ。あの調子だと、探し物が落ちてあっても気が付かないんじゃないのか。

 俺もウリエルの後に続き、外へ出た。近くにウリエルの落し物がないかを確認し、元来た道をたどる。落し物がないか下を注意深く確認しながら、俺は道を歩いた。

 それにしても、いつもの雰囲気からは想像できないほどの動揺ぶりだった。それほど大事なものなのだろう。いや、あるいは無くしたらまずいものなのかもしれない。

 ウリエルはまだ見つけられずにいるようで、なかなか追いつくことができない。ひょっとしたら誰かに拾われてしまっているのかもしれない。そんな予感がしたその時、俺は電柱の陰にちょこんと落ちているネックポーチを発見した。

 俺はそれを拾い上げてみる。青と白のストライプ模様。間違いない、ウリエルのものだ。よく見てみると、首にかける紐が切れているのがわかった。尾行中に落としてしまったのだろう。見たところこのネックポーチは大分年季が入っているようで、仕方がないと言えば仕方がない。しかし、俺がそのネックポーチを見つめていると、ある誘惑が俺の心の中で広がっていくのがわかった。

 このネックポーチの中身を見てみたい。

 この袋自体が大事というわけではあるまいし、きっと中に入っている何かがウリエルの言う本当に大事なものなんだろう。ポーチを触ってみた感触では少し四角くて若干硬い。しかし、それだけで中身を言い当てることはできなかった。人のものを勝手にのぞくのはマナーに反するが、それを凌駕するだけの好奇心が沸き上がっていた。俺は恐る恐る、ネックポーチの口部分に手をかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ