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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
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尾行

「小学生の姿が見え始めたぞ」


 俺は向かいの通りに目を向けた。ランドセルを背負った男の子三人が仲睦まじげに歩いている様子が見えた。俺たちはすぐさま食器を店に返し、向かいの通りに戻る。そしてあずさが通るであろう道が見える位置で待機した。

 待つこと十分。聞き覚えのある声が聞こえてきた。俺は神経をとがらせ、息をひそめる。

 陰からこっそり通りの様子をうかがっていると、ちょうどあずさが向こうからやってくるのが見えた。あずさの友達である葵ちゃんと談笑しながら、並んで歩いている。二人が俺たちに気が付くこともなく、通りを横断しきったことを確認すると、俺はウリエルに合図をだし二人の後をこっそりとつけていく。いよいよ尾行の開始だ。

 始めは俺もよく知る通学路を通っていたが、家まであと半分といったあたりで、突然二人は脇道に入っていった。どうやら俺の予想通り、今日も秘密基地に寄るつもりらしい。ウリエルとともに俺たちもその脇道に入る。

 そのまま二人に気が付かれないよう細心の注意を払いつつ、二人の後をつけていった。しかし、もうそろそろ秘密基地に着くのではないかというところで、俺たちは突然二人を見失ってしまった。


「あれ? あいつらどこに行ったんだ。確かにさっきこっちの道に曲がったはず。見失ったら、花崎倉庫の場所がわかんなくなるってのに」

「いや、どうやらその心配はないようだぞ」


 ウリエルはそういうと、右斜め前を見てみろと言った。俺が言われた方向に顔を向けると、そこには倉庫のような建物が立っていた。その建物は壁のメッキの大部分が剥がれ落ちており、どこかさびれた雰囲気を醸し出していた。


「もしかして、これが花崎倉庫か」

「そうらしいな。おそらく二人はこの中に入っていったんだろう」 


 俺たちは倉庫に近づいて行った。入口の横に花崎倉庫と書かれたプレートが張り付けられてある。どうやらここが目的の場所に間違いないようだ。

 当然ながら正面の入り口は固く閉ざされており、ここから中に入ることはできなさそうだった。おそらく、あずさたちは違う入口から入っていったのだろう。俺とウリエルは手わけして倉庫の周りを調べることにした。左右に分かれて倉庫の周りを一周し、正面入り口から反対の場所で落ちあうと、ウリエルの方がそれらしきものを見つけたと告げた。そのままウリエルについて行くと、倉庫の側面に人が一人通れるだけの穴が開いているのを発見する。注意しなければ見落としてしまいそうなほどに目立たない穴だった。ウリエルもよくこれを一発で見つけられたものだ。

 俺は早速中に入ろうとするが、ウリエルに止められた。


「まだ中に二人がいる」


 俺が尾行しているなんてばれたら、あずさを怒らせてしまうに違いない。俺たちはとりあえず抜け穴から離れ、近くにあった物置きの陰に隠れた。

 しばらく経った後、あずさと葵ちゃんが抜け穴から出てきた。二人は楽し気に会話しながら、倉庫から離れていく。おそらくそのまま家に帰るのだろう。あずさたちが十分に倉庫から離れたことを確認すると、俺たちは抜け穴から倉庫の中に入った。

 倉庫内は窓から差し込む明かりで思っていたより明るかった。さらに、それほど多くの資材が放置されているわけではなかったため、倉庫にしては広々とした空間が広がっていた。秘密基地としてはうってつけの場所と言えるだろう。

 しかし、あずさたちはいったいこの場所で何をしていたのだろう。小学生男子ならいざ知らず、女の子が楽しめるような場所ではない。

 俺がその疑問をウリエルにぶつけると、ウリエルはある方向を指さし、おそらくあれが理由だろうと答えた。ウリエルが指さした方向には、黒のボストンバックが壁際に置かれてあった。俺はそのバックに近づき、中をのぞき込む。すると、その中にはかわいらしい黒猫がちょこんと座りこんでいた。その黒猫は俺と目が合うと、餌をねだっているつもりなのか、小さく鳴き声をあげた。


「なるほどね。この猫に会いに毎日倉庫に来てたってわけか」


 バックの底は新聞紙が敷き詰められており、その上にチャーシューの食いかけが落ちている。なるほど。親父しか食わないはずのおつまみチャーシューの減りが最近やたらと早いと思っていたんだ。おそらく、あずさが俺や親父がいない隙を見計らってキッチンに行きこれをくすねていたのだろう。昨日の晩、寝る時間にもかかわらずキッチンに降りてきたあずさはこのチャーシューを取りに来ていたのかもしれない。

 ウリエルもバックに近づき、慣れた手つきで猫を抱き上げた。


「見ろ、水前寺。足を怪我している。おそらく、二人はこの怪我した猫を倉庫に連れてきて、怪我が治るまで世話しようとでも考えていたんだろう」


 俺も猫の足を見る。右の前足にはたどたどしく包帯がまかれていた。あずさか葵ちゃんのどちらかがやってあげたのだろう。

 俺はその黒猫を見つめながら、あることを思い出していた。







―――この前までよくアパートに遊びに来てた猫も見かけないし……」「猫っていっても、野良猫ですよ。オスの黒猫で、アパート近くに来た時にたまに餌をあげたりしてるんです」






 まさかね。俺は猫の頭をなでながら苦笑いを浮かべた。


「それにしても、牧場はなんでこんなさびれた倉庫に行けと伝えたんだろうな」


 ウリエルの言葉で、俺は忘れかけていた本来の目的を思い出す。

 そうだ。別にあずさが放課後何をしてるのか突き止めようと思って、この花崎倉庫に来たわけではない。牧場の手がかりを調べにこの場所にわざわざ来たんだ。

 俺はとりあえず倉庫を見渡してみる。しかし特段変わったものは見当たらない。いったい牧場は何を伝えようとしていたのだろうか。まったく見当がつかない。

 ウリエルが猫をバックの中に戻そうとする。俺はその様子を見ながら、あずさたちもこんなボストンバックに猫のねぐらを作らなくてもな、とぼんやりと考えた。たまたま近くに置いてあったものを使ったのかもしれないが。

 俺は何気なしにバックの中を改めて見てみる。中には新聞紙が敷き詰められていて、他に入っているものはない。しかし、俺はそこでバックの内ポケットに若干のふくらみがあるのに気が付いた。あずさたちが取り出し忘れたものかもしれない。

 俺は何も考えず、その内ポケットの中を取り出す。


「あ、あれ?」


 俺は思わず間抜けな声を出してしまう。


「なんだ、水前寺。何か見つけたのか?」


 ウリエルが俺の手元を覗き込み、そして俺の手に握られていたものを見て眉をひそめた。その反応も無理はない。バックの内ポケットから俺が取り出したもの。それはくしゃくしゃに丸められた、数枚の一万円札だった。

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