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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
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洋菓子店

 翌日の朝。家族には適当な言い訳を言って、普段より早く家を出た。向かった場所は学校ではなく、霧島神社近くの交差点だ。俺がそこに着き、あたりを見渡すとちょうど向かい側の歩道にウリエルと平島の姿が見えた。信号が変わるとともに俺は二人のもとに駆け寄る。


「すまんな、待たせちゃって」

「大丈夫ですよ。それより、牧場さんからコンタクトがあったって本当なんですか!?」


 俺はうなづいた。

 もちろん平島には携帯で写真を撮ったのを送るだけでも良かったのだが、ウリエルは携帯を持っていいないため、直接このハガキを見せる必要があった。そのため学校に行く前の十分程度を使い、三人で会おうと俺が提案したのだ。


「そういえば由香はまだ家にいるのか?」

「ああ。いつもぎりぎりの時間に家をでるからな。まあ、いつもより早く家を出たとしてもこの道は通らないだろうし、気にする必要はないだろう」


 俺は納得しながら、牧場からのハガキを二人に手渡した。二人はそれをじっと読み、そして困惑した表情で互いの顔を見つめあった。


「これ、どういう意味か分かります?」

「いや、私に聞かれてもな。牧場が何を伝えたいのかさっぱりだ」

「やっぱり二人もか。じゃあ、せめてこの花崎倉庫っていうのに心当たりはないか?」


 平島は首を横に振る。


「私はないです」

「……私もそんな場所知らないな。しかし、牧場からのメッセージだ。伝え方が悪いとはいえ、完全に無視するわけにもいかないしな」


 俺はため息をつく。二人がこの倉庫について知っているなら話はもっと簡単になったのだが。

 昨日ネットで調べたり、もしかしたらと思って親父に聞いてみたりしたが、どちらも外れだった。こうなると、やはりあずさからこの倉庫について情報を得るしかなくなる。


「とりあえず、この地図で指定された場所に行くとして、花崎倉庫はどうします?」

「二人が学校に行っている間に私が代わりに探しておこうか? 案外すぐに見つかるかもしれない」


 ウリエルがそう提案した。


「いや、それだと時間がかかる。この『急いだ方がいいよ』っていう言葉が気になるしな。それに、手がかりが全くないっていうわけではないんだ。実はな、あずさがこの場所を知っている」

「だったら、あずさちゃんに聞いたら解決じゃないですか」


 平島の言葉に俺は肩をすくませる。


「秘密基地だと言って場所を教えてくれない。誰にも言わないって友達と約束してるそうだ。あずさはああ見えて頑固なところがあるからな、簡単には聞き出せない」

「じゃあ、どうするつもりなんですか?」


 俺は昨日考えた案を口に出す。


「今日の午後、妹を尾行する。ここのところ帰りが少しだけ遅いからな。理由はわからないが毎日その秘密基地に寄っているんだろう」


 俺の言葉に二人が思いっきり目を見開いた。ある意味予想通りの反応ではあった。

 もちろん、聞き出すことが難しいからと言って妹の後をつけるのはモラルに反する。しかし、牧場の手がかりでもある以上、その花崎倉庫の場所を何とかして突き止めなければならない。


「いくら兄だからといって、それは許されていいのか? それに後をつけると言ったって、小学生と高校生じゃ下校の時刻が違うだろ」

「もちろん妹にばれないように尾行するさ。ただ花崎倉庫の場所を見つけるためだけだしな。時間の違いについても、妹の下校時間に合わせて早退すればいい」


 しかし、ウリエルはなおも引き下がらない。


「いや、わざわざそこまでしなくても。なんなら私が一人で水前寺の妹を尾行しても構わないぞ」

「お前はあずさの顔を知らないだろ」

「……そういえばそうだったな」


 ウリエルは黙り込み、代わって平島が会話に入ってくる。


「私も尾行に参加します。牧場さんの追跡が私の仕事ですから!」

「できれば平島は参加しないでもらいたいんだけど」

「な、何でですか?」


 俺は歯切れ悪く答える。


「まず尾行にそんな人数はいらない。俺一人でも可能だ。それに、お前と俺が同じタイミングで早退したらいろいろ勘ぐられるかもしれないだろ……。変な噂でも立てられたら、また権田に拉致されちまうよ」

「た、確かにそうですね。明日だったら、午前で授業が終わるから私も手伝えたんですけど……」


 平島は転校初日に『印象操作』の魔術を駆使し、いちやく学校のアイドル的地位に登りつめた。権田は俺の元クラスメイトで、現在、平島ほのかファンクラブ会長である。平島との不自然な交友を詰問されて以来、俺もそのファンクラブの会員に強制入会させられている。平島との間にまた変な噂でも流れれば、権田を筆頭に、ファンクラブ会員全員を敵に回してしまう恐れがある。

 判明した事実は必ず後で伝えることを約束し、俺は何とか平島を説得した。


「私は高校に通っていない。私は尾行に協力しよう。手がかりが魔術に関連したものかもしれないからな」

「助かる。ありがとな」


 ウリエルと待ち合わせの時間と場所を取りきめた。すると平島が突然小さくあっと声を漏らした。


「そうそう。今思い出したんですけど、ウリエルちゃんって偽名だったんですね。私全然知りませんでした」


 ウリエルは一瞬驚きの表情を浮かべた後、小さくため息をついた。


「ほのかは今までウリエルが本名だと思っていたのか……? 事情を察してくれていると思っていたんだが」

「ま、まあ。外国で生まれたとかそういう理由からなのかなって……」


 平島は苦笑いを浮かべながら答える。


「まあでも、偽名を使うんなら別にアニメのキャラにしなくてもなぁ。それも小学生が見るような魔法少女ものアニメから取ったなんて……」

「悪かったな。アニメキャラの名前で。私だってこれほど長い付き合いになることを知ってたら別の偽名を使ったにきまってるだろうが」


 ウリエルはきっと俺をにらみつける。どうやら俺の言葉に機嫌を損ねたようだ。


「別にいいじゃないですか! いい名前ですよ、ウリエル・ソートハントちゃん」


 平島に乗っかり、俺も持ち上げる。


「そうだな。別に悪くないぞ。ウリエル・ソートハント」

「……そんなに私をからかって楽しいか、二人とも」


 ウリエルは苛立ちを隠さず返答する。このままからかい続けると本当に怒りだしそうだったので、俺と平島は会話を適当に切り上げた。不機嫌なままのウリエルに別れを告げ、俺と平島は二人で高校へ向かうことにした。








 計画通り俺は体調不良を理由に途中で学校を抜け出し、ウリエルとの待ち合わせ場所に向かった。待ち合わせ場所は学校近くの大通りで、ちょうど二か月前に平島が魔術式の罠をしかけた付近だ。この大通りは小学校からも近く、あずさは毎日ここを通って小学校に通っている。人通りは多いが見通しはよく、尾行を始める場所としてはうってつけだ。

 俺が待ち合わせの時間より少しだけ早く到着し、ウリエルは時間ぴったしに現れた。俺は時間を確認する。小学校の下校時間までもうちょっとだけ時間がある。


「ウリエル。まだ少しだけ時間があるし、どこかで時間でも潰すか」

「ほう、フルネームで呼ばなくてもいいのか? そっちの方が面白いんだろう?」


 ウリエルはぶっきらぼうに答える。どうやら、今朝のことをまだ引きづっているらしい。機嫌を損ねながらも、ちゃんと約束通り俺に付き合ってくれるところは感謝しなければならないが。

 俺は肩をすくめる。


「今朝の件は謝る。偽名を使わなきゃ事情があるってのに、平島と二人でからかいすぎた。尾行に付き合ってくれるお礼もかねて、なんかおごるよ」

「おごるねぇ」


 ウリエルは腕を組みながら思案する。そして、不意に周りを見渡した後、再び俺に向き直って言った。


「それならあそこに連れていってもらえるかな?」


 ウリエルは向かい側の道路にある店を指さす。俺はウリエルが指さす先を見て、思わず顔をしかめた。

 ウリエルが指さした店、それは例のお高い洋菓子店だった。


「まじですか」

「約束……だろ?」


 ウリエルの挑発するような言葉対し、俺は大きなため息をつく。今さら前言撤回するのもかっこ悪い。それにいつも迷惑をかけっぱなしということもあるし、ここは男気を見せなきゃならないところなのだろう。

 俺たちは通りを渡り洋菓子店に向かった。店内で俺たちはそれぞれケーキを選び、会計を済ませて店の外にある席に腰かけた。ここならあずさが来た時にもすぐ対応できる。

 俺はもう一度大通りを見渡し、あずさと同じ小学校の生徒がいないかを確かめた。


「おい、あまりきょろきょろしすぎるな。不審に思われるだろ」


 ウリエルは自分のケーキをつつきながら、俺に話しかけた。

 確かに小学生の姿は見当たらない。まだ下校時間ではないということなんだろう。俺もウリエルと同じように、自分のケーキを口に運んだ。やはり少し高級というだけあっておいしく感じる。

 尾行目的とはいえ、学校を早退して真昼間からケーキを食べているとは。それもウリエルと二人っきりで。俺はそこである事実に気付く。この状況って、冷静に考えてみれば……。


「デートみたい、とでも考えているのか」


 ウリエルの言葉に対し、俺は思わず持っていたフォークを落としそうになる。それでも俺は何とか平静を装って答える。


「悪いかよ、変に意識して。というか、お前こそどうなんだよ」

「別に私は何にも気にしてないがな。むしろそのほうが、周りから怪しまれずに済む。何なら、頬についてるクリームを私がぬぐってあげようか、ダーリン」


 余計なお世話だ、とぶっきらぼうに言いながら俺は紙ナプキンで口元を拭く。

 軽口をたたけるくらいには機嫌が戻っているらしい。いや、むしろいつになく上機嫌なようにも思えた。クールな性格ではあるが、案外甘いものが好物なのかもしれない。

 俺はケーキをほおばるウリエルを何気なく観察してみる。というのも、つい昨日平島が話した言葉を思い出したからだ。平島はウリエルが笑ったところを見たことがないという。最初は半信半疑で聞いていたものの、確かに笑みを浮かべたウリエルなど見た記憶がないような気がする。機嫌がいい今この瞬間だって、楽しげであることは伝わるものの、ウリエルは笑っているというわけではない。

 ウリエルが不意に顔をあげ、俺と視線がぶつかった。


「なんだ、水前寺。じろじろとこっちを見て」

「いや、別にどうってことないんだ。平島がな、お前が笑ってるところを見たことがないって言い出したもんだから、ちょっと気になって」


 軽い気持ちから出た俺の言葉に、ウリエルの表情が一瞬だけ固まった。そして、ウリエルは俺から目をそらすように、さっと目を伏せてしまった。

俺が何かかける言葉をひねり出そうとしていると、ウリエルは不意に顔をあげ、そのままいつもの淡々とした口調でつぶやいた。


「ほのかは間違っていない。確かに私はお前たちの前で笑ったことがない。いや、笑わないようにしてきたと言った方が正しいかな」


 突然のウリエルの告白に俺は思わず目を見開いてしまった。それを見て、ウリエルは慌てて言葉を続けた。


「いや、別に水前寺やほのかと一緒にいて楽しくないってわけじゃないんだ。ただ……決めているんだ。目的を果たすまで、笑わないようにって」

「笑わないように決めてるっておかしな縛りだな。……もしかして、お前が二か月前言ってた大事な人とやらが関係してるのか?」


 ウリエルは黙ってうなづき、そして首にかけているネックポーチを胸元から取り出した。

 二か月前、二十年前の霧江さんが過去に帰ったその日。俺は霧島神社のベンチでウリエルから目的に関わるであろう大事な話を打ち明けられた。ウリエルが肌身離さず持ち歩いているというそのネックポーチには、ウリエルにとって大事な人からもらった大事なものが入れてあるらしい。ウリエルが言う大事な人やネックポーチの中身について、具体的な話は聞けずじまいだが、それらがウリエルにとって非常に重要な意味を持っているということは容易に理解できた。


「わかった。喋りたくないのなら、別に追及はしない。その目的とやらが達成した後にでも教えてくれればいい。というか、お前の目的はちゃんと達成できそうなのか? それに向けて行動しているようにも思えないんだけど」

「そう見えても仕方がないかもしれない。だけど、まだ今は動く時じゃないんだ。その時が来るまで、今はとりあえずじっと息をひそめておくしかない」


 息をひそめておくしかない。その言葉に俺は引っかかりながらも、俺はただウリエルの言葉に相槌を打つしかできなかった。

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