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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
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牧場からの手紙

「ま、牧場の情報!?」


 平島も驚いたようで、急いで俺が持つ携帯に耳を近づけ、嵐田の声を聴こうとした。


「落ち着け。情報とは言ったが、別に居場所を突き止めたわけじゃない。手がかり程度の情報だと考えてくれ」

「わかった。で、情報っていったい?」

「ちょうど一週間前に起きた銀行強盗について覚えてるか? なんでもな、それに牧場風太郎が一枚噛んでるっていう情報なんだ」


 銀行強盗。ちょうど一週間前にこの町で起き、そして実行犯のうち一名がいまだ逃走中という事件。

 そして、その事件について俺はちょうど今日の昼、素性のよくわからない男から聞かされていた。


「待ってくれ、嵐田。その銀行強盗についてちょうど今日、よくわからない男から話を聞いたんだ。なんでもそいつはカンパニーの人間らしくて、そいつが言うには、今逃走中の男が魔術師だって……」

「ま、魔術師ですか?」


 驚く平島とは対照的に、嵐田は落ち着いた調子で答える。


「なるほどな。しかしその魔術師は牧場じゃないぞ。牧場とは別のカンパニーに所属する魔術師だ。牧場とそいつが今回の強盗を企てたんだろうな」


 しかし俺はそこで疑問を持つ。


「なんで牧場が銀行強盗なんて真似をするんだ? なんか牧場らしくない。今まではもっと慎重な行動を取ってたのに」

「俺に聞くな。まあ、金がいるっていうのが理由じゃないか。逃げ続けるのにも金がかかるわけだしな。ところで、だ。お前が会ったカンパニーの人間ってのは、どんな奴だった」


 あいにく名前を聞き忘れていたため、俺は今日あったあの男の特徴について必死に思い出す。


「えっと、スーツを決めこんでて、やけに偉そうな態度の男だったな。あと、俺よりもずっと身長が低くて……」


 俺がそう伝えた瞬間、嵐田は俺の言葉を遮るように叫んだ


「背が低いって……お前、ワン・チェンと会ったのか!?」

「えっ? 水前寺くん、チェンさんと会ったんですか!?」


 俺は二人の驚きように戸惑う。


「なんだよ、ワン・チェンって。知り合いなのか」

「知り合いというか、かなり有名な魔術師ですよ。日本の魔術師でチェンさんを知らない人はいないと思います。カンパニー随一の武闘派で、さらに研究職にも就いていていろんな学術論文を執筆してるんです。私も研修時代、いくつも論文を読まされました。カンパニー最強の中間管理職っていう異名を持つほどの人物なんですよ」


 最強の中間管理職って褒め言葉なのか。俺は心の中で疑問を抱く。

 それにしても今日出会った男がそれほどまでにすごい人物だったとは。確かに身長は低かったが、ただものではない雰囲気を醸し出していたように思える。


「チェンを送り出すなんて、カンパニーも火消しのために相当焦ってるな。しかし、奴が来てるんなら一週間もしないうちに解決するだろ」

「嵐田も会ったことがあるのか?」


 俺の質問に嵐田は少しだけ明るい口調で答える。


「一回だけな。別にうちの組織とカンパニーは対立しているわけでもないし、会う機会があれば牧場について協力を要請するのも悪くない。まあ、やつと話すのは少々面倒ではあるがな」

「なんだよ面倒って」


 嵐田は少しだけ間を置いた。


「お前にも注意しておく。チェンは相当短気だから、話すときには言葉選びには気をつけろよ。こっちが何もしなくても突然怒り出すことがあるくらいだからな」


 せめて俺がチェンと会う前に言ってほしかった。

 俺は嵐田にわかったとだけ伝え、平島に携帯を返した。それと同時に、時間も時間だからもう帰ると告げる。平島と改めて別れの挨拶をかわし、俺はその場を後にした。









 途中、コンビニで少し買い物をしてから家に帰った。

 俺がさっさと玄関を開け、家の中に入ろうとしたその時、ドアの新聞受けに一枚のハガキが挟まっていることに気が付いた。なぜこんなところに挟まっているのだろうと思いながら、俺はそのハガキを取る。そして差出人の名前を見た瞬間、俺は言葉を失った。

 そのハガキの真ん中。そこに汚い文字で書かれていたのは、牧場風太郎という忌々しき名前だった。

 俺は慌ててハガキの裏面を見てみる。裏面にはへたくそな手書きの地図と、その地図上の数か所に黒い点が書かれていた。そして、その地図の右斜めに「あとはよろしく。でも急いだほうがいいかも」という殴り書きがあり、それとは別に裏面の下部分には「花崎倉庫に行ってみたら?」と書かれていた。

 俺はそれらをじっと見つめた後、首を傾げる。

 あれ、これだけ? 神力についての脅迫やらがかかられているのかと思った俺は思わず拍子抜けしてしまった。牧場はいったい何を伝えようとしているんだ? 地図上の点にも、また花崎倉庫とやらにも俺は何の心当たりもない。牧場はこれらの情報だけで自分の意図が伝わると思っていたのか、それとも単に俺の知力を試しているのか。

 しかし、いくら考えてもわからない。俺はその理解不能なハガキを持ち、とりあえず家の中に入ることにした。


 リビングを横切り、俺はキッチンに入る。コンビニで買ってきたものを冷蔵庫に入れるためだ。俺はハガキを近くの机に置き、冷蔵庫を開ける。

 飲み物や親父に頼まれたおつまみチャーシューを冷蔵庫に入れながら、俺はなぜ牧場がこのような真似をしたのかについて考える。牧場は嵐田たちに追われる身だ。もちろん俺が嵐田たちと通じていることも承知している。確かにハガキを玄関の新聞受けに入れるだけなら捕まることはないだろうが、問題はなぜそんなことをしたのかだ。神力についての情報を引き出すため罠とも思えない。

 俺が一人で悶々と思考を巡らしていると、後ろから突然声をかけられた。


「あ、兄貴?」


 俺が振り返ると、そこにはあずさが突っ立っていた。


「なんだ、あずさ。もう寝てる時間じゃないのか?」

「……ちょっと喉が渇いちゃって、ハハ」


 あずさはなぜかぎこちなく笑う。そして妹は、俺から目を背けるかのようにして隣のテーブルに視線を移した。その視線の先には、俺が先ほど置いたハガキがある。すると妹はそれを見るやいなや顔色を変え、慌ててそのハガキを手に取った。


「あれ、これに書いてある花崎倉庫って」

「あずさ、知ってるのか?」

「ああ、この花崎倉庫ってのは……」


 しかし、あずさはそこで言葉を中断し、そのまま、いかにもやってしまったという表情を浮かべた。


「なんだよ?」

「い、いや、その。……あ、あずさの勘違いだったぽいな。あずさはこの花崎倉庫なんて全然知らない」


 見え見えの嘘に呆れつつも、手がかりを得るため俺は容赦なく追求する。


「嘘をつくのが下手だな。観念して、白状したらどうだ」


 少し問い質せば折れると思いきや、予想は外れ、妹は俺に抵抗を始めた。


「ぜ、絶対に白状しないぞ。ここはあずさと葵ちゃんだけの秘密基地なんだ。誰にも話さないって約束したんだ。いくら兄貴でも教えるわけにはいかない!」


 あずさは俺を必死に睨み付ける。

 秘密基地という言葉から察するに、どうやら花崎倉庫というのは廃倉庫みたいなところらしい。しかし、そうだとするならばより探すのが難しくなる。ネットで調べても出てこない可能性が強まるからだ。


「そういえば、お前ここんところ帰りが少しばかり遅いな。もしかして、帰りにそこに寄り道してるとか?」

「兄貴には関係ないね」


 あずさはつんとした態度で言い放った。

 これ以上追及するのはさすがに妹の機嫌を損ねることになるかもしれない。秘密基地の場所を強引に聞き出そうとするのはあまりにもやりすぎだ。

 しかし、牧場が示したこの花崎倉庫とやらには何か重要なものがあるはずだ。それにあずさがその倉庫にいったい何をしに行っているのかも純粋に気になる。友達とかくれんぼをしているというわけでもないだろうし。

 ここは無理してでも聞き出すしかないのかもしれない。

 しかし、俺のその決意を察したのかあずさは作り笑いを浮かべながら後ずさりを始めた。


「あずさはもう寝る時間だ。おやすみ兄貴!」


 そう言うと妹は逃げるようにしてキッチンから出ていってしまった。

 さすがに部屋まで追いかけていくわけにもいかない。俺はため息をつきながら、机のハガキを手に取る。

 牧場からのメッセージ。

 正直、単なる悪ふざけだとこのまま無視してしまうこともできる。しかし、殴り書きされた、「急いだほうがいいかも」という一文が妙に気になってしまう。

 地図はへたくそながら、目印となる建物が記されているためなんとか理解できる。そして、数個の黒い点はそこになにかがあるという意味だろう。しかし、問題は「花崎倉庫」だ。ここいらでそのような廃倉庫の名前など聞いたこともない。いや、倉庫の名前なんていちいち気にしないのだから仕方がない。一応、ネットで調べようとは思うが、その名前がヒットするとは思えない。

 もし牧場が俺をからかっているのではなく、本当にこの場所に向かってほしいと思っているのなら、これは明らかに牧場の伝達ミスだ。

 手がかりはあずさのみ。

 仕方ない。ここは最終手段だ。俺は携帯を取り出し、LINEにメッセージを打ち込んだ。

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