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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第三章
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ウリエルという名前

「ウ、ウリエル・ソートハント!?」


 俺は反射的にあずさの方へ振り向いた。妹は俺の突然の行動に目を見開く。


「な、なんだよ急に」


 ウリエル・ソートハント。妹は確かにそう言った。しかし、俺と平島がよく知る人物の名前としてではなく、アニメキャラの名前として。ウリエルが偽名を使っているということはわかっていた。しかし、よりによってこんな少女アニメのキャラを借りていただなんて。

 俺と平島は互いに顔を見合わせる。言いたいことは一緒だろう。いったいどういうことなのかと。


「おーい、飯ができたぞ」


 部屋の外から親父の間の抜けた声が聞こえてきた。

 あずさはその声に返事をし、顔を見合わせている俺たちを不審げに見つめながら一階に行こうと促す。俺たちは仕方がなく立ち上がり、妹の部屋から出た。





              


「今日はご招きいただきありがとうございました。夕ご飯とってもおいしかったです」


 玄関で、靴を履き終えた平島が律儀にお辞儀をする。

 ウリエルのことが頭の片隅に残ってはいたが、平島を加えた夕食の席は賑やかで楽しいものとなった。平島が人懐っこい性格で、親父ともすぐに打ち解けあうことができたからだ。


「いやいや、私たちも楽しかったよ。ほのかちゃんがよければまたうちに来てくれよ。いつでも大歓迎だから」

「ぜひ、おじゃまさせていただきます」


 親父の言葉に平島ははつらつとして答える。その様子から、平島もこの夕飯を楽しんでくれたことがうかがえた。


「おい、愁斗。もう外も暗くなってるし、ほのかちゃんを送っていってやれ」

「だ、大丈夫ですよ。そんなわざわざ」

「いいよ、どうせコンビニに行こうと思ってたし」


 俺は靴を履きながら返事をした。


「愁斗。コンビニに寄るなら、いつものおつまみチャーシューを買って来てくれ。最近、減りが早くてな」

「はいはい」


 玄関で見送りをしようとしていたあずさも一緒に行くと言い出したが、最近あずさも身体の調子が悪いんだからあまり寒い外にでないほうがいいと言って家に残らせることにした。

 不平を漏らすあずさに平島は笑いながら話しかける。


「じゃあまたね、あずさちゃん。勉強とかでわからない所があったら、いつでも連絡してくださいね」

「わかった。絶対にまた遊びに来てな」


 最後に平島が親父にお邪魔しましたと言ってから、俺たちは二人で外へ出た。


「まさか、ウリエルちゃんが偽名だったなんて驚きでした。しかも、よりによって少女アニメのキャラを使っていたなんて」


 夜道を歩く俺と平島の話題は、先ほど発覚したウリエルの名前の正体についてとなった。俺と二十年前の霧江さんが当たり前にウリエルと呼んでいたから、平島はてっきり本名だと思い込んでいたらしい。


「それにしても、一見クールなあいつが少女アニメを見てたとはな。それが今のところ一番の驚きだ」

「それより、なんでウリエルちゃんは偽名なんて使ってるんです?」


 平島は首をかしげながら尋ねてきた。


「俺と最初に会ったときにそういう名前だって言われたんだ。まあ、あの時はこれほど長い付き合いになるとは思ってもなかったしな。適当な名前を言って、きっぱりと別れようとしてたんじゃないのか」

「それでも普通偽名なんて名乗ります? 偶然出会った人に対して、わざわざ偽名を使う必要はないと思うんですけど」


 確かにそうだ。たとえその場限りであったとしても、偽名を使うからにはなんらかの理由があるはずだ。例えば自分の正体を知られたくなかったり、自分の痕跡を残したくなかったりだとか。

 冷静に考えてみれば、ウリエルについて知っていることは少ない。なぜ偽名を使っているのか。なぜこの町にやってくるために魔術式を使わなければならなかったのか。そして、ウリエルがこの町に来た目的とは何なのか。

 たまにしか会わない俺と違い、平島はウリエルと頻繁に交流している。何か知っていることがあるかもしれないと思い、尋ねてみるが平島はただ首を横に振るだけだった。


「ウリエルちゃんと仲良くしてるんですけど、あんまり自分のことについてはしゃべってくれないんですよ。さりげなく聞こうとしても、はぐらかされちゃって……。それに、もう一つ気になることが」

「気になること?」


 俺は聞き返す。


「私、ウリエルちゃんが笑ってるところ見たことないんです。もちろん別につまらなそうにしてるってわけじゃないですよ。一緒にお喋りをしたり、冗談だって言い合いますし」


 ウリエルが笑ったところをみたことがない。俺はその事実に耳を疑った。あれだけ一緒にいる仲なのにそれは不自然じゃないか。

 しかし、俺もそのような場面を見たことがない気がしてきた。慌てて自分の記憶を探ってみる。見たことあるような、ないような。いや、こうして思い出そうとしている時点でやっぱり一度もないと考えた方がいいのかもしれない。

 しかし、問題はその理由だ。別にウリエルが感情を持たない人間であるとは思えない。もちろん平島のように、感情を全面に押し出すタイプではないことは確かなのだが。

ウリエルの謎はただただ深まるばかりだった。




 ああだこうだ話しているうちに、平島が住むアパートの目の前に到着した。平島は改めて夕飯に誘ってくれたことに対してお礼を言った。


「今日は本当にありがとうございました。とっても楽しかったです。水前寺くんって本当に優しいんですね」

「あんだけ、寂しそうにしてたら声かけるっての。別に俺が特別優しい人間っていうわけじゃねーよ」

「ふふふ、それは違いますよ」


 平島は無邪気に微笑む。


「寂しそうだなってことくらい誰だって考えつきます。大事なのは、そう思って、実際に私を夕飯に誘ってくれたことです。行動力を伴わない優しさは、単なるお飾りにすぎないんですよ」

「そんなもんなのかねぇ」

「そんなもんなんです」


 平島が元気よく返事したその時、携帯の着信音が鳴り始めた。平島がその音に反応し、ポケットから携帯を取り出して画面を確認する。


「あっくんからですね。どうしたんでしょう?」


 平島はそうつぶやきながら、電話に出る。一応別れの挨拶はしたことだし、電話の邪魔にならないように帰った方がいいだろう。俺は平島にジェスチャーでその旨を伝え、立ち去ろうとした。

 しかし、平島は突然耳から携帯を離し、俺に話しかけてきた。


「あっくんが水前寺くんに代われって言ってます」


 平島は困惑した表情で俺に携帯を差し出す。俺が携帯を耳に近づけると、嵐田の野暮ったい声が聞こえてきた。


「おい、水前寺か? 今ほのかがお前と一緒にいるって言ってな。後からほのかを通じて連絡を入れようと思ったんだが、早いに越したことはないし、今直接伝えさせてもらう。ついさっき、牧場風太郎に関する情報が手に入った」

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