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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第二章
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牧場の行方

 ようやく緊迫した空気から解放され、俺はゆっくりと霧江さんを下す。霧江さんが大丈夫だったかと心配げな様子で尋ねてきたが、俺は笑って平気でしたと答えた。もちろん見栄だ。

 それにしても危機一髪だった。あと少しでも嵐田の登場が遅れていればどうなっていたことやら。


「確かに、赤川は『印象操作』に気付きかけていたからな。まあ、それでも咄嗟のでまかせにしては十分時間が稼げたとは思う」

「傍から見てて、ずっとハラハラしっぱなしだったけどな」

「大変でしたね、私も心臓が止まるかと思いましたよ」


 俺たちの会話に平島が入ってくる。俺が何気なく平島の方へ顔を向けると、なんと平島は右手に赤川の拳銃を持っていた。

 そこで俺は先ほどの不思議な出来事を思い出す。平島が赤川の背中を押し、それとともに赤川の手から拳銃が消えてなくなった。あれはどういうことだったのだろう。


「ああ、さっきのやつですか? フフフ。あれはあっくんから言われて、前もって準備してたんですよ」


 そう言うと平島は、俺たちに左の掌を見せる。

 そこには魔術式がびっしりとボールペンで書かれていた。赤川が言っていた準備とはこれのことだったのか。しかし、魔術式が書いてあることはわかったものの、いったいどういう魔術なのかはもちろん理解できない。俺がそのことについて尋ねようとすると、それを遮るようにウリエルがつぶやいた。


「なるほど、『物質移転』の魔術式か」

「『物質移転』?」


 その魔術は俺も知っている。その名の通り、物質を移転させる魔術だ。しかし、確かその魔術は手に触れたものにしか効かなかったはず。平島は拳銃ではなく、赤川の背中を触っただけだ。それなのにどうして拳銃にその魔術が適用されたのか。


「水前寺。初めて魔術式について説明するとき、竹ぼうきで実演して見せたな。あの時のことを覚えているか?」


 もちろん覚えている。ウリエルが魔術式を地面に書き、そこに置いた瞬間に竹ぼうきが用具箱入れの中に移転した。そして、そのあとウリエルに促されるまま俺は竹ぼうきを持ったまま、魔術式に乗って……。


「『物質移転』の魔術式は、対象として設定した物にしか効果が現れなかったな。赤川の拳銃だけを対象として設定しておけば、赤川の身体を通してその手に握られた拳銃に効果が現れるということか」

「そうです! ……まあ、最初はこういう場面で使うつもりじゃなかったんですけどね。あっくんの作戦では、私が『印象操作』の魔術で存在感を薄くした後、そっと赤川さんに近づいて武装解除をする予定でした。まさかこんな危険な目に遭うなんて思っても見ませんでしたよね……」


 平島の言葉に、俺たちはゆっくりとうなづいた。





 嵐田は気を失った赤川の手を縄で縛りつけ、動けないようにした.

しかし俺たちが安堵したその時。俺たちが入ってきた裏口近くから、女性の叫び声が突然聞こえてきた。

 この声は林田さんだ。俺と嵐田はそれを聞くやいなや急いで裏口へと駆けだした。俺たちが到着すると、外の裏口近くで地面にへたりこむ林田さんの姿が見えた。


「どうしたんだ!?」


 嵐田が声を荒げて叫んだ。


「あ、あのあとやっぱり様子が気になって戻ってきたんです。そして裏口の扉を開けたと同時に、館内から男の人が突然飛び出してきて」


 牧場風太郎だ。俺は直感的に理解する。やつは嵐田の追跡を逃れ、この館内に潜んでいたんだ。今まで外に出ていくタイミングを図っていたに違いない。


「その男って、館内に残ってたっていう本村さんのことじゃあ……」


 しかし、林田さんは俺の言葉に対し眉をひそめた。


「え? いや、本村さんじゃなかったけど……。もっと背が低くて、太ってたような」


 そんなはずがない、と俺が言いかけたところで嵐田が俺の口をふさぐ。


「わかった。その人物も調べるとして、こいつが言ってる本村とやらについても話を聞かせてもらおうか」


 林田さんは嵐田の言葉にゆっくりとうなづく。嵐田が手を放すと、俺はひそひそ声で異議を唱える。


「あの人の見た人物がそんな容姿をしているはずがない。牧場はもっと初老の男性に化けてて……」

「頭を冷やせ。『印象操作』の魔術をかけなおしたに決まってるだろうが」


 確かに言われてみたらそうだ。つい先ほどもウリエルが使ってたじゃないか。

 そうこうしているうちに、ウリエルと平島が霧江さんを支えながらやってきた。霧江さんはまだ立ちくらみがひどいらしい。俺は三人に牧場に逃げられたということを話す。平島は特にがっかりした様子だったが、しかし赤川も捕まえることができ、そしてなにより霧江さんが無事でよかったと言った。

 霧江さんも平島に対し「ありがとう」と弱弱しく返事をし、さらに言葉を言い加えた。


「ごめんね、みんな。なんか迷惑かけちゃって」

「き、霧江さんは悪くないですよ! 赤川さんと牧場さんのせいなんですから!」

「ほのかの言う通りだ。気に病む必要なんてないそんなこと言うなんて、霧江さんらしくない」

「うん……」


 そうだ、霧江さんだ。三人の様子を見て俺は今まですっかり忘れていたことを思い出した。


「霧江さんの願い事! スーパーブラッドムーンの時間ってもうそろそろじゃなかったか!?」


 俺は携帯を取り出し、現在時刻を確認する。記事に書いてあった予定時間まであと一時間。今から平島が言っていた自然公園に向かっても十分間に合う時間だ。


「霧江さん。自然公園に行きましょう。せっかくここに来たんですから、スーパーブラッドムーンとやらを見ずには帰れないでしょ。もう明日には帰っちゃうんですから……。歩くのが大変なら俺が自転車の後ろにでも乗っけます」


 しかし、霧江さんはあいまいな返事を返すだけで煮え切らない様子だ。やはり先ほどのことを気にしてるのだろうか。俺は霧江さんに気にしなくていいと言おうとしたその時、ウリエルが霧江さんの手を握り、じっと霧江さんの顔を見つめた。


「別にさっきのことを気にする必要はない。私と水前寺は一か月前にもっと危険な目にあってるからな。それと……口では上手く言えなかったが、霧江さんのわがままに振り回されるのも実は嫌じゃなかったんだ。だから、一緒に見に行こう霧江さん」


 ウリエルの言葉に霧江さんは驚き、それからすぐに嬉しそうな表情を浮かべた。そしてウリエルの手をギュッと握り返し、優しい声でつぶやいた。


「ありがとう、ウリエルちゃん。それに愁斗くんとほのかちゃん。あと、嵐田さんも」


 どうやらこれで本当に万事解決のようだ。

 自転車を取りに俺が家まで一旦戻るというと、平島が自分の家の方が近いからと言って俺の返事も聞かず走り出していった。そそっかしさは相変わらずだ。

 嵐田はとりあえず組織に連絡を入れ、赤川を本部に連れていくことにしたようだ。赤川の監視のためこの図書館に残ることになったらしく、林田さんは一旦家に帰して質問はまた後日行うようだ。

 霧江さんが誘拐されてから今まで緊張しっぱなしだったためか、疲れがどっと体に押し寄せてきた。とりあえず近くにあった椅子に腰かけると、ウリエルが霧江さんを他の椅子に座らせ、俺の方に近づいてきた。


「なんだ、急に?」

「実は霧江さんのことなんだが……」

「ここにきてまた厄介事じゃないだろうな」

「いや、そういうわけじゃない。ただ気になることがあってな。憶測にすぎないんだが、聞いてくれないか?」


 そういうとウリエルは真剣な表情で語りだした。

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