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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第二章
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ウリエルの奇策

「待て、動くな赤川」


 ウリエルの言葉に俺は恐る恐る目を開ける。目の前まで迫っていた赤川は歩みを止め、銃を俺に構えたままウリエルの方を振り向いた。


「もし動いたら、撃つ」


 俺はウリエルの方へ顔を向けた。そこでは、ウリエルがエアガンをまっすぐに赤川に向けて立っていた。俺は思わず目を見張ってしまう。今はふざけていい状況じゃないだろ、と俺がウリエルに言おうとしたその時。


「な、なんでお前が嵐田の拳銃を持ってんだ!」


 赤川が顔色を変え、怒鳴り声をあげた。

 嵐田の拳銃? 何を言ってるんだ。ウリエルが構えているのは、どう見てもエアガンのはずなのに。

 しかし、俺はそこで気が付く。『印象操作』の魔術だ。ウリエルが自分のエアガンに印象操作をして、嵐田の拳銃に見えるようにしているんだ。ウリエルは図書館に入る前、嵐田から拳銃を借り熱心にその形状を確かめていた。おそらくあの後すぐに、エアガンに魔術をかけたのだろう。赤川は魔力を持っておらず、また興奮状態で冷静になり切れていない。どうやら、ウリエルのはったりにまんまと引っかかっているようだ。


「くそっ! なんで、お前がそれを持ってるんだ。嵐田が貸したのか……」

「ああ、そうだ。護身用に嵐田から拝借している。水前寺を撃った瞬間、お前を撃つ」


 平島もウリエルの行動を理解したのか、俺の方を不安げに見つめてくる。

 拳銃を向けられている以上、赤川は下手に動くことはできない。しかし、それは俺たちも同じだ。ウリエルがただエアガンを向けているにすぎない以上、俺たちもまたこの状況を打破することはできず、ただ動かないでいることしかできない。

 緊迫した空気が流れる。

 この状況に変化が起こるのは、次のどちらかの場合だろう。嵐田がこの部屋に戻ってくるか。もしくは、赤川が『印象操作』の魔術を見抜くか。


「おい、なんでお前みたいなやつに嵐田は拳銃を貸したんだ?」


 沈黙を破ったのは赤川だった。

 このままでは嵐田がやってくる可能性がある以上、行動を起こさなければならないのは赤川の方だ。


「当たり前だ。お前みたいな誘拐犯が館内にいるんだぞ。手ぶらのままじゃ危なすぎる」

「だから嵐田が貸した、と。それなら嵐田が手ぶらになってしまうんじゃないのか」

「嵐田は二丁持ってきていた。おそらくほのかに渡すつもりだったんだろうな」


 赤川が疑問を抱き始めている。

 確かに冷静になって考えれば、いくら牧場という共通の敵がいるとはいえ、平島ではなくウリエルに渡すことがおかしいということは明白だ。


「確かに予備として拳銃がもう一丁あったはずだ……。しかし、それをわざわざ持ってくるのか」

「そんなに疑わしいなら、確かめてやろうか?」


 あくまでウリエルははったりを貫き通そうと試みる。しかし、すでにウリエルのエアガンに対する赤川の疑いを取り払うことはできない。赤川はウリエルが構えたエアガンをじっと凝視し始めた。

 『印象操作』は人間の思い込みを利用した魔術だ。それが錯覚だと理解して見つめれば、その魔術はおのずと見破られてしまう。ちょうど俺が平島の魔術式を発見した時のように。

 魔術を見破るのには十秒もかからない。

 動くしかないのか? しかし、霧江さんを背負ったままどうやって?


「待て……。お前が構えているのは……もしかして」


 赤川はエアガンを見つめながらつぶやく。

 まずい! 見破られた! しかし、俺が息をのんだその時だった。


「見つけたぞ! 赤川ぁ!!」


 突然の怒号に赤川を含む俺たちは思わず全身をびくっと震わせた。

 慌てて声がする方向へ目をやる。部屋の扉近く、そこに嵐田が本物の拳銃を構えて立っていた。遠くからでも、その顔に抑えきれない怒りの感情が現れているのがわかる。


「あ、嵐田!?」


 誰よりも驚いたのは赤川だった。赤川は銃口をを俺からそらし、慌てて嵐田の方へ向ける。

 撃ちあいになる!

 しかし、その時横にいた平島が突然赤川の方へ飛びかかった。いや、飛びかかったという表現は正しくなかもしれない。平島はただ、後ろを向いた赤川の背中を両手で押しただけなのだ。

 そして、平島の手が赤川の背中に触れた瞬間、赤川の手から拳銃が音もなく消えてなくなった。


「し、しまった!!」


 赤川が情けない声を漏らす。俺は何が何だかわけがわからない。

 嵐田はというと、平島の行動とともに赤川のもとへ走り始めていて、拳銃が赤川の手から消えた時にはもう赤川のすぐそばまで接近していた。嵐田は拳銃のグリップ部分で赤川の腹部を思いっきり殴った。赤川の身体が前のめりになる。嵐田は続けて赤川の頭に膝蹴りを食らわせ、そのまま痛みと衝撃でよろめく赤川の身体をつかみ足払いで床に倒した。床に倒された赤川に嵐田は関節技をかけ、赤川が動けないようにする。


「牧場風太郎はどこだ!?」


 嵐田が赤川の顔を床に押し付けながら怒鳴った。


「知るか! 館内にいないんじゃ、もう逃げたんじゃねえのか!!」


 嵐田に組み伏せられてもなお、赤川の目には強い反抗の色が見て取れた。


「あと一歩だったのに! お前らのせいで!!」

「赤川、お前牧場から何の見返りをもらおうとしてたんだ? 金か何かか?」

「そんなんじゃない!!」


 嵐田の言葉に負けじと赤川が吠えた。


「魔力だ! 牧場はその神力とかいう力で俺に魔術の才能を与えるって言ったんだ!!」

「魔術の才能だぁ? そんなもん、どうこうできるわけないだろ。牧場に騙されたんだよ、お前は」


 魔術の才能を神力から授けてもらう。嵐田は無理だと考えているようだが、おそらく神力はそれを実現できるのだろう。しかし、きちんと牧場がその約束を果たせばの話だが。


「嵐田! お前だってわかるだろうが! 俺たち魔術を持たない人間が組織で魔術師から軽んじられてるってことをな!」


 赤川は二人の様子を遠巻きから眺めていた俺たちをキッと睨み付けた。


「俺だって! 俺だって、お前らみたいに魔力を持って生まれてたら……! 牧場に利用されることも、こんなみじめな思いをすることもなかったんだ! お前らには分かりっこないだろうがな!」


 赤川は止まることなく叫び続けた。今まで積もりに積もった鬱憤を吐き出すように。その形相は恐ろしく、また悲痛なものにも見えた。

 嵐田は赤川を一瞬だけ呆れた表情で見つめ、すぐに柔道の絞め技で赤川の頸動脈を絞めた。赤川はしばらく足掻いた後、ふっと突然おとなしくなった。どうやら気絶してしまったらしい。それを確認した嵐田は絞め技を解き、ズボンについたほこりをはたきながら立ち上がった。


「まったく……。いい大人がみっともないこと言ってんじゃねえよ」


 嵐田は大きくため息をつきながらそう言った。

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