夜の図書館
「ビンゴだな」
図書館に着くと、嵐田は駐車場を隅から隅まで見て回り、隠すようにして奥に止められていた赤川の車を発見した。中をのぞいたが誰もいない。つまり、赤川、そして誘拐されたかもしれない霧江さんはまだこの図書館にいるということだ。
「とにかく、赤川がいるとわかった以上図書館に入ってとっ捕まえることにするか。それに牧場風太郎も一緒にいる可能性が高いしな」
そういうと嵐田は胸ポケットからこっそりと拳銃をちらつかせて見せた。霧江さんが買ったおもちゃとは違う本物の銃だ。昨日は法律に反するような真似はしないと言っていたにもかかわらず、銃刀法違反ではないだろうか。
「なんだよその目は? しょうがないだろ、俺たちは魔術を使う人間を追っかけてるんだ。魔術がそれほど大したことができないとはいえ、手ぶらのままで捕まえることはできないしな」
「赤川も同じ拳銃を持っているのか?」
唐突にウリエルが嵐田に聞くと嵐田は神妙な面持ちでうなづいた。
「持ってるだろうな。部屋を出るときに確認したから間違いない。まあ、牧場はさすがに持ってないかと思うが」
「なるほどな……。そうだな、できればでいいんだが、私にその拳銃を触らさせてくれないか」
「ああ、いいぞ。万が一ってこともあるかもしれないしな」
嵐田はためらうことなく拳銃をウリエルに渡した。ウリエルは拳銃を受け取ると、それをじっくりと見たり、感触を確かめるためなのかべたべたと両手で撫でまわした。そしてもう十分だと判断したのか、ウリエルは拳銃を嵐田に返した。
「もういいのか?」
「ああ、大体把握した」
いったい何を把握したのかと俺が尋ねようとしたその時、図書館の裏口の方から扉が開く音が聞こえてきた。
その音に対する嵐田の反応は素早かった。嵐田は反射的に裏口の方へ走り出した。俺たちも嵐田の後を追いかける。ひょっとすると、赤川あるいは牧場が裏口から出てきたのかもしれない。
しかし、俺たちの予想は外れた。裏口の近くにいたのは今日見かけた女性職員の林田さんだった。先に着いた嵐田が話を聞くために彼女を呼び止める。林田さんは突然現れた見知らぬ黒服の男に対し不安な表情をのぞかせていたが、続いてやってきた俺たちを見かけると少しだけ安堵の表情に変わった。
「君たちは確か、今日図書館に来た……」
「ここの職員で間違いないな。すまないが、こっちは急いでるんだ。質問をさせてくれ。館内にはまだ誰かが残ってるか?」
林田さんは嵐田の無礼さに少しだけ顔をしかめたが、その不満をぐっと飲みこみ質問に答えた。
「はい。もう閉館しきって他の職員さんも帰っちゃいましたけど、まだあと一人だけ……」
「そ、それって、今日隣に座ってたおじさんですか!?」
「そ、そうだけど」
「そいつか、お前がさっき怪しいって言ってたやつは」
「ああ」
その男が牧場風太郎ということならば、まだやつは館内にいるということになる。嵐田はお礼を言うとともに、これからこの図書館に入ることを告げた。もちろん、ここにお勤めの職員さんがものわかりよく了解するはずもなく、「どうしてですか?」と驚きの顔で嵐田に尋ねた。
嵐田は懐から手帳のようなものを取り出し、それを上下に開いて林田さんに見せた。彼女はそれをじっと見つめ、その手帳の正体がわかったのか慌てた様子で嵐田を見つめた。
「け、警察の方?」
「この館内に俺が追っている人物がいるかもしれない。あんたはもう帰っても構わないから、とにかく館内を調べさせてもらうぞ。あと、このことは他言無用でな」
林田さんは黙ったままうなづき、小走りで裏口の玄関から離れていった。俺はその後姿を見送ると、嵐田のほうを振り向いてつぶやいた。
「さらに犯罪を重ねたな。警察手帳の偽造は犯罪だぞ」
「何言ってんだお前は」
嵐田はあきれ顔で先ほど開いた手帳を俺に見せた。その手帳は単に上下に開くタイプであるだけで、何の変哲もないものだった。なるほど。『印象操作』の魔術か。平島があらかじめ魔術をかけておいたのだろう
「ま、細かいことは気にするな。とにかく、俺はこれから準備が整い次第館内に突入する。お前たちはここらへんで待機してろ」
「いや、俺たちも一緒に行く。霧江さんが中にいるかもしれないんだ。とにかく霧江さんを先に助けなくちゃ」
嵐田は少し考え後、俺の提案を了承した。
「わかった。その霧江って子を見つけなくちゃいけないしな。とりあえず人質を見つけるまで俺と一緒に行動しろ」
嵐田は俺たちにあと十分ほどで館内に入ると告げると、平島に近づき何やら話し始めた。大方作戦か何かを伝えているのだろう。
あたりはすっかり暗くなっている。俺は夜の図書館を見上げた。この中に恐らく赤川と霧江さん、そして牧場風太郎がいる。俺は唾をぐっと飲みこみ、気を落ち着かせた。
しばらくしてから嵐田が俺たちに近寄り、話しかけてきた。
「準備完了だ。図書館に入るぞ」




