表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第二章
35/95

ウリエルの推理

「!?」


 俺と平島は衝撃のあまり言葉を失った。


「ま、待てウリエル。そんな適当なこと……」

「そ、そうですよ。それに赤川さんが犯人っていう根拠があるんですか?」


 ウリエルはうなづく。


「根拠はある。少なくとも、この魔術式を台

無しにした犯人は赤川だろう」

「いったい、どうして……」

「推理に必要な手がかりはすでにそろっている。一から説明すれば理解できるはずだ。赤川が裏切り者だということがな」


 ウリエルは魔術式を指さした。


「まず、この魔術式についてだ。この魔術式、何かおかしいことがないか?」

「おかしいことって言われても……」


 俺は改めて魔術式とその上に書かれた十字架を見つめる。しかし、俺には魔術式を理解することができないため、特段変わったことなんて見つけることはできない。


「平島。何か変わったことがあるか? 例えば、式の中身がおかしいとか」

「いえ、別に。そもそも私が書いたものですし、変更されてるところもありません。でも、気になることといえば……」

「なんだ、気になることって?」

「いや、なんで十字架なのかなぁって」

「?」


 言われて初めて俺はそのことに気が付き、もう一度十字架を見る。


「いや、魔術式を台無しにするのは簡単なんですよ。書き損じた文字を消すみたいな感じでいいんです。でもそういう時って、普通二重線とかバツ印を書きませんか?」

「バツ印!」


 俺は改めて十字架を見る。縦と横が同じ長さの十字架。これって、角度を変えてみれば……。


「平島の言う通りだ。普通の人間は二重線かバツ印を書くはずなんだ。何か特別な理由がない限りな。そして、この場合十字架にする必要性なんてどこにもない」

「ということはつまり」

「これは十字架ではなくて、バツ印なんだ。それをお前が式が書かれている方向から見たせいで、それを十字架だと勘違いしたに過ぎない。それに後で説明するが、意図的にそのような角度にしたというわけではなく、偶然そのような角度になってしまったという方が正しいだろう。ほのか、さっき見てきた魔術式は別に式に対してきれいに十字架が書かれていたわけじゃなかっただろう?」


 ウリエルの言葉に平島は勢いよく首を縦に振る。


「そ、そうです! 確かにもう一つの方は十字架じゃありませんでした。水前寺くんが最初に十字架だって言ったから、それにつられて十字架だと勘違いしちゃいましたけど。あれは今思い出せば、ちょっと斜めになったバツ印でした!」

「なるほど、俺の勘違いのせいってわけね……」


 慌てて平島がフォローする。


「いやいや、そんな怒らないでくださいよ水前寺くん」

「まあ、とにかく十字架じゃないことはわかった。でも、それがなんだっていうんだ?」

「これだけでもいろいろなことが推測できる。しかし、とりあえず一つだけ言うとすれば、これにより平島ほのかが犯人であるという可能性がなくなる」


 え、と平島が小さく声を発する。

 そういえば、俺は平島が犯人だという可能性を最初から考えていなかった。嵐田の話によれば、牧場信奉者には魔術師が多いそうなのだから、魔術師である平島も容疑者の一人として真っ先に考えるべきだったのだ。それに、この一連の行動を一番簡単に行えるのは魔術式を書いた平島自身だ。魔術式を書いた後、そのまま大きくバツ印を書けば済む話なのだから。

 命令された魔術式を書かないとかまったく違う魔術式を書くということもできたであろうが、二人からの突然のチェック等に対して申し開きができない以上、魔術式自体をごまかす行動はうまみがない。それに万が一二人にこのことが気づかれた場合も、すぐさま自分が疑われるようなことにもならないという保険にもなる。

 そしてもし平島がバツ印を書いたとするならば、式に対して正しい角度のバツ印が書かれていることになる。このように十字架に見えるようなバツ印にはならない。


「ひ、ひどいですウリエルちゃん。私も疑ってたなんて」

「い、いや。別に疑ってたというわけでは……。一応、念のためということで」


 思いのほか動揺している平島をウリエルが慌てて慰める。


「まあ、落ち着けよ平島。とにかく、話しの続きを聞こう。これだけじゃ、まだ赤川が犯人だって特定できないぞ」

「そうだな。では、次はどのようにしてこのバツ印を書いたかだ。水前寺。犯人になったつもりでこのバツ印をなぞってみてくれ」

「なぞってっと言われてもな」


 俺は言われるがまま、しゃがみこみ魔術式に描かれた十字架、もといバツ印を右手でなぞった。


 「これでいいか」と俺がそのままの姿勢でウリエルを見上げると、ウリエルは俺を見下すような表情を浮かべながら言った。


「なるほど、水前寺。お前はこんなに多くの人が行きかう中、よくそんな小学生じみた行動が取れるな」

「……お前がやれって言ったんだろうが」


 しかし、俺の言葉は平島が興奮して発した言葉に遮られた。


「た、確かにそうです、ウリエルちゃん! こんな大通りで大の大人がしゃがみ込んで、地面にチョークでなにかを書くなんて怪しすぎます!」


 興奮する平島に俺は疑問をぶつける。


「平島だってしていたのに、なんでそんなこと……」

「な、なに言ってるんですか水前寺くん。この魔術式を書くのには十分以上かかるんですよ! そんなことしてたら、通報されちゃいますよ! 『印象操作』の魔術を使ってたに決まってるじゃないですか」


 俺はあっと間の抜けた声をあげた。

一定の魔力量を持つ俺には見えていただけで、あの時平島は自分に『印象操作』の魔術を使い、他の通行人には見えないようにしていたのか。以前、牧場が俺に対して行ったことと同じだ。

 俺は周囲を見渡した。行きかう通行人の何人かは地面にしゃがみ込む俺にちらりと目線を向けてくる。俺が高校生で、しかも数人で一緒にいるからこの程度で済んでいるのかもしれないが、これが成人男性だったとすると、確かに通報されてもおかしくない。何もない地面にしゃがみ込んで、チョークで大きなバツ印を書いているんだからな。


「そうだとすると、どうやってこのバツ印を書いたんだ?」

「立ったままだろうな。方法は色々ある。杖を使ったり、あるいは靴の裏にチョークを取り付けたりすればいい。そして、平島のアジトに杖がないというのなら靴を使ったんだろう。その方がより自然にバツ印を書ける」


 平島もアジトにそのような杖はないと言った。

 組織の開発したチョークを使えば、魔術を使えない二人にも怪しまれずにバツ印を書くことができる。靴で地面にバツ印を書く行為をしたところで、おそらく靴の裏のガムかなんかを取ろうとしているのだとしか思われないだろう。


「そして、これらを踏まえたうえでだ。どうしてこのような角度でバツ印が書かれたのか。その答えはどうやって犯人が魔術式を見つけたかと関わっている」

「見つけるって言ったって、場所がわかってるなら特段難しいことじゃ……」

「別に平島が指定されたピンポイントに魔術式を書いたというわけじゃないだろう。平島の裁量に任される以上、ある程度の場所のずれはあるはずだ。そして、魔術式には『印象操作』の魔術がかけられている」


 俺は先ほど、平島がこの魔術式を認識するのに少しばかり手間取っていたことを思い出す。平島でさえそうなのだから、あの二人ならなおさら時間がかかるはずだ。


「そうだとすれば、だ。何もない場所でずっと立ち止まっていてはさすがに怪しまれてしまう。だから、数十秒、いやせめて一分程度そこに立ち止まっていても誰も怪しまないような行動を取らなくてはいけない」

「自販機で何かを選ぶ振りをしていた……。いや、違うな。魔術式は自動販売機の前からでは見えにくい場所にある。それに魔術式を見つけたとしても、わざわざ斜めに回り込んでバツ印を書くことなんてしない。その場合はこんな角度にはならないはずだ。それにこの場所ならそれでも可能かもしれないが、他の場所ではそうもいかないしな」

「犯人と同じ場所に立ってみればわかる」


 俺は魔術式の上に立ってみた。靴の裏で魔術式を消したとなると、魔術式の上に乗っていなければならないはずだからだ。

 自分の下で十字架がちょうどバツ印となるような方向は四つ。道路の反対方向は単なるビルの壁があるだけ。この二方向はないだろう。次に道路側の方向を向いてみる。すると、二つのうち式から向かって右斜めの方向を向いて立ってみたとき、ちょうど俺の目の前には妹が行ってみたいと指さした、あのお高い洋菓子店が見えた。

 何もない場所に、最低でも一分間の間ずっと立ち止まっていても怪しまれない行動。俺の頭の中に突然回答が浮かび上がってきた。


「……写真を撮る振りをしていたのか」


 俺の言葉にウリエルはうなづく。


「そう、写真だ。犯人はおそらくあの店の外装を撮る振りをしていたんだ。自分のTwitterか何かに乗せるために店の写真を撮ることなど珍しいことではない。そうすれば一分程度立ち止まっていても怪しまれることはないし、また魔術式を見つけその上に移動するときも、取る角度を変えようとしている風にしか見られないからな」


 ウリエルは手でカメラの形を作り、向かい側の店の方へ振り向く。


「カメラをあそこの洋菓子店に向けたまま、下の地面を見る。若干動きながらな。そしてそのまま地面を見ていれば魔術式が浮かび上がってくる。それを認識できたら、カメラのアングルを変えるようなそぶりをしながら魔術式の上に移動し、足でバツ印を書く」


 ウリエルは洋菓子店の方向を向きながら魔術式の上へ移動し、足でバツ印をなぞった。ちょうど角度が一致している。


「そして、最後に何を使って写真を撮っていたかだ。まあ、カメラである可能性もないことはないが、おそらくはスマートフォンだろう。電話だけでなく写真を撮る機能までついているのだからな。そして、思い出せ。嵐田は今携帯を持っていない。その上機械全般を自分は扱わないと言っていた以上、カメラも持っていないだろう。つまり、この写真を撮るという行為を取れるのは携帯を現在所有している赤川とほのかだけ。そして、ほのかが犯人ではないということはさっき述べた。つまりこの魔術式を台無しにした裏切り者は……赤川、ということになるんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ