願い事の正体
その声とともに俺たちは一斉にパソコンの方へ目線を移した。
近くにいたウリエルがパソコンの画面に顔を近づけ、表示されているサイトの文章を読み始める。俺も隙間から画面をのぞき込んだ。表示されていたのはある専門雑誌のweb記事であり、上段にはでかでかとした文字で『数十年に一度の天体ショー スーパーブラッドムーン』と書かれてある。
「太陽と地球、そして通常より大きく明るく見える月が一列に並んで起きる現象で、その名の通り赤く染まった月を観測することができる。最後に観測されたのがだいたい三十年前で、そしてこの現象が起きるのは……ちょうど今日の夜」
「これに間違いないよ。お父さんが言ってた赤くてきれいっていう言葉とも合致するし。ね、ウリエルちゃんもそう思うよね」
「あ、ああ。そうだな……。他に見当たらないのなら、これになるだろうな」
ウリエルは思案顔で同意した。ウリエルはさらにサイトを下にスクロールして記事を読み進める。記事によると、数日前から話題となっておりテレビでもちょくちょく取り上げられているらしい。俺はあまりテレビを見ないので今の今までこの話題について知らなかったのだが。
「というか、霧江さん。こんな話題になりそうな記事なのに、見つけるのに手間がかかりすぎじゃないですか」
「いや、ちょっと他のサイトとかが面白くって」
そういうことだろうと思った。自分の願い事なのだからもう少し真剣に取り組んでほしい。
「霧江さんたち、この天体ショーを見たいんですか? だったら私天体観測にうってつけの場所を知ってますよ。皆既月食なら別に明るい場所からも見えるでしょうけど、やっぱり雰囲気って大事じゃないですか」
血の月を見るのにロマンチック要素が必要なのかは謎だが、霧江さんは平島の提案に対し上機嫌に答えた。
「やっぱり、ほのかちゃんはわかってるね。こういうのは雰囲気で決まるのよね。せっかくここまで来たんだから、最高のシチュエーションで楽しまなくっちゃ」
「ここまで来た? あれ? 霧江さんって、この町の人じゃないんですか?」
「き、霧江さんはこの数日間だけ遊びに来ているだけなんだ。別にこの町に住んでるわけじゃない」
俺は慌てて霧江さんのフォローに入る。平島は俺の慌てぶりを若干不思議に思いつつも、そのロマンチックなスポットとやらを俺たちに教えてくれた。その場所はここから自転車でちょっとの場所にある自然公園だった。昔小学校の遠足で行ったことがあるが、天体観測にうってつけだとは知らなかった。 なぜこの町に来たばかりにもかかわらずそのような場所を知っているのかというと、平島はもともと天体観測に少しだけ関心を持っているそうで、町中に魔術式を書いている最中に偶然見つけ、今度改めて来ようと目をつけていたらしい。なんでも今夜のブラッドムーンも前もって知っていたそうだ。
関心があるならと、俺たちが今日の天体観測に来ないかと聞くと平島は嬉しそうにうなづいた。そんなわけで、今夜俺たちは四人で自然公園に向かい、その数十年に一度の天体ショーを鑑賞することになった。
調べものもあっさりと解決したため、俺たちはとりあえず図書館から出ることにした。
部屋を出て玄関に向かう最中、パソコンの場所を教えてくれた林田さんが受付で電話の対応をしているのが見えたので、俺は先ほどのお礼の気持ちとして軽く頭を下げる。電話をかけている最中に失礼だったかなと俺は一瞬思ったが、林田さんは電話をかけながら軽く微笑み返してくれた。そして、彼女の隣には一か月前に転任してきた本村という名前の初老男性職員が座っており、俺たちが図書館を出ていく様子をじっと見つめていた。
俺はその視線が少しだけ気になったが、自意識過剰になっているだけかもしれないと思いなおす。俺は職員の視線を気にしないように心がけつつ、他三人に続いて外へ出た。
「霧江さんの話で中断しちゃいましたけど、結局水前寺くんが見た十字架って何なんでしょう」
外へ出ると、平島とウリエルが先ほどの話を始めていた。
その大通りはここから近い。時間もあるし、寄り道して帰ったらどうだとウリエルが提案すると、他三人もそれを受け入れ、俺たちはその現場に向かうことにした。




