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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第二章
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魔術式の罠

 図書館へは歩いて五分ほどで着いた。

 とりあえず最初はネットで調べようということになり、図書館に設置してあるパソコンを借りることにした。しかし、他三人はともかく俺自身この図書館に来ることが小学生以来であったため、設置ブースの場所がわからない。それにここの図書館は意外に大きく、無駄に構造も複雑だった。不親切にも館内地図も見当たらない。

 しょうがないので俺はカウンターの受付で何かの資料を読んでいる初老の男性職員に尋ねてみることにした。しかし、俺が話しかける前に霧江さんが率先してその職員に質問した。


「あの、すいません。パソコンとかいう機械が使える場所ってどこにあります?」

「……」


 その男は霧江さんの言葉を無視するように、資料から目を離さない。耳が遠いのかと思い、俺が代わって尋ねようとした時、近くにいた若い女性の司書さんが気をきかせて話しかけてきた。


「えっと、君たち。パソコンの場所を知りたいの?」


 俺がうなづくと、司書さんはカウンターからこちら側へ出てきてくれた。胸元にあるネームプレートには林田と書かれている。林田さんは懐から館内地図を取り出し、それを使って丁寧に設置ブースまでの行き方を教えてくれた。俺がお礼をしようとすると、それを遮るように霧江さんが司書さんに向かって囁き声で言った。


「なんであの男の人、私を無視したんですか」

「……霧江さん、そういうのは頭の中にしまっておくことですよ。耳が遠いんじゃないですか」


 林田さんは少しだけ驚いた表情を浮かべると、その後すぐさま思い直したように「本村さんのことね」と霧江さんに笑いかけた。


「本村さん先月ここに転任してきたばかりの人なの。だからパソコンの設置場所がわからなくって、あえて聞こえないふりをしたのかもね」


 いい大人がそんな狡い真似をするとは思えないけど。単に耳が遠くて聞こえなかっただけのような気もするが。。

 ともかく俺は林田さんに改めてお礼を言い、霧江さんがこれ以上危ないことを言いださないうちにと、足早に教えてもらったパソコンの設置ブースへと向かった。




「そういえば、昨日嵐田が言っていた罠って何のことだ?」


 手持無沙汰だった俺はすぐそばにいる平島に話しかけた。

 パソコンが置かれているこの部屋は談話室も兼ねているようで、他の人の迷惑にならない程度の談笑が許されていた。部屋奥の壁際にはパソコンがずらりと並べられており、そのうちの一つで霧江さんがウリエルに教えられながら楽しそうにネット検索をしている。

 俺と平島は二人が使用するパソコンのすぐそばに置かれている机の椅子に腰かけており、霧江さんの操作するパソコン画面を容易に覗き込むことができた。


「罠っていうのは、私が町中に作った魔術式のことです」

「魔術式?」

「はい。牧場さんがこの町にいることは間違いなさそうなんです。だから、とりあえず町中に魔術式を張っておいて、そのうちのどれかに牧場さんが引っかかるのを待っているんです」

「もしかして、おとといの朝、すぐ近くの大通りで書いてたやつじゃないだろうな」

「え!? もしかして、水前寺くん見てたんですか?」


 平島は急に立ち上がって言った。俺は周りに迷惑だからと、平島をなだめる。


「そ、そうです。ちょうどおとといの朝に、そこの大通りで魔術式を書いてました。まさか見られてたなんて……」

「そんなに恥ずかしがらなくても。仕事だったんだろ? そんなことよりも、牧場を探すための魔術式ってどんなものなんだ?」

「それはですね……」

「『嘘発見』の魔術式だろ?」


 気が付くとウリエルがパソコンから目を離し、俺たちの方を振り向いていた。どうやらさっきから俺たちの話が聞こえていたらしい。


「ウリエルちゃんの言う通りです。『嘘発見』をベースに『印象操作』を組み込んだ魔術式を書いてました。私たちの組織ではよく実用されているものなんですよ」


 嬉しそうに話す平島に対し、ウリエルは納得したようにうなづいた。

 『嘘発見』の魔術? 確か、昨日座布団の中に平島が仕込んだ魔術がそれだったような。単に嘘をついたかどうかを識別するだけの魔術ではないのか。


「詳しい仕組みを省略して説明するとですね、『嘘発見』の魔術はもともと対象をとりまく違和感のようなものを探知する魔術なんですよ。その応用で、嘘だけでなく、『印象操作』の魔術といった詐術的な要素を持つ魔術の探知もできるんです。まあ、名前がシンプルで覚えやすいっていうことでそういう名前になっているんですけど……。

 もし違和感があれば、魔術式を書いた人にそれが伝わる仕組みになっているんです。しかもその上ですね、この魔術は周囲をとりまく違和感を探知するという性質上、対象そのものとか対象にかけられている魔術の魔力量に関係なく機能するんです。私たちの専門用語で言うと、抵抗を受けないっていうことなんです。なりすましの発見とか、尋問によく使われる魔術として知られてます」


 そういえば、昨日ウリエルは嵐田たちに促されて『嘘発見』の魔術式の上に乗った。あれはウリエルが彼らに対し、『印象操作』の魔術を使っていないということを証明するためだったということか。

 しかし、どういう目的で町中にその『嘘発見』の魔術式を書いたのだろう。


「町のどこかにいるとは言っても、あまりに探す範囲が広い。それに牧場が印象操作で外見を変えて生活している以上、さらに見つけ出すのが困難になる。しかし町中に気付かれないように魔術式を書いておけば、いずれどこかしらの魔術式がやつを捉えることになる。どこの魔術式がどれだけの頻度で反応したかをもとに牧場の行動範囲を予測し、捜索範囲を徐々に絞っていくということなんだろう」

「そんな簡単にいくのか? 牧場だってそれなりに魔術に精通しているわけだし、そんな罠に引っかかるとは思えないんだけど」

「だ、大丈夫ですよ! 嵐田さんと赤川さんが考えに考え抜いて場所を決めてますから。それに町中の至る所に私が何日もかけて魔術式を作ったんですよ。さすがの牧場さんも全部の魔術式を避けながら生活するなんて不可能です!」


 平島は自信満々だ。しかし、そこまで言うのならある程度信用してもいいのかもしれない。


「それにしても、その『嘘発見』の魔術って便利だな」

「そうですね、初歩的で簡単な魔術なんですけどかなり実用的なんです」

「簡単ねぇ。もしかして、俺にもできちゃったりする?」

「そうですねぇ、いくつかの魔術式は模写するだけで使えるんですけど。この魔術は少し難しいかと……」


 平島はそういうと、書く物がないかと尋ねてきた、ノートの切れ端でも渡そうとしたが、わざわざ鞄から取り出すのも面倒くさい。何かないかと俺がポケットに手を突っ込むと、そこには先ほど俺が入れたままにしていた平島ほのかファンクラブ会員証があった。


「これなんかどうだ。裏面が白紙だし」

「あー! これ私のファンクラブ会員証じゃないですか! 大事に取っておいてくださいよ」


 先ほどは印象操作のやりすぎを反省していたと思ったが、案外自分にファンクラブができていることはそれほど悪い気がしないらしい。俺が権田に無理やり押し付けられただけでもう必要ないと言うと、平島は自分のポケットからボールペンを取り出し、不機嫌そうに何かを書き始めた。

 五分ほどで書き終わり、平島は魔術式を見せてくれた。そこには一昨日ウリエルが地面に書いた式と同じように、なじみのない文字が数十行程度にわたって書き連ねてあった。


「これが『嘘発見』の魔術式か?」

「そうです。まあ、かなり簡単に書きましたけど」


 俺は椅子から立ち上がって、じっと魔術式を見つめる。しかし、もちろん何が書かれてあるかなどわかるはずもない。


「魔術式はパソコンで言うプログラミングに近いところがあるんです。この魔術式は嘘を探知したら私にそれが伝わるように作ってあるんですけど、誰にそれが伝わるのかというところは変数部分で、そこを書き換えることで水前寺くんに伝わるようにすることができます」

「え? じゃあ、俺にもこの魔術が使えるってことか?」

「そんな簡単にいくわけがないだろうが」


 ウリエルが俺の手からひょいと魔術式が書かれたカードを取り上げる。そして、平島が書いた魔術式を丁寧に読んでいる。魔術師ならば式の意味が容易に理解できるのだろう。


「自分を魔術言語で表すということがそもそも大変なんだ。日本語をローマ字で表すのとはわけが違う。私たち魔術師はまず最初に、何年もかけて自分を示すオリジナルの魔術言語を生み出さなければならない。これだけは一日そこらでできるものではない」

「そうなの?」


 平島は苦笑いを浮かべながらウリエルに同意する。少しだけ期待したが、やはりそう上手くはいかないらしい。


「俺にも魔術使えると思ったんだけどな」

「まあ、『嘘発見』とか『印象操作』の魔術は無理でも、『物質移転』の魔術なら、水前寺くんでも誰かが書いた魔術式を丸写しすることで扱えないこともないですけど」


 できるなら、『印象操作』の魔術をやりたかった。俺はがっくりと肩を落とす。


「私が罠として書いた魔術式はこれよりもっと複雑で長いんですよ。だから、本当に書くのが大変で……」

「ああ、そういえばもっと式が長かったな。その上に十字架も書いてあったし……」

「十字架ですか?」


 平島は怪訝な表情を浮かべた。


「何言ってるんですか、水前寺くん。魔術式の上に十字架なんか書くわけないじゃないですか。魔術式はこう見えてかなりデリケートなんですよ。式の上にそんなものを書いたら、一部分が塗りつぶされて式が発動しなくなっちゃいます」

「いや、俺が見たときは確かに十字架が……」


 俺の反論を遮るようにウリエルが口を挟んできた。


「平島の言う通りだ。例えば、この式の中の一文字を塗りつぶしただけで、魔術式全体が駄目になってしまう。そんな十字架が書かれていたら、もうその魔術式は機能しない。見間違いじゃないのか?」


 おととい俺が魔術式を見つけた時、確かに文字列の上に十字架が書かれていた。見間違いなんかじゃない。俺がそのことを伝えると、二人は困惑気味に顔を合わせる。

 ウリエルは俺にとりあえず落ちついて、椅子に座るように言った。そして俺が椅子に座るとウリエルは俺の顔を見つめ、さらに念を押すかのように尋ねる。


「水前寺。お前は確かに魔術式の上に十字架が書かれているのを見たんだな」

「当たり前だ」


 するとウリエルは突然平島の方へ振り向いた。


「どうだ、ほのか。水前寺は嘘をついているか?」

「いや、何も感じませんでした。どうやら本当みたいですね」


 何をこいつらは言っているんだと俺が不審げに二人を見つめると、ウリエルは椅子の上を見てみろと俺に言った。俺が椅子から立ち上がり、見てみるとそこには先ほどまでウリエルが手にしていた魔術式の書かれた会員証が置かれてあった。

 俺が椅子に座る直前、ウリエルが『物資移転』の魔術で椅子の上に会員証を移動させたのだろう。


「……そこまで、俺の言うことが信用できなかったんですかね」

「まあ、落ち着け。単なるおふざけだ。昨日も言っただろう。どうやって気が付かれずに対象者を魔術式の上に乗せるか大事だっていうことを。しかしまあ、水前寺の言うことが本当ならば、いったいどういうことなんだろうな」


 ウリエルは澄ました顔で答える。 

 俺たちの間に一瞬の間が流れたその時、今までパソコンの前で作業していた霧江さんが突然声をあげた。


「み、見つけた! これだよ、きっとおじいちゃんが見たっていうやつは!」


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