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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第二章
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願い事とは?

 霧江さんの証言はなにか赤くてきれいなものとかいう漠然としたものでしかない。それなのに、どうやって見当をつけたというのだろう。


「水前寺。一昨日に話した、神力が願い事を叶える際の原則を覚えているか」

「あ、ああ」


 神力の原則。確か、願い事を実現させる際には、あらゆる手段のうちもっともコストのかからない手段をもって実現させるとかいう原則。


「それに基づいて考えるんだ。霧江さんが言った赤くてきれいなものをXとしよう。もしXが宝石だとすると、お前が神力にXを見たいとお願いしたとき、神力はどうやってお前の願い事を叶える?」

「そりゃ、そのXを俺の目の前に持ってくる……。なるほど、そういうことか」

「そう、簡単なことなんだ。もしXが建築物か何かだった場合、それをお前の目の前に持ってくることはできないから、神力はお前をその風景が見えるところに連れていく。当り前だが、重いものより軽いものを運ぶ方がコストがかからないからな。次にXが年に一回しか見ることのできない風景のようなものだった場合、神力はお前を願い事をした時点から最も時間的に近い時点にお前をタイムリープさせる。最も時間的に近い時点と私が言ったのは、先ほどの原則があるからだ」


 ウリエルの言いたいことがなんとなくわかってきた。


「つまり、霧江さんがこの二十年後の現代に来たということそのものが手掛かりというわけか」

「そうだ。霧江さんが二十年後にタイムリープしているという事実から、Xは物体とか年に一回見られるような風景ではない。おそらくもっと珍しい現象か何かだと考えられる。しかし、霧江さんの祖父はそれを見ているとのことだから、一回きりしか起こらなかったというわけではない。もし、そうならば霧江さんは未来にではなく、過去にタイムリープしているはずだからな。

 さらに霧江さんが霧島神社に降り立ったということも考えなければならない。つまり、これはXが霧島神社周辺でしか見ることができない、あるいは霧島神社周辺からでも見ることができるということを意味するんだ。そして、祖父は霧島神社でそれを見たと特段言っているわけではない以上、神社周辺からしか見ることのできない現象だとは考えにくい。これらを整理すると、Xは何十年かに一回発生する現象で、かつ広範囲にわたって観測できる現象、すなわち……」

「……天体ショーか」


 俺の言葉にウリエルは「そうだ」とうなづいた。

 天体ショーは広範囲にわたって観測可能であり、さらに珍しい現象なら数十年に一度しか起こらないということもざらだ。見事に条件に当てはまっている。


「今の推理はタイムリープが単なる空間移動よりもコストがかかることを前提としているが、まあ、その前提は正しいとしてもいいだろう。他にも引っかかる点はあるが、神力のメカニズムが謎のままである以上、絶対に確実な答えは導き出せない。しかし、とっかかりとして天体現象を調べてみる価値はある」

「……その通りだな。何の手がかりもない状態からは一歩進んだって感じだ」


 ウリエルの言葉を隣で聞いていた霧江さんも納得したようにうなづいた。


「じゃあ、早速調べようか。確か、すぐ近くに図書館があったからそこに行こう!」

「……え?」

「どうしたの愁斗くん、そんなすっとんきょうな顔して」


 霧江さんが俺の顔を覗き込んでくる。


「いや、別に調べものならわざわざ図書館に行かなくてもと思って。今の時代、スマホで検索すれば一発だし」


 俺はポケットからスマホを取り出し、霧江さんに見せた。霧江さんは物珍しそうにそれを観察する。


「そういえば愁斗くん昨日それで何かしてたよね。何してんだろうってずっと不思議に思ってたんだけど」

「そっか、ウリエルは今携帯すら持っていないんだっけ。えっと、霧江さん。これはスマートフォンっていって、簡単に言えば携帯できる電話なんだ。しかもそれだけじゃなくて、写真が撮れたりネット検索ができたり……」

「……へえ」


 ついてこれていないようだ。仕方あるまい、霧江さんの時代にはスマホはおろか携帯すら普及していないのだから。

 俺が何とか霧江さんに理解してもらおうとわかりやすい言葉を探していると、ウリエルが見かねたように会話に入ってきた。


「しかし、図書館に行くのもあながち悪い選択ではないと思うぞ。ネットで調べたものが必ず正しいとは限らないし、新聞や雑誌の情報が必要になるかもしれないからな。それに、ここで立ちっぱなしというわけにもいくまい。私と霧江さんも動きっぱなしで足が疲れてるしな。すぐ近くにあるわけだし、行くだけいってみてもいいだろう」

「まあ、言われてみればそうだな」


 俺が同意し、三人で図書館に向かおうとしたその時、俺は校門から平島ほのかが出てくる姿が見えた。

 平島もこちらに気が付いたようで、小走りに近づいてきた。


「昨日のみなさんじゃないですか! どうしたんですか、こんなところで? あ、でもそんなことより……。大丈夫でした、水前寺くん? 今朝権田君に拉致されてましたけど」

「……その話はしないでくれ。あんまり思い出したくないんだ」


 興味津々の霧江さんが今朝何があったのかを平島に尋ねると、平島が簡単にそのことを話した。


「すごいね、ほのかちゃん。学校にファンクラブができるなんて」


 霧江さんの言葉に平島は照れ笑いを浮かべながら返事をする。


「『印象操作』の魔術を使ってるからですよ。全然すごくありません。むしろ、工作活動のためとはいえ、ちょっとやりすぎちゃった感が……。すみません、水前寺くん。巻き込んじゃって」

「ほのかちゃんが気にすることないって。で、愁斗くん? その権田君って人と何したの? ほのかちゃんを巡っての殴り合いとか?」

「……ドラマの見すぎですよ、霧江さん。とにかく俺と平島がそんな特別な関係じゃないって権田を必死に説得して。なぜか俺が平島ほのかファンクラブの会員になることで決着しました」


 俺は財布から、会員カードを取り出し三人に見せてやった。

 『平島ほのかファンクラブ会員番号十二 水前寺愁斗』と表面に大きく書いてあり、その名前の周りをかわいらしいピンクの模様で縁取ってある。しかし、裏面は白紙のままで、会長権田の大雑把さが見て取れる。このカード発行料と称して五百円もふんだくられたことは口が裂けても言えない。


「ま、まあ終わったことは忘れましょうよ! ところで、もしみなさんこの後何もないなら今日も家に来ませんか? まだまだお喋りしたいこととかあるし!」


 話題を変えようとしたのか、平島は明るい調子で言う。


「すまん、平島。ちょっと俺たちは今からすぐそこの図書館に行くつもりなんだ」

「あ、そうなんですか」


 俺の言葉に、平島は少しだけがっかりしたように返事をした。その平島の様子を察したのか、霧江さんは唐突に平島の手を握りにっこりと笑いかけた。


「もしよかったら、ほのかちゃんも一緒に来ない? 図書館でもお喋りはできるでしょ?」


 図書館での私語は駄目だろう、なんて野暮な突っ込みはできない。


「え? でも、お邪魔じゃないですか?」

「いいのいいの。私はO型だからそんなこと全然気にしないの」


 O型だからという理由はよくわからないが、平島も霧江さんの押しに負け、一緒に行くことを承諾した。しかし、平島もどこかまんざらでもない様子だ。印象操作で人気者になったとは言え、平島はまだ転校してから二日目だ。まだきちんとした友達はできていないのだろう。

とにかく、ここでいつまでもしゃべり続けるわけもいかない。平島が律儀に嵐田たちに連絡するのを待ってから、俺たちは近くの図書館へ向かった。



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