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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第二章
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転校生、平島ほのか

 霧江さんのタイムリープ騒動から一夜明けた翌日。

 俺はいつも通りの時間に起床し、そしていつも通りの時間に学校に着いた。しかし、教室に入った瞬間、俺は周りの雰囲気がいつもと違うことに気が付く。なにやら周りの人間ががやがやと騒いでいたのだ。俺は珍しく先に来ていた早川翔を捕まえ、何があったのかを尋ねてみた。


「なんか今日から隣のクラスに転校生が来るらしいぞ」

「転校生? 確かにこの時期には珍しいけど、そんなにみんな騒ぎ立てるほどのことか?」


 しかし、早川はやれやれと俺を小ばかにするように首を横に振った。


「転校生だけでこんな盛り上げるわけがないだろ? いいか、よく聞け水前寺。転校生は転校生でもな、なんとその子は超絶美人な転校生なんだってよ!」







 午前中の授業が終わって昼休みになった。

 俺が昼飯を買いに行こうと立ち上がろうとしたその時、陽気な笑みを浮かべた早川が俺のもとにやってきた。なんでも、隣のクラスに来た転校生を見に行こうというお誘いらしい。なんでわざわざ見に行くのかと、俺が聞くと、早川は呆れた表情を浮かべて答えた。


「なんだよ、愁斗。朝に言ったはずだよな、その転校生がめちゃくちゃ美人だってこと。男子高校生の責務として、見に行かないわけにもいかないだろ!?」


 俺は早川に引っ張られる形で、しぶしぶ隣のクラスに向かった。俺と早川はクラスの入り口から中の教室をうかがうと、噂の転校生とやらがいる場所が一発でわかった。というのも、教室の一角に、一つの机を囲むような形で人だかりができていたからだ。俺は人だかりの隙間から時折見える、転校生の姿をじっと観察した。そして、その転校生が俺の予想していた人物であったことを確認した。

 やっぱりと言っていいだろう。こんな珍しい時期にやってきたその人物は、昨日黒服二人組と一緒にいた例の女の子だった。

俺は早川に、彼女の名前を聞いてみる。


「ああ、平島ほのかっていう名前らしいぞ」


 平島ほのか。それがあの女の子の名前。もちろん偽名である可能性も否定できないが、俺はその名前をしっかりと頭に刻み込んだ。

 俺は平島ほのかの様子をもう一度じっくりと見てみる。しかし、なんら怪しげな雰囲気はない。周りの人間とも楽し気に話している様子はまさにどこにでもいる女子高生といった感じだった。


「それにしても、すごい人気だな」


 俺と同じように平島を見つめる早川が俺にささやいた。


「確かにな、物珍しさもあるだろうが、すごい人気者みたいだ」

「まあ、あんだけ美人だったら納得だけどな」

「はあ?」

「なんでも去年同じクラスだった権田が転校生に一目惚れしちゃったそうでさ、早速ファンクラブを立ち上げちまったらしいぞ」

「権田って、あのラグビー部のやつか……」


 俺は改めて平島の容姿を見つめてみた。しかし、俺は首をかしげる。

 確かに平島ほのかは小動物を連想させるような可愛らしい顔立ちをしていた。ゆるくウェーブがかかった髪はナチュラルな茶色をしており、肩の下あたりまで伸びている。女子高生らしい愛嬌あるしぐさもまた、その魅力を引き立てている。

 しかし、それを考慮したとしても、転校して初日にファンクラブが出来上がるほどの可愛さというほどではない。平島ほのかは一目見ただけではっと振り返ってしまうような美人というわけではなく、むしろ日々の中で次第にその魅力が伝わるような男子受けのする女の子という方がふさわしかった。純粋な顔立ちの整い具合で言うなら、由香やウリエルの方が上だという気がしなくもない。


「うーん、やっぱり美人だわ、平島ほのかちゃん」

「おいおい。由香にチクるぞ」

「い、いやいや、別にそんなつもりじゃねーからっ!」


 早川は慌てて否定する。由香が旅行でいないことをいいことに若干浮かれ気分でいるようだ。

 しかし、あそこまで由香とべったりな早川までそんなことを言うなんて、と俺が呆れた瞬間、俺は平島ほのかが周りの人間からこれほどまでに好感を寄せられている理由に思い当たった。


 (なるほど。『印象操作』の魔術か)


 『印象操作』の魔術。その言葉通り、魔術を自分にかけて、相手が自分に持つ印象を操作するというもの。おそらく、平島ほのかはこの魔術を使い、周りの人間からあれほどの好印象を得ているのだろう。そうだとしれば彼女もちの早川がここまでたぶらかされたことにも納得がいく。

 しかし、消費した以上の魔力量を持つ人間には効かないという魔術特有の性質ゆえ、ある程度魔力量を持つ俺には平島が普通の女子高生にしか見えないのだろう。

 転校生を十分に観察し終わった俺と早川は教室へ戻った。俺は転校生平島ほのかと黒服二人組について考える。昨日、彼らがこの学校に来ていたのは学校への編入のための手続きのためだったのだろう。そして、なぜこの高校に平島が送り込まれてきた理由もなんとなく察しが付いた。

 おそらく、目的は俺なのだろう。俺があの黒服二人組の顔を知っているように、やつらも俺の顔を知っていた。牧場風太郎がやったような手段を使わなくとも、俺の身元を調べることは可能だ。神力に関係する人物として、俺を足掛かりに調査を進めるつもりなのかもしれない。

 と、なると。平島ほのかがこれから取ってくる行動にも予想がつく。彼女が黒服二人組の関係者だと知っているのは、偶然によるものだ。やつらもそのことは想定していないだろう。平島ほのかはこれから学校に溶け込んだ後、なんらかの偶然を装ってノーガードの俺に接近してくるはず。突然のコンタクトは俺に警戒心を植え付けることになるからだ。そして、交友を緩やかに深めつつ、俺から情報を引きだしていく。それがやつらの計画ではないだろうか。

 その推測が正しければ、とりあえずはしばらくの間は何もしかけてこないことになる。少なくとも、二十年前の霧江さんがやつらと関わり合いになることはなさそうだ。

俺がそう思い、売店に昼飯を買いに行こうとしたその時だった。

 おもむろに隣のクラスの男子が教室に入ってきて、きょろきょろと周囲を見渡し始めた。そして、俺の姿を見つけると、どこか不機嫌そうな表情を浮かべながら俺に近づいてきた。


「水前寺だよな。なんかお前に転校生から伝言を預かってんだけど」

「伝言?」

「ああ。なんでも話したいことがあるらしくて、放課後に体育館横の踊り場に来てほしいってさ」

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