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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第二章
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黒服の二人組

 学校のチャイムが鳴り、放課後がやってきた。

 結局あの後、全力で走ったがHRの開始には間に合わず、遅刻扱いとなってしまった。進路調査票をもっと早く探し出せていたら、と後悔しつつ、俺は下校の支度をし、友達に別れを告げて家に帰ろうとした。

 しかし教室を出て下駄箱に向かう最中、何気なく廊下の窓から外をのぞいた瞬間、俺は思いがけないものを目の当たりにした。俺は一瞬自分の目が信じられず、慌てて窓の近くに寄ってもう一度よく観察してみる。

 俺の目線の先には、校門に面した道路に佇む三人の人物がいた。二人は黒スーツを着た成人男性で、もう一人は俺と同い年の女の子だった。その三人は互いに向かい合い何かを話している。

 俺が見つめる三人。そのうちの二人、いやもしかしたら三人全員を俺は見たことがあった。だからこそ、俺はその三人を見たとき自分の目を疑った。

 まず黒いスーツを着た二人。遠目からでも、俺は確信を持って言えた。あいつらは、まさに一か月前、俺とウリエルのもとに神力よって突然現れた黒服の二人組だ。つまり、あの牧場風太郎と同じ組織に所属し、組織からの監視役として行動を共にしていた人物。体格も、顔も一致している。

 そしてやつらと一緒にいる女の子。その子はまさに今朝俺が見かけた女の子に違いなかった。近道として通った大通りで、一人しゃがみ込んで地面に落書きをしていた女の子だ。あまりに不可思議な光景だったから、印象が強く残っている。着ている服も同じだし、黒服二人組ほどの確信はないがほぼ間違いない。

 俺はそのまま窓から三人の様子をうかがった。その三人はただ何かを話しているだけで特段変わった行動をとる気配もない。そのまま三人は近くに止めてあった車に乗りこみ、学校を離れていった。

 俺は拍子抜けをしつつ、なんで黒服二人組がこの町に再びやってきたのかと考えた。

 もしかして、やつらは牧場と関係していて神力について探っているのではないだろうか? たとえ、もともとは牧場の監視役だったとしても、神力の価値を考えればそう考えるのも不思議ではない。だとすれば、二人組とともにいたあの女の子はいったい何者なのか。そして、今朝彼女がやっていた不思議な行動は何を意味しているのか。

 しかし、頭の中で考えているだけでは答えなど浮かぶはずもない。とにかく今朝女の子がしゃがみ込んでいた場所に行ってみよう。そうすれば何かがわかるかもしれない。

 俺は窓から外を見て三人組がすでにいないことを改めて確認すると、そのまま靴箱に向かい学校を飛び出していった。


             






 今朝通った大通りにつくと、すぐさま俺は女の子がいた場所を探した。記憶では確か自販機のすぐそばにあった気がする。俺はその手がかりと今朝見た光景の記憶をもとに大通りを行ったり来たりし、ようやく目的の場所を探し当てることができた。

 確か、今朝あの子は何かチョークのようなもので地面に落書きをしていた。俺は周囲を見渡し、落書きを探す。

 しかし、そのようなものは見当たらない。

 女の子が去り際に消してしまったのか? いや、そうは考えにくい。あんなに一心不乱に書き続けていたものをわざわざ消すなんて。俺は再び地面を注意して見てみた。特に、女の子がちょうど落書きを描いていたあたりを中心に。

 やはり何もない、と俺があきらめかけたその時だった。

 徐々に地面にうっすらと何か白い文字が浮かび上がってきたのだ。俺は驚き、自分の目をこすって、その場所を凝視してみた。

 確かに見える。何か、チョークで書かれた文字と、その上に十字架のような記号が。

 その落書きは、絵ではなくパソコンのプログラミングのようなものだった。見慣れない文字が何行にもわたって書き連ねてあり、その上に縦と横の線がちょうど同じくらいの長さの十字架が荒々しく描かれている。文字は俺の知るアルファベットのようなものに似ていたが、所々よくわからない文字が混じっていて、英語でないことは明らかだった。

 俺はそこで、さっきまでうっすらとしか見えていなかったこの落書きがいつの間にかはっきりと認識できていることに気付いた。試しに一歩引いてからその落書きを見ても、その落書きはきちんと知覚できた。

俺はそこで首をかしげる。おかしい。さっきまで落書きは見えなかったはずなのに。そこに落書きがあるとわかった瞬間、その落書きがはっきりと見えるようになった。

 まるで、俺の落書きへの認識が何か不思議な力によって操作されているみたいに。



 魔術。

 その単語がふと頭の中に浮かび上がった。もちろんそう考える根拠なんてない。単なる思いつきだ。しかし、もしこの落書きが魔術と関係するものならば、ウリエルが何か知っているかもしれない。黒服の二人組のこともある。とにかくこの一連の出来事をウリエルに相談しなければならない、俺が決意したその時だった。


「……こんなとこで何やってんの、兄貴?」


 突然後ろから声をかけられ、俺はびくっと体を震わせた。

 恐る恐る振り返ってみると、そこにはランドセルを背負った俺の妹、水前寺あずさが不審者を見るような目で俺を見ていた。


「や、やあ、あずさ。こんなとこで会うなんて珍しいな」

「それはあずさのセリフだ。兄貴はいつも違う道から帰ってるのに、なんで今日はあずさの帰り道にいるんだ?」


 あずさの追求を俺は笑ってごまかそうとした。

 その反応にさらに疑惑を深めたようで、あずさはぎゅっと眉をひそめた。あずさはいつものように肩下まで伸びた黒髪を片手でいじくりながら追求するような目つきで俺を見つめ続けてる。


「は、早く帰らないと魔法少女ピラリの再放送が始まっちまうんじゃないのか?」

「今日は放送休止だから、別に急いで帰らなくていいんだよ。それにしてもなんか様子がおかしいぞ、兄貴」


 あずさが俺をじっと疑わし気に見つめてくる。


「さては、兄貴。隠し事だな? あずさの女の直感をなめちゃ駄目だぜ。例えば、その後ろに何か秘密の暗号があったり……」


 俺は俺の背中側に回り込もうとするあずさの行く手を阻んだ。

 もしかしたら、後ろの落書きはあの黒服二人組に関わるものなのかもしれない。妹が変なことに巻き込まれないためにも見せないに越したことはない。


「そうだ、あずさ。なんかのど渇いてないか? 今日の俺は機嫌がいいからな。そこの自販機で好きなもんおごってやるよ」

「はあ、兄貴もわかってないなあ。小六が、そんなジュースごときで丸め込まれるかよ。あずさはそんな安い女じゃないんだぞ」


 あずさはやれやれと俺を小ばかにしたように鼻で笑った。最近、あずさは魔法少女ピラリに出てくるキャラに影響され、やけに大人びたセリフを使ってくる。 


「……わかった。なんかここら辺の店で甘いものでも食わせてやるよ」

「マジか!? さすがあずさの兄貴だ! 話がわかるな!」


 その言葉を聞くと妹は目を輝かせ、俺に抱き付いてきた。

 少々の出費は仕方あるまい。去年まではジュースで簡単に買収できたのになぁ、と俺は心の中でため息をつく。


「とりあえず、なんか食べたいものあるか」

「あずさはな。ずっっと前から、あの店のケーキが食べたかったんだ!」


 そういうとあずさは、あずさから見て右斜めの方向を指さした。

 俺がそちらへ振り返ると、そこにはおしゃれな雰囲気を惜しげもなく漂わせる、いかにも高級そうな洋菓子店があった。向かい側の歩道にあるその洋菓子店は、地元でもおいしいと有名なお店だ。しかし、そのお店は高校生が頻繁に通うにはかなり厳しい価格設定がなされており、俺の小遣い事情ではなかなか手が出ないお店でもある。もちろん、そんな高価なものを小学生におごってやれるほど俺は裕福ではない。


「……あの店は高校生以下の入店が条例で禁止されてるんだ。だからあずさは入れない」

「そ、そうなの!?」

「だから、隣のタイ焼き屋でタイ焼きを食べよう。……あの店には、五、六年後にまた連れてってやるから」

「そうだなー。でも、絶対にいつか連れて行ってくれよ」


 あずさは露骨に落ち込みながら言った。冗談で言ったつもりが、真に受けてしまったようだ。俺はある種の罪悪感を感じながらも、妹の手を握り、向かいの通りにあるタイ焼き屋に向かった。

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