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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第一章
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駆け引き

「はーい、二人とも両手を頭にのせて。とりあえず、神力へのお願いの仕方を教えてくれたら、命は助けてあげるよ。ぶっちゃけ、手りゅう弾なんかより、拳銃とかの方がかっこがついたんだけどね。時間がなくてさ、そこはご勘弁。あ、もちろんこの手りゅう弾は本物だよ。というか、本物だと想定して動かざるを得ないよね。なにしろ命がかかってるんだから」


 牧場は無邪気にピン抜いた手りゅう弾をひけらかしながら言った。

 俺は歯ぎしりをしながら牧場を睨み付ける。そもそも一日で手りゅう弾なんて作れるものなのだろうか。いや、一日で盗聴器を作れるなら可能なのだろうし、ここで牧場が嘘をついていることを祈って行動するのはあまりに無謀すぎる。牧場の脅しは本物だ。おそらく、その気になれば俺を殺すことになんの躊躇もしないだろう。うかつに逆らうのはまずい。

 俺は言われた通り両手を頭にのせた。

 ウリエルの方はというと、右手に持った由香の弁当箱をどうしようか少し迷った後、その弁当箱ごと両手を頭にのせた。そんなもの地面に置いておけよ、と俺は心の中で突っ込む。

 とにかく、今俺たち二人は窮地に立たされている。

 それに、由香のこともある。今すぐにでも、神力を使って助けてやらなければならないと、由香の命が危ない。

 俺は牧場に悟られないよう慎重に、ちらりと霧島神社の本殿の方へ目をやった。神力を使えばこの状況をたやすく打開できる。しかし、俺が今いる地点から本殿前の賽銭箱までは、およそ二十メートルあった。全力で走っても、最低五秒はかかるし、そのうえ願い事をするには財布から硬貨を取り出して賽銭箱に入れなければならない。

 一方、牧場との距離は五メートルほどある。隙をついて走り出したところで、牧場が手りゅう弾を投げて届く範囲からすぐに抜け出すことはできないし、そもそも『物質移転』の魔術がある以上、途中で爆殺される可能性の方が高い。

 交渉に応じるべきだろうか。俺の頭の中にそのような考えが思い浮かんだ。牧場に神力への願いことを教えるのはまずい。それは直感でわかる。こいつにこんなでたらめな力が渡ることは危険すぎる。しかし、この状況を俺はどうすることもできない。やはり、由香を一刻でも早く助けるためにも、条件にのるしかないのだろうか。


「騙されるなよ、水前寺」


 突然ウリエルが俺に声をかけてきた。


「な、なんだよ」

「いいか、よく考えろ。牧場は神力のでたらめさをよく知っている。その力も、その恐ろしさもだ。そして現時点で、神力を現在使いこなせるのはお前だけ。つまり、牧場にとってお前は最も警戒されるべき人間なんだ。こうして手りゅう弾を使わざるを得ないほど。お前をのこのこと生かして帰せば、その神力を使って何をされるかわからない。何しろなんだってできるんだからな。遠くから人ひとり殺すのだってたやすいだろう。お前が嘘をつく可能性もあるのに、願い事の方法を教えてくれたら命を助けるなんて取引を本気で持ちかけてくると思うか?」

「っていうことは、つまり……」

「どちらにせよ、お前を生きて返すつもりはないっていうことだ。教えてくれたらラッキー程度に考えてるのかもしれないな」

「……ひどいなぁ、お嬢ちゃん。まるで僕が本物の悪人みたいじゃないか。だめだよ、水前寺くん。その子の言うことを信じちゃ。僕の知り合いにも、可愛い女の子に騙されてひどい目にあった人がたくさんいるんだから」


 牧場は俺を諭すように言った。

 しかし、今さら牧場の言うことを信じる気にはなれない。認めたくはないが、ウリエルの言ってることは、確かに正しい。

 ウリエルはそんな俺の困惑を気に欠ける様子もなく、落ち着いた口調で牧場に話しかけた。


「おい、牧場風太郎とやら」

「なんだい、お嬢ちゃん?」

「……お嬢ちゃんというのはやめろ、鳥肌が立つ。まぁ、聞いてくれ。私は確かに水前寺とは知り合いだが、願い事の方法までは知らない。こいつよりは無害というわけだ。というわけで、私だけは見逃してくれないか?」

「な、お前!」

「ほーら、水前寺くん。見てみなよ。恐ろしいねぇ、そんな可愛い顔しちゃってそんなずるいこと考えているんだよ」

「私にはやることがあるからな。こんなところで死ぬわけにはいかない。私も手りゅう弾の作り方を教わったことがあるからわかるが、おそらくお前が持ってるものは相当な威力があるのだろう。そんなものを、すぐ隣にいる水前寺の近くで爆発されては、私も巻き込まれてただでは済まないからな」

「……!?」

「フフフ、僕も人並み以上の利己中だからね。君の言い分はよーくわかるよ。だけど残念。君も神力のありかを知っちゃてるから生かしておくわけにはいかないな。先を越されちゃまずいからね。おっと、もちろん水前寺くんが方法を教えてくれなかったらの話だけど」

「……神力の専門家とかいうお前の方なら、私なんかよりずっと早く方法を見つけると思うが?」

「ノンノン。わかってないなぁ。正直に話すと、僕は水前寺くん同様、君にも少なからず警戒を抱いてるんだよ。なんたって、君は神力に精通しているしね。僕が秘密裏に研究してきたものだっていうにもかかわらず」


 どうやら、牧場が一昨日話したことは本当だったらしい。

 なぜウリエルが神力にそれほど詳しいのか、謎なままだ。しかし、今はそれどころではない。この状況を打破することが最優先だ。そして、そのためのウリエルの作戦は今さっき伝わった。重要なのは、タイミングだ。来る、きっと。その瞬間を逃したら、ゲームオーバーだ。全身に緊張感が走る。


「……そうか、交渉決裂だな」


 ウリエルは牧場を鋭く睨み付ける。その様子には、いつも通りの冷静さが感じられた。

 牧場は手りゅう弾を手で撫でまわしながらにやついている。


「どうやら、水前寺。私たちはここで爆殺されてしまうらしい。もちろん私はそんなものごめんだ。と、いうわけでだ……」


 そこでウリエルは言葉を切り、小さく息を吸った。

 その音を聞いた瞬間、俺は待ちわびていたタイミングの到来を察知し、片足に力をこめた。


「走れっ! 水前寺っっ!!」

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