種明かし 続
俺の答えに牧場は嬉しそうに笑った。
「ご名答っ! 水前寺くん! その魔術については横にいる女の子から聞いたのかな!? 君の言う通り、僕はあの日朝早くから、ずっと横になって倒れたふりをしていたんだ。僕の存在が認識できなくなるよう、周りの人間が印象づけられる魔術を使ってね!」
『印象操作』の魔術は相手が自分に抱く印象を操作する魔術だ。しかし、この印象操作は抵抗という概念に影響され、その魔術に使用した魔力以上の魔力を持つ人間には効かない。だから普通は、使用した魔力以下しか魔力持たない人間を騙すために使われる魔術なのだろう。牧場やウリエルが魔力を持たない親父や由香に使って見せたように
しかし、牧場は発想を逆転させた。
つまり、使用した魔力以上の魔力を持つ人間を騙すために、その魔術を使ったのだ。
牧場は自分の存在感を極度に薄くする印象操作を行った。それにより魔力を持たない人間には存在を認識できづらくさせ、そして、俺のように魔力を持つ人間には牧場の存在が普通に認識できるようになる。
今になって思い返せば、たくさんの人間が行きかう中であんな目立つものを見逃がすはずがない。黒スーツを着た大人が自販機の横で倒れているという状況において、介抱することまではしないにしても、憐みの目で見たり、さげすみの目で見る人間が一人くらいいてもいいはずだ。
それに、あの日俺よりほんの少しだけ遅れただけの由香が、牧場を見なかったと言ったのも今になって考えればおかしい。由香もまた印象操作に引っかかったせいで、すれ違ったにもかかわらず牧場に気が付かなかったんだ。
「いやぁ、あの日君が僕の方を見て立ち止まったときの高揚ったら、筆舌に尽くしがたいよ。その上、僕に近づいてきてくれたおかげで、接触もできたんだから。これほど思い通りの展開になるなんて、ドラマの世界みたいだね。まあ、実際にはその後二つの誤算が生まれることになるんだけどね」
牧場は気分がさらに高まってきたのか、顔をうっすらと紅潮させてまくしたてる。
「一つ目の誤算は、思ってた以上の魔力が水前寺くんにあったことだね。
倒れていた時、僕は存在感を薄くする印象操作とともに、僕が好青年に見える印象操作もかけていた。もちろんそれは、君の僕に対する印象を良くして、取り入りやすくするために。しかし、君に効かなかったせいで、逆に僕の第一印象は悪くなってしまった。ましてや、君の妹にまで効かないなんて。計画では、君に頼み込んで家か何かに転がり込む予定だったからね。相当僕に好印象を抱いていなければそれは難しい。僕は正直焦った。けど、その点は結局、君がとてつもないお人好しだったおかげで救われたのさ。ありがとう、水前寺くん! あ、ちなみに携帯と財布をなくしたっていう嘘をついたのは、君の家に泊めてもらう口実作りのためね。
そして二つ目の誤算。それは君が神力のありかを知らなかったこと。一昨日の会話の感じでも、神力は知っているけれども、その場所は知らないっていう感じだったからねぇ。
だけど、僕はそんなことではへこたれないよ。方針転換するだけのこと。つまり、君と一緒にいた女の子に焦点を合わせるということさ。君は神力の場所を知らなかったが、神力という言葉は知っていた。しかし、魔術に詳しくもない高校生がそんなものの存在を知っているはずがない。
と、なると。考えられる可能性は女の子が神力の行使者で、君はその子から神力について教わったということ。その子を探し出せばいいだけの話」
牧場はそこでいったん言葉を切り、息継ぎをした。
「実はね、最初は君の妹さんを疑ったんだ。何せ僕の印象操作に引っかからなかったんだ。水前寺くんに勝るとも劣らない魔力を持っているということになる。別に僕の部下を疑うわけじゃないけど、彼らは魔力を持たない凡人だからね。彼らが『印象操作』の魔術にかかって、妹さんを女子高校生に見間違えた可能性がある。つまり、小学生である君の妹が高校生くらいの年の子に見えるように『印象操作』の魔術がかけられていたということ。
まあ、部屋をのぞいたり、魔術を実際に見せてみて反応を確かめた結果、妹さんは白だとわかったんだけどね」
牧場は確か二度も妹の部屋に入ろうとした。その時俺は単に牧場がロリコンなだけかと思ったが、あれは妹の部屋に神力の手がかりがないかを確認しようとしたのだろう。確か、俺の部屋に入れてもらった時も、奴は俺の部屋を物色していた。
また妹に魔術を見せたのも、妹が魔術を知っているのかを確かめるため。牧場が嘘をついているかどうかを人よりも敏感に見抜くことができるのなら、俺が魔術という単語に反応し、それを何とか隠そうとしていたことも気づいたのかもしれない。そして、魔術を初めて見た妹が嘘をついていないということも。
「しかし、そんなことで僕は諦めない。君という手がかりがある以上、探し出すのは簡単だからね。
僕は妹さんに探りを入れると同時に、それが外れた時の保険もかけていたんだ。妹さんがその女の子じゃなかった場合、胡散臭い僕が神力を探している、と知ったら当然君は女の子にそのことを話すはずだし、話した後も僕の動向を伝えるために何度か接触を繰り返すはず。その瞬間を狙えばいい。
だから、昨日僕は盗聴器と発信機を急いで作り、今朝君の学ランに忍び込ませたってわけ。女の子の情報を手に入れるために。以上、種明かしはこんな感じかな。
そしてついさっき、家に帰ってきた君の様子があからさまに怪しかったから、僕は君の後をつけてながら盗聴してみたのさ。その結果、こうして神力の場所を知ることができたってわけ。まあ、女の子が神力の場所を知っているはずという僕の推測は外れていたわけだけどね。恥ずかしすぎて顔から火が出る思いだよ。結果オーライだけどねぇ」
俺とウリエルは二人して、何も言えずにいた。
まさか、最初から牧場の掌の上で踊っていたなんて。俺は自分の浅はかさと、そしてこのような結果を招いた一因である自分のお人好しさ加減を悔やんだ。
そして、それと同時に、牧場風太郎という男の恐ろしさを思い知った。こいつはきっと、今までこのようにして、生きてきたのだろう。自分の目的のために、他人をためらいなく利用しながら。
「ふぅ、話し疲れちゃった。けど、最後にもう一つ。神力の場所はわかったけど、残念ながら、どうすればそれを使えるのかがわからない。もちろん時間をかければ、わかるだろうけど、僕としては一刻も早くその力を手にしたい。というわけで、水前寺くんにはお願いがあるんだ」
牧場は自分の懐から丸いボールのようなものを取り出し、俺たちが見えやすいようにするためか少しだけ高くかざして見せた。そのボールは牧場の手に収まる程度のもので、先っぽには丸いピンがついている。
隣にいたウリエルはそれを見るなり一瞬で青ざめた。
「それは、手りゅう弾……?」
「盗聴器は昨日作り終えちゃったからね。今日は暇つぶしもかねて、これを作ってたんだ。僕は貧弱で、喧嘩も弱くてね。手製とはいっても破壊力は抜群だよ。人を一人殺せるくらいにはあるかな。少し古い型を参考にして作ったもので、この安全ピンを抜いた状態で衝撃を与えると爆発する仕組みってわけ。もちろん投げてもいいし、命中が不安なら『物質移転』の魔術を使ってもいい。つまり、僕はあらゆる手段を使って君のそばでこれを爆発させることができるってわけ。とまぁ、おしゃべりはここまでにして。僕の言いたいことを単刀直入に言おうか」
そう言うと牧場は、手に持っていた手りゅう弾の安全ピンをなんの躊躇いもなく引っこ抜いた。そして、牧場はそのピンを横へぽいっと投げ捨て、不敵な笑みを浮かべる。
「水前寺くん。神力へのお願いの仕方、教えてくれるかな?」




