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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第一章
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霧島神社

 死ぬ。

 俺はウリエルのその言葉を心の中で繰り返す。そして、それと同時に気持ちの悪い汗が体中から噴き出してきた。ウリエルはようやぅ弁当箱から視線をそらし、急に黙り込んだ俺を不思議そうに見つめた。


「今日は本当に様子が変なんだな、水前寺」

「……悪い、ウリエル。ちょっと家に用事を思い出した。帰るわ」

「は? ちょっと待て、そんないきなり。それにこの弁当箱は……」


 俺はウリエルの言葉を最後まで聞くことなく、家に向かって走り始めた。もちろん、魔術と神力ではいろいろと作用やらが変わるのかもしれない。しかしそれでも、悪い予感がしてならない。単なる取り越し苦労であることを願いながら、俺は全力で走り続けた。

 家に着くな否や、俺は玄関のドアを思いっきり乱暴に開けた。急いで靴を脱ぎ、リビングへ向かう。そこでは今朝俺の財布を盗んだ牧場風太郎が、椅子に座り、のんきにお茶をすすっていた。

牧場は俺がドアを開ける音に反応し、こちらへ振り返った。そして、息を荒げる俺を興味深そうに凝視してくる。


「どうしたんだい、水前寺くん。そんなに慌ててさ。とりあえず、君もこの熱くておいしいお茶を飲むかい?」

「ハア……ハア……。そんなことはどうでもいい。財布を……。俺の財布を返せ」

「ああ、これのことかい? あの後追いかけてこなかったから、てっきり僕にくれるのかと思ってたよ」


 そういうと、牧場はポケットから俺の財布を取り出した。


「ハア……。早く返せ」

「まあまあ、落ち着きなよ。財布は逃げないからさ。とにかく、呼吸を落ち着かせてみたらどうだい? はーい、吸ってー、吐いてー」


 急いでいるにもかかわらずうっとうしい絡みをしてくる牧場を、俺は苛立ちの表情でにらみつけた。


「なんだよ、水前寺くん。冗談が通じないなあ……」


 堪忍袋の緒が切れかかっていた俺は、何も言わず牧場の手から俺の財布をふんだくった。牧場は一瞬だけ驚いたが、すぐにおどけた調子に戻り、ひどいなぁと笑いかけてくる。

 財布は取り戻した。

 早く霧島神社に行って、なんとか願い事を取り下げなければならない。俺がリビングを立ち去ろうとしたその時、話声を聞いた親父がゆっくりとリビングに入ってきた。


「愁斗、帰ってたのか。お前もカバンを部屋に置いて、ゆっくりしたらどうだ」

「悪い、親父! また出かけてくるわ!」


 そう言って、俺はリビングから出ていこうとした。


「あ、そうそう、愁斗。さっきなんか電話があってだな」

「なんだよ! こっちは急いでんの!」


 俺を呼び戻した親父に対し、俺焦りのあまり強い口調で言い返してしまった。

 しかし親父はまったく俺の様子を気にかけることもせず、ゆったりとした口調で言葉を続けた。


「ああ、霧江さんからの電話でな。なんでも……」

「由香ちゃんが、血を吐いて倒れたそうだ」


 俺は親父がその言葉を言い終わるのも待たず、玄関に向かって走り出した。そしてそのままの勢いで扉を開け、一直線に霧島神社を目指す。










 最悪だ。

最も恐れていたことが起きてしまった。いや、俺が起こしてしまったという方が適切なのかもしれない。

俺は自分の頭がおかしくなりそうなのをなんとか抑えながら、冷静になれと自分に何度も言い聞かせる。とにかく、霧島神社に一刻も早くたどり着くんだ。手遅れになる前に。

 しかし、思っていた以上に冷静になり切れていなかったようで、俺は霧島神社近くの歩道で前を歩いていた人と思いっきりぶつかってしまった。


「す、すいません」


 俺はそのままいそいで立ち去ろうとしたが、ぶつかった人物を見て思わず足を止めてしまった。俺がぶつかったのは、霧島家に帰る途中のウリエルだった。


「いたた。なぜ後ろから……って、水前寺!? なんでお前が? さっき家に帰ったんじゃ……」

「神力だ!」


 俺はウリエルの言葉をさえぎって言った。今はもうこいつが何者かなんてことは気にしてられない。由香の命がかかっている。一人でも多く協力者が必要だ。


「じ、神力!? 待て、何が何だかまったくわからないぞ!」


 俺は必要最小限のことを早口でまくしたてた。

 霧島神社に神力があること。俺の悪ふざけで由香に人格変更の効力が現れ、そして、おそらくそれが原因でさっき血を吐いて倒れたということ。

 俺の説明を聞き、ウリエルもことの重大さがわかったのか、いつになく真剣な表情を浮かべた。


「なるほど、この弁当は今朝由香が作っていたものだったのか。通りで見たことがあると思った。まさか、こんな身近に神力があったなんて……。とにかく、霧島神社に向かおう。血を吐いたのは、魔力の過剰な流入に対する拒絶反応の一種だ。吐血後すぐ死に至るわけではないが、このままだとまずい。神力に、由香への効力を即時停止するようお願いするしかない!」


 俺はうなづき、ウリエルとともに全速力のスピードで霧島神社へ駆けだした。

 俺たちは数分もしないうちに霧島神社へ到着し、階段を上って境内に入った。俺は鳥居をまたいだあたりで立ち止まり、確認のためにウリエルに尋ねた。


「同じ方法で、願い事をすればいいんだな?」

「そうだ。それで上手くいくはず。とにかく、前にお願いした通りの手順を繰り返すんだ。ささいな行為が、お願いを叶えてもらえる条件になっているかもしれない」


 俺はうなづき、すぐに本殿の方へ向かおうとした。しかし、その時だった。


「待て! そこにいるのは誰だ!?」


 突然ウリエルが大声で叫んだ。

 俺は思わずウリエルの方へ振り返り、そしてウリエルが見つめている右の方向へ目を向けた。

 夕暮れ時だったためわかりずらかったが、鳥居から少しだけ離れた場所にある木のそばに、ぼんやりとした人影が見えた。その人影は遠くからでも感じとれるような不気味さを漂わせながら、こっちをじっと見つめていた。


「出てこい!」


 ウリエルの言葉に観念したのか、その人影はゆっくりとこちらへ歩き始めた。

 そしてその正体がわかった瞬間、俺は自分の驚きを隠しきれず、声をあげる。


「な、なんで!? なんで、ここにお前がいるんだ、牧場!」

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