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神様はそこにいる  作者: 村崎羯諦
第一章
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神力の効力

 しかし、そこには何もなかった。

 俺は念のため周囲を見渡してみる。しかし、どこにも札束や宝石など落ちていない。

 ひょっとしたらという気持ちで、賽銭箱の下や裏、そして本殿の中まで探したがやはり何もない。もしそこにあったらまずいからと自分に言い聞かせながら、竹ぼうきがしまってある用具入れも開けてみた。しかし、やはり何もない。

 俺はそこで冷静になって頭を働かせてみた。童話とかではよく、地面に宝石が埋まってたりするじゃないか。俺は先ほどの用具入れから急いでスコップを取り出し、願い事をした場所に近い土に突きたてた。しかし、その時。


「何やってんの、あんた」


 氷のように冷え切った声が俺の後ろから投げかけられた。

 俺はゆっくりと振り返る。そこには霧島由香が腕を組んだ状態で立っていた。


「いや、そのあれだ。ちょっと最近運動不足だったから……」

「へえ。だったら自分ん家の庭でやるべきなんじゃない?」


 由香は呆れた表情で俺を見つめてくる。


「ふざけたこと言ってる暇があったら、スコップを元のところに戻してほしいんだけど」

「あ、はい」


 怒鳴られると内心おびえていた俺は、あっさりとした由香の態度に拍子抜けする。どうやら、今日は相当機嫌がいいらしい。

 由香は俺がスコップを用具入れに戻すのを見届けると、そのまま俺に背を向けて母屋の方へ歩いて行った。それを俺は後ろから見送っていたのだが、由香は何かを思い出したようで、突然俺の方へ振り向いた。


「あ、そうそう。あんたって、高校でいつも昼飯どうしてんの?」

「なんだよ、急に。弁当作る時間もないし、いつも学食で済ましてるけど」

「ふーん、そう」

「それがどうかしたか?」

「いや、ただ聞いてみただけ。別に意味なんてないから。じゃあね、愁斗」

「お、おお。それじゃあな」


 由香はそう言い残すと、母屋の方へ消えていった。

 由香がいなくなったので、俺は最後にもう一度見落としがないかあたりを確認した。しかし、やはり俺が願い事をする前と何の変化もない。

 俺は大きなため息をはき、とぼとぼと霧島神社をあとにした。






 翌朝。

俺はみんなより一足先に起き、全員分の朝食を作り始めた。

 牧場は昨日も部下と再会することができなかったようで、結局二日連続で泊まることになった。こんな小さい町にもかかわらず再開できなかったなんて、いったい一日もかけて何をしてたのだろうか。   

そうこう考えているうちに、みんながリビングにやってきた。牧場はわざとらしい笑顔で親父、妹に挨拶をした。親父と妹もそれに笑顔で返事を返した。俺はその光景に違和感を覚える。妹が昨日一昨日よりも牧場に対して、警戒心を解いているよう思えたのだ。

 俺はこっそりと妹を手招きをして、わけを聞いてみる。


「牧場さんには内緒だって言われたんだけどな……」


 妹はいつになく真剣な表情を浮かべ、俺に耳打ちをした。


「実は、牧場さん……。魔法使いだったんだよ」

「……ほう」

「昨日の夕方、リビングで魔法少女ピラリを見てたときな。牧場さん、ピラリの魔法を見て、自分にも同じことができるなんて言ったんだ。そしてな。持っていたマグカップを私の目の前で瞬間移動させたんだよ!」


 俺は納得してうなづいた。


「そうか。……朝飯が冷えるから、席につけ」

「あ、兄貴信じてないなっ! 本当だって! 見たんだもん! 目の前でマグカップを一瞬で動かしたんだぞ! 牧場さんはピラリと同じ、魔法使いなんだよ!」


 俺は興奮した妹を適当にあしらい、テーブルの席に着いた。妹が牧場に変な魔術にでもかけられたかと心配したが、余計な心配だったようだ。むしろもう小六にもなる妹の天然さのほうが心配になったくらいだ。

 俺も席に着き全員で朝食をとった。そして、今日もまた拍子抜けするくらい何事もないまま皆が食べ終わり、妹はいち早く小学校へ出かけていった。俺も部屋で準備を済ませ、出かけることにした。

 しかし、俺が玄関で靴を履き終え、玄関のドアを開けようとしたその時、牧場が突然背中から声をかけてきた。俺はものすごく不満げな表情をあえてつくりながら振り返る。

 そこには牧場が両手をズボンに突っ込んだ状態で立っていた。


「なにか、用? というか、今日はまだ出かけなくていいのか?」

「……まあね、今日はもっとゆっくりしてから外を探索することにするよ。それよりそんな、不機嫌にならなくてもいいじゃないか、水前寺くん。せっかくの気持ちのいい朝なんだから。一日のスタートはやっぱりさわやかにいかなくちゃ。あ、そうそう。ところでなんだけどさ、あれから神力についてなにかわかった?」

「あったとしても、お前に教えてやるかは別の話だ」


 牧場は小学生のように、ポケットに両手を突っ込んだまま俺と会話をする。どうやら話しかけてきたのは、神力について探りを入れるためだったらしい。神力そのものを突き止めたと思いきや、単なる自分の勘違いでしたなんて口が裂けても言えるわけがない。


「あと牧場、俺の可愛い妹に変な嘘をつかないでもらえるかな」

「なに言ってるんだい、水前寺くん。僕はただあずさちゃんと仲良くなりたいと思って、『物質移転』の魔術を見せてあげただけなのに。まあ、妹さんは斜に構えたお兄さんよりもずっと驚いてくれたね。僕もあれくらい反応があるのなら、可愛げがあるものだよ。ほら、あずさちゃんの笑った時に浮き出るえくぼ。可愛らしいよねぇ、まったく」


 ウリエルも牧場も、俺に最初に見せたのはその『物質移転』の魔術だった。魔術使いの間で、魔術の存在を信じ込ませるためにはその魔法を一番最初に見せなければならないという決まりでもあるのだろうか。

「水前寺くんにも魔術の存在を信じてもらいたいけどねぇ。残念ながら、この即興の魔術は自分が手に持っている物にしか使えないんだよね。だから、さっき君が廊下に落とした財布を君のズボンのポケットに戻してあげることくらいにしか使い道がないんだよ」

 そう言いながら牧場は左ポケットに突っ込んでいた手を外に出した。その左手には俺の財布が握られていた。


「……財布を渡したかったなら、初めからそれを言えよ」

「だってさぁ、水前寺くん。もし初めに渡したら僕とおしゃべりしてくれないじゃないか」

「否定はしない。というか、冗談抜きで早く返せ。学校に遅刻する。まさか中身をすろうとしたんじゃないだろうな?」

「まさかぁ。財布と携帯を落としたからって、そこまでせこい真似はしないよ。僕は常識人だからね。ただ中身を確認しただけだよ」


 勝手に人の財布をのぞくのも、十分非常識だと思う。


「僕にだって、メンツがあるからね。財布をのぞいた時、一瞬誘惑に駆られたけどきちんと踏みとどまったさ。高校生からお金をせびるなんて、プライドが許さない。だけどまぁ、水前寺くんの方から恵んでくれるなら話は別だけど」

「なんで俺がそこまでやらないといけないんだよ。俺は金欠の高校生だぞ。恵んでやる余裕なんてないに決まってんだろ。というか、財布の中身を見たんだから金銭事情くらい察しろよ」

「まったく、そんなこと言っちゃって。水前寺くん、僕に嘘はついちゃいけないよ。自分が嘘をつくことは好きでも、人に嘘をつかれるのは嫌いなんだよね。それとも、最近の高校生は金銭感覚がみんな狂っちゃってるのかな?」


 牧場は笑いながら、俺の財布を開き始めた。


「ちょっと待て! 何勝手に開けて……ん……だよ……」


 俺は突然の牧場の行動に身を乗り出した。しかし、牧場が財布から取り出したあるものを見た瞬間、身体が固まった。牧場の手に握られたもの。それは一万円札だった。昨日までは俺の財布の中に存在していなかったはずのものだった。


「ほーら、水前寺くん。これを見ても、まだ金欠なんて言えるのかな? 現代社会において、一万円あれば少なくとも一週間は食事に困らないよ」

「……」


 俺はいまだに理解が追い付かず、牧場の言葉を返すこともできなかった。


「というわけで、うそつきの君にこの貴重な一万円を返すことはできないな。この牧場風太郎が君の代わりに、有意義なお金の使い方をしてあげるよ。その方が福沢諭吉先生も浮かばれるってものだよね。ほら、取り返したかったら僕を捕まえてごらん。ハハハハハ」


 牧場は高らかな笑い声をあげながら、廊下を玄関とは反対方向へ歩いて行った。しかし、高校生にとって貴重な一万円を牧場に奪われようとしていたにもかかわらず、俺は牧場を追いかけることができなかった。俺はなんとか身体を動かして玄関のドアを開け、外に出た。

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