運命
神無月は、現実世界から消息を絶った。
三学年に進級した新学期、最初の登校日に彼は聖祇学園で起きた謎の集団失踪事件に巻き込まれたのだ。
朝のHRに自己紹介という小さなイベントを終えた生徒達は、一限目の授業が始まるまでの短い時間を教室で待機していた。※ここ追記箇所(教室の生徒達の様子。新学期の雰囲気。直前までの平穏。編集中)
だが、授業を担当する教師が到着する前に、教室に異変が生じた。黒板の前に鎮座する教卓の上、宙空に突如と浮遊する小さな光が顕現したのだ。
光球は輝きを放ち、急激なる膨張と明滅を繰り返す。次の瞬間に、光の奔流が解き放たれてすべてを飲み込み、神無月を含む総勢三十八名の生徒達の存在を現実世界から消失させた。
これが、神無月を含めた聖祇学園の生徒達が消え去るまでの出来事及び集団失踪事件の誰ひとりと知らずの概要だった。
「ここは、何処だ?」
月は、無意識に呟く。
自分を襲った事態の把握を兼ねて周囲を見渡したが、虚無に等しく距離感の掴めない真っ白な空間だけが眼前に広がっているだけだった。
他の生徒達の姿は無い。途端に孤独感に苛まれ、不安心や恐怖心が心を掻き乱す。不可解な状況は一層と精神を蝕み、月を混乱状態へ陥れ始めた。
「――だ、誰かいないのか!?」
恐慌に因る本能への刺激は、月に喚き叫びを誘引させた。声量の増大は無意識に、自身の不安心や恐怖心の払拭や抑制を試みた自己防衛が働く。当然だが、周囲からの反応は何も無い。
自らの腕が眼前を薙ぐも空を切る感触はない。脚で駆け出すも地面を踏み込む感触どころか、進退の感覚すら不明瞭だった。
――わからない。何もない。誰もいない。これは夢なのか?
月は諦念の境地に達し、地面へ坐り込む。全てが夢幻の類いだと疑い、現実逃避を始める次第だった。
「ここは虚空の世界だ」
第三者の声音が、突然と虚無の空間に響き渡った。
月は咄嗟の起立と同時に背後へ振り返るが、後方には誰もいない。再び周囲を見渡すも、この空間に何ら変化は起きずにいた。
「あなたは選ばれた」
「誰だ!? 何処にいる!? 出て来い!!」
謎の存在に翻弄される月は、興奮を抑えきれずに怒声を上げる。自身の理解が及ばない出来事が引き続き起きることに煩わしさを感じざるを得ずにいた。
「私は神だ。あらゆる時間、あらゆる空間、すべての次元に遍在する概念の塊だ」
「神だって? ――この異変の元凶はお前のせいなのか?」
月が、神の存在に疑念を持つことはなかった。既に人智を超越した超常現象の連続が月の思考力を麻痺させて、正常な判断力を奪っていたからだ。
「肯定する。私が選びしものに、役割を課すため喚び出したまで」
「選びしものって――――聖祇の生徒達のことか!?」
※ここ追記箇所(教室にて光に飲まれた状況を思い出す。編集中)
他の生徒達も自分と同じ状況下に置かれているのだろう、と月は察する。
「役割を課すってなんだよ! 僕達に一体何をさせるつもりだ!!」
他者を顧みずに、己の欲望たる思惑だけで大勢を振り回す身勝手さに、月は憤りを覚える。感情の爆発は、すべての行動を暴力的なものへと変貌させた。
だが、神は月の感情や心情を汲み取ることすらなく淡々と言葉を紡ぐ。
「選ばれしものは箱庭へと赴き、私のために物語を紡ぐのだ」
神の荘厳な声音が空間に響き渡った。そして、静寂が辺りを包み込む。
月は奥歯を噛み締め、歯軋りを起こした。
――ふざけるな、何を勝手なことを言っているッ! いや、駄目だ。冷静になるんだ。
月は憤怒により昂揚した感情を制するために、瞳を閉じて精神統一の真似事を試みる。短くはない時間を静寂に身を委ねた。
「僕を、僕達を元の場所に返してくれ」
月は瞳を開き、静寂を破った。弱者が絶対者へ抗う術を持たぬ以上、まさに神頼みだけが最後に残された希望だった。
「役割は遂げて貰う。これは天命だよ」
神頼みは一蹴され、月の願いが神へ届くことは無かった。
※ここ追記箇所(主人公の果然と落胆の様子。意識の変化。覚悟。編集中)
「僕が――いや、僕達が役割を果たせば元の場所には返してくれるのか?」
「無論だ」
「話の内容を要約してくれ。僕達は箱庭という場所へ行き、物語を紡ぎ、お前が納得してくれれば解放されるってことなのか?」
「認識に相違は無い。ただ、私が満たされずとも、終焉の刻が訪れれば自ずと解放はされるだろう」
月は、元の場所へ帰れる可能性があることに胸を撫で下ろす。
「わかったよ。さあ、好き勝手に箱庭ってところに移動させてくれ。こっちも好き勝手にしてやるさ、僕は絶対に元の場所へ帰らせて貰うぞ」
見知らぬ場所へ行く覚悟を決め、神へ己の運命を委ねた。月は移動時に伴う超常現象を予期してか、体を強張らせて身構えた。
だが、想像とは違う別の現象が起きた。月の周囲に、無数の光球が出現したのだ。
「何だ?」
「餞別だよ。己が持つ運命を具現化した道具を一つだけ渡す。物語を紡ぐ助けになるはずだ」
無数の光球は光輝き、自己主張を繰り返す。ひとつひとつの光が意思を持ち、主の選定を待ち望むかのような表現かのようだ。
月の無意識に伸ばした光を求める手が、光球に触れる。直後に光球は形状の変化を始めた。
「これは剣――いや、違う。刀なのか?」
光の球は、一振りの刀剣に変化した。刀剣は柄の先から鞘まで黒を基調として、何ら変哲の無い日本刀に見える。
月は宙空に浮遊する黒い刀剣を手に取り、柄と鞘を握り締めて感触を確かめた。素材の質感と金属の重量感が、否が応でも本物の武器なのだと認識させるのだった。
「人間よ、私を満足させてくれ」
神の言葉を最後に、突然と月の体に渦巻く光が纏わり絡みつく。
「待て!! この武器に何の意味がっ――――」
武器の真意を問い質す暇も無く、次第に絡み付き纏う光が身体の侵食を始めて、存在の喪失感を覚えると同時に月は意識を失した。
Q.文字数少ない癖に練習とか舐めてるの?
A.本当にすみません。執筆速度が遅く、量が書けない状態に自分も頭を悩ませています。質の向上と共に、量を増やす練習もします。