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第四十三話 『主を隠すなら神の中』


「さて、キコが協力してくれるとわかったところで、今一度現状を整理してみようか」


 晴が時を見計らってそう言いだすと、残りの二人も黙って首を縦に振る。

 樋田が席を外してるうちにしっかりと立ち直ってくれたのか、松下の表情に先程までの弱り切った様子はもう見えない。むしろその瞳からは今や燃え上がるような闘志が滲み出ていた。


 そうして晴は二人の同意を確かめ次第、人差し指を天に向けながら滔々と話し始める。


「まず前提として、今この学園では生徒会組織による生徒への洗脳工作が行われている。そこにどんな高尚な目的があるかは知らんが、ワタシ達がやるべきことは大きく分けて二つ。一つは洗脳の術式を起動させている術者の特定及び撃破、そしてもう一つはこの学園に蔓延る異能的要素の完全排除だ」


 そうして晴はここからが本題と言わんばかりに、松下の方に体ごと向き直ると、


「しかしワタシ達は未だこの学園のことを詳しくは知らない。そこでキコにはこれからの方針を決めるにあたって幾つか聞きたいことがある」

「はい、私が知ってることなら何でも話しましょう」


 松下のそんな力強い返答に、晴は満足そうに口元に手を当てる。


「うむ、そうだな。それではまず陶南萩乃すなみはぎのの言っていた我等が『主に召される』と言う言葉の意味。そしてキサマがかつて語っていた『絶対に逆らってはいけない四人』について詳しく話してはくれないか?」

「まぁ、最初に突っ込むべきなのはそこだよな」


 樋田自体は生徒総会に参加はしていないが、あの場で何があったかくらいは晴から大体聞いている。

 彼女曰く、なんとかつてあれだけ学園に楯突いていた例の飛び降り女が、先週とは打って変わって生徒会組織に従順な姿勢を見せていたのだという。


 連中は精神セラピーだのと適当なことをほざいていたが、やはりあのあと女生徒に何かろくでもないことを仕込んだに違いない。


 松下もそこに何か思うところがあったのか、先程よりも更に一層表情を険しくしている。


「……分かりました。まず前提として『主に召される』というのは、陶南萩乃の語っていた主とやらの理念を理解したことを意味するんですよ。そして、『主に召される』子達には大きく分けて二つのパターンがあります。一つは私のような洗脳にかからない子が、生徒会に目をつけられて連行されるパターン。そしてもう一つは洗脳にかかっている生徒が、ある日突然学園に来なくなるパターンです」

「で、どこかで適当に頭弄られてから、学園に復帰してくるてことか」

「そうですね。例え連れていかれ方がどちらのパターンであっても、大体数日後には戻って来ます――――が、確かに『主に召される』前と後では明らかに様子が変わっていますね。基本的な人格に変わりはないんですが、それまでこの学園のあり方を疑問視していた子も、『主に召された』あとはそのようなことを一切言わなくなるんですよ」

「なるほどな。これまでの話を踏まえると、恐らく鐘の音による洗脳が効かない人間に、直接術式を施し直してでもいるのだろう。そうなると、やはり生徒の連れていかれた先にこそ、今回の事件の黒幕が潜んでいるに違いないのだが……」


 晴は困ったと言わんばかりに、そこで曖昧に言葉を切ってしまう。

 彼女はあえて口には出さなかったが、肝心の連れていかれた先が分からなければ、何か具体的なアクションを起こすことも出来ない。

 これならば先週生徒会の後をつければ良かったとブツブツ呟く晴であったが、対する松下は何か言いたげに「あの」と手を挙げる。


「ん、どうした?」

「いえ、その私、いや我ながらよくあんな無茶したなと思うんですけど、実は一度生徒会の連中に連れていかれた子を尾行したことがあるんです――――」

「それは本当かッ!? 奴等は一体どこで何をしていたんだッ!?」


 渡りに船、或いは地獄で仏に会ったようとでも言おうか。

 まさかの狙い澄ましたようなラッキー展開に、晴はバンと机を叩いて立ち上がる。そのあまりの食いつきっぷりに、流石の松下も思わずしどろもどろにならざるを得なかった。


「ええと、そのっ、学園の中央に建ってるあのデッカい塔って分かりますよね。一部の生徒には『叡智の塔』とかって呼ばれてる場所なんですが、生徒会の連中は『主に召された』女の子を連れて、最後はあの塔の中へと入って行きました。残念ながらそっから先のことは確かめられなかったんですが――――って、うん?」


 そう記憶を確かめながら話す松下であったが、そこで不意に言葉を切る。彼女の目の前では樋田と晴の二人が、まるで驚いたと言わんばかりに顔を見合わせていたのである。


「……あの二人共どうしんたんですか?」

「いや、実はワタシ達もその場所に目をつけていたのだ。この学園の中で最も『天骸アストラ』――――ではなくて悪魔的なパワーが集まっているのもあの塔だったからな」


 晴の集めたデータと松下の証言を合わせれば、『叡智の塔』こそがこの学園の中枢機関であることは最早確定事項であろう。

 そこに本当に件の術者がいるかはまだ分からないが、いまいち頼りなかった仮説の信憑性が増しただけでも上出来である。


 しかし、そうして樋田と晴が満足気な表情を浮かべるのとは対照的に、松下は何故かどこか気まずそうにうつむいてしまっていた。


「オイ、どうしたんだよ」

「……ええと、次は『絶対に逆らってはいけない四人』について話したいところなんですが、先週言ってたのは本当に噂の受け売りなんで、松下的にも顔と学年ぐらいしか分からないんですよ。で、そのかわりと言ったらなんですが――――」

「ん、そのかわり?」

「いえ、筆坂さんも実は内心疑問に思ってるんじゃないですか? 陶南萩乃の語る主とやらの、そしてこの学園の奉ずる教義のルーツが一体どこにあるのかを」


 その瞬間、晴の瞳が大袈裟にキラリと光ったのを樋田は見逃さなかった。

 そうどこか試すように問う松下に対し、彼女もまた妖しげな微笑みを浮かべて返す。


「ほぉなんだキサマ、もしやそちらもいける口だったのか?」

「いや別に私自身が格別興味を持ってるわけじゃないんですよ。まあ実家が割と特殊な家柄だったんで、多少オカルト方面に明るい自負はありますが」


 松下はそう言って席を立つと、後ろの本棚をガチャガチャいじり、一冊のアルバムのようなものを持って来る。そこからは東大志望生の参考書並みに数多の付箋が飛び出しており、何かの事柄についてまとめられたものであることは一目で分かる。


 もしかして彼女は無力な一般人なりに、それが何か現状打開の手掛かりになることを信じて、この学園について色々調べていたのだろうか。


 天界にて百年以上人類の文化保存に勤しんでいた晴であっても、陶南萩乃の語る主とやらが一体どんな神であるかは分からなかったらしい。しかし、もしこれが解明できれば、こちらが一気に学園に対して有利に立てる。

 仮に術者の異能が『霊の剣《エル=ミラ》』のように特定の伝承に基づいて組まれた術式――――俗に『神話再現』と呼ばれる系統のものならば、来るべき戦いに備えて事前に策を講じることも出来るのだから。


「まあ大口叩いておいてなんですが、松下もまだ結論を出せてはいないんですがね。率直に言いますと、宗教的な観点から鑑みても滅茶苦茶なんですよこの学園。とりあえずまずはこれを見てくれますか?」


 そうしてアルバムの半ばあたりを開いてみると、そこにはこの学園の風景写真が山程収められていた。その中から松下が三枚ほど見繕い、晴に手渡したものを覗き込んでみると、そこには教会なんかでよく見るデッカい鐘の姿が写っている。


 途端に樋田と晴は思わず驚きに目を丸くした。

 この学園で鐘と言えば、先週不気味な音色を以って、生徒達を操っていたあの鐘にしか思い当たりはない。


「もしや、これがあの鐘の音の出処なのか……?」

「はい、そうです。実際に鳴ってるところも確かめたので間違いはないかと」

「だが、一体こんなものどこにあったのだ? これだけデカい鐘ならば、いくらこの学園が広くともそれなりに目立つと思うのだが」


 晴がそう言いだしたのも至極道理である。

 鐘は背景と比較してもかなり巨大なものであることは一目で分かるし、そもそも樋田と晴は食堂での一件以降、ずっとその在りかを探し続けてきたのだ。しかし――――、


「いえ、この鐘があるのは『叡智の塔』の頂点付近ですから、肉眼ではまず視認出来ませんよ。この写真も写真部の高性能カメラをパクって――もとい借してもらって撮ったものですし。で、鐘って時点でもう大体分かると思うんですが、ここからこの学園にはキリスト教的な背景があることがうかがえます」

「いや、キリスト教ってよりもカトリックで縛っていいだろこれ。プロテスタントの連中は鐘へのこだわり薄いし」

「そうですね。この写真じゃ見辛いんですが、この淵の辺りにほらっ、これ見よがしにアンジェラス・ドミニの文字列が確認出来るんで、旧教様式でほぼ間違いないかと思います」


 そうしていつの間にかワイワイ盛り上がり始めた二人を遠巻きに眺めながら、樋田は「何言ってんだこいつら」とドッと溜息をつく。

 さっきから二人の話をボーと聞いているだけで、ろくに会話に参加出来ていない気がする。


 まあぶっちゃけ樋田はキリスト教とか言われても「あぁエクスカリバーとかグングニルとか出てくるアレでしょ。知ってる知ってる超知ってる。あとザビエルとかいうハゲいるよね」くらいの知識しかないのだから仕方がないのであるが。


 ――――何も役に立たなそうだし、茶のお代わりでも沸かしてるか。


 そうして一人台所に去っていく樋田を気にもかけず、リビングでは引き続き晴と松下によるオカルト談合が続いていく。


「しかし、陶南が語っていた主の理念とやらと、カトリックの教義に類似点は見出せないと思うんだが……ローマ帝政期の教理論争で葬られた異端か、それともどこぞの原始宗教とのシンクレティズムか? ぶっちゃけワタシあっち方面のオカルトにはあまり詳しくないぞ」

「まあ、正直松下的にもそこらへんはよく分かんないんですが、それはひとまず置いといて、次これ見てくださいます? Q組隣の準備室で待機してたなら、多分目にしてたと思うんですが」

「ああ、確かにこんな燭台いっぱいあったな。だがそれが何か――――」


 そうして松下が取り出した次の写真に、晴は訝しげに目を凝らし、やがてなるほどと言わんばかりに手を打つ。


「あぁ、七枝ってことはメノーラーか……ってそれじゃ混ぜるな危険みたいになってるじゃないか」

「そうです。現在イスラエルの国章にもなっているユダヤ教の象徴的記号。しかも実はこれ準備室だけではなく、学園の全教室に置いてあるんですよ。まあ出典自体は出エジプト記ですし、カトリック様式でもメノーラーが特別視されるのは別に珍しくないんですが……まあ確かに数が数なんで、多少取っ散らかってる感は否めませんね」


 続いて松下は部屋奥からノートパソコンを持って来ると、今度は私立綾媛(りょうえん)女子学園の公式ホームページを開いてみせる。そのまま彼女がマウスを弄っていると、画面上に学園を上から見た全体図が表示された。


「で、最後にこれですね。筆坂さんってこの無駄に広い学園がどういう風にエリア分けされているのかって知ってます?」

「いや、特に気にしたことはないが――――ん、もしかして宇宙図アールダハングか?」

「ご明察です。太陽と月を表現するものがないなど多少抽象化こそされていますが、この区分けは十層の天と八層の大地からなる古代摩尼教の宇宙観に基づいています。まあ我ながら最初はこじつけ臭いとは思ったんですが、これ態々区分けしてるくせに同エリア内の施設にまるで関連性がないんですよね。利便性の点から見れば何の意味もありませんから、あとはそういう見方で考えてみるしかないかなあと」

「……なるほど確かにこれは酷いな」


「勝手に二人で盛り上がられてもワカンねぇよ。一体何が酷いんですかね……」


 ちょうどお代わりの茶を淹れ終えたので、樋田はそれを持ってきがてら晴と松下の会話に茶々を入れてみる。茶だけに。淹れてみるだけに。

 対する生意気ロリコンビ(かたや合法かたや違法)は、同時にこちらを軽蔑するような目でジロ見してくる。


「はあ、何言ってんスか。これじゃ酷いのはヒダカス先輩の頭の方でしたね」

「そりゃあ悪いに決まってるだろ。こんなのターバン巻いた神主が護摩焚きながらアーメンとかほざいているようなものではないか。全くこれだから聖童貞は」

「オイ聖処女みたいに言うな」


 思った以上の非難轟々に思わずシュンとなる樋田であるが、やがて晴はクッソめんどくさそうな顔をしながらもチョチョイと説明してくれる。


「要するにこの学園は完全に宗教の闇鍋状態になっているのだ。確かに大陸宗教は互いに関係性も深いし、似た要素があって当然なところもあるんだが、流石にこう有名な記号ばかりが揃って混在しているとなるとな」

「そうですね。筆坂さんはもう大体察してくれたようなんで、一々実例は出しませんが、この他にもこの学園には仏教やイスラム教、果てにはヒンドゥー教的な記号も多分に確認出来ます。それに各記号の抽出にもまるで法則性がありません。それぞれが持つ宗教的な意味合いも、モチーフとしての重要具合もてんでバラバラですから」

「まぁ、ここまで節操無しだと、逆に作為的なものを感じるがな」

「はい、それは松下も思いました。まるで木を隠すならば森の中と言わんばかりです。連中が奉ずる主とやらの背景を悟らせないためのカモフラージュである可能性も捨て切れませんね」


 松下がそう結論付けると、晴の方からももう新しい意見は出てこない。彼女は腕を組んでソファーの中に体を沈めると、ウンウン唸りながら疲れの滲んだ声を出す。


「まあ確かに中々興味深い話だったが、これだけではまだなんとも言えんな。やはり『叡智の塔』を直接調べんことには何も始まらんか」


 確かに晴の言うことにも一理ある。

 敵の目的どころか正体すらも分からないという危険な状況下のせいか、樋田達は必要以上に慎重になってしまっているが、これ以上手をこまねいていても洗脳工作による一般生徒への悪影響は増すばかりだ。

 松下に正面切って助けると宣言してしまった以上、ここらでそろそろ腹をくくる必要があるだろう。しかし――――、


「……まあ、そうしたいのは山々だが、もう時間が時間だ。今日はここらで一旦お開きにしようぜ」


 本日も本日で色々あったせいか、窓の外には既に墨をぶちまけたような闇夜が広がっている。

 本来は今日例の『叡智の塔』を調査する予定だったが、火曜は五限で授業が終わることであるし、本格的に動き出すのは明日からの方がいいだろう。


 そんな樋田の提案に、幼女達も黙って首肯する。そして明日再びここに集まることを約束し、樋田と晴は上着を羽織りながら玄関の外へと出た。


「それじゃあまた明日な」

「はい、二人とも気を付けて帰ってくださいね」


 晴はバイバ〜イと目一杯に手を振ると、それですぐにスタコラと帰っていってしまう。

 樋田もまた松下に軽く会釈をすると、そのまま腹減った腹減ったうるさいバカのあとをついていこうとし――――しかし、そこで不意に後ろから上着の袖を引かれた。


「ああん、なんだよ?」

「いえっ、その……」


 そうしてギョロリと振り返ってみると、何故か松下はこちらから視線を逸らしてしまう。しかし彼女はそれでもすぐに顔を上げてこう続けた。


「えっと、かばってくれてありがとうございました。その、あのときはワタシも結構テンパってたので」

「ハァ? ……って、あぁ、確かそんなこともあったな」


 恐らく松下は、彼女が晴に銃を突きつけられたあのとき、樋田が間を取り成してくれたときのことを言っているのだろう。

 樋田としてはあくまで当然のことをしたまでであるし、態々感謝されるようなことでもないと思うのだが。


「別にあんぐらい普通だろ。むしろ連れが迷惑かけちまって悪かったな。確かにアイツはいくつか頭のネジ足らねえところもあるが、決して悪いヤツじゃあねえ。だから別に無理にとは言わねえが、これからもアイツと仲良くしてやってくれると助かる」

「勿論です。この松下希子でよければ是非。心配しなくても私も紗織も筆坂さんのことは普通に気が合うと思ってますよ」

「そりゃありがてえこった。ハッ、だが大分物好きと思うぜ」

「ふふっ、ヒダカス先輩こそ自殺直前のヤク漬け売春婦みたいな顔してるのに、意外と面倒見いいんですね」

「そのフレーズもう二十回以上は言われてるから、大してダメージにならねぇぞ」


 そう言ってニコリと微笑む松下に、樋田もつられていつもの不気味な薄ら笑いを浮かべてしまう。そうしていつまでも帰らずにいると、遂に後ろの方からご近所迷惑レベルの声量で罵声が飛んで来た。


「オイ、そんなところでなに油売ってんだこの飯作りマシンッ!! 給仕はさっさと先に家まで走って帰れッ!! そうしてワタシのために飯作って風呂沸かして待ってるのが、オマエの唯一の存在価値だろッ!!」

「じゃかしぃわボケッ!! バカは一人でマヨネーズでもすすってろッ!! ――――悪りぃな。馬鹿の子守があるから、そろそろ行かせてもらうわ」

「ははっ、大変そうですね。それではまた明日もよろしくです」


 そう松下に早口で言い残し、樋田は小走りで晴のもとへと駆け寄っていく。しかしそれでも彼女はぷくりと頬を膨らませたままであった。


「……なんだオマエもしかしてああいうのが好みだったのか? たかがワタシの所有物の分際で生意気な。キモッ、最低、ロリコン、浮気、不潔、ロリコンッ!!」

「いやああいうのがなんも、テメェとアイツ生意気ロリ枠で属性被ってるじゃねぇか……」


 ブーブー言ってる晴を適当に宥めながら、樋田は自宅への帰り道を進んでいく。しかしそうして晴と話している真っ最中であったにも関わらず、彼の頭には松下のとある言葉が染み付いて離れなかった。

 それは先程松下に背を向けた直後のこと、彼女が樋田の去り際に残した縋るような一言である。


 ――――ハッ、なにが「信じていますから」だ。んなこと言われちまった暁には、頑張らねぇワケにはいかねぇよな。


 樋田可成はこんなバカでクズでロリコンなツンデレヤンキーであるにも関わらず、身の丈に合わないヒーロー願望を抱えてしまっている。

 それまでは自分には不相応と思い込んでいたこの願望も、晴を簒奪王から救ったあの日からは、自信を持って一歩を踏み出せるようになった。


 俺でも出来る。いや、違う。俺なら出来るのだ。

 必ずやこの学園に蔓延る異能を残らず排除し、松下の手に最高のハッピーエンドを掴み取らせてやろう。


 しかし、そんな救済願望も自身の承認欲求を満たすためのものに過ぎなかったことに、そして人を救うということが、そんなに簡単なものではないことに、かの少年が気付くのはまだまだ先のことである。



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