第百二話『秦周音と草壁蜂湖』
それからおよそ二十分後、樋田と晴の二人の姿はタクシーの車内にあった。
駅の近くまで行ってタクシーを探すのは時間の無駄だし、電車を使うのもそれはそれでまどろっこしいということで、その手のサイトを用いて近くにいる個人タクシーを呼び出したのである。
行き先は綾媛学園。運転手に出来るだけ急いで欲しいと伝えた後、樋田は先に決めた通り秦のことを晴に話すことにした。
まず第一に、初めて出会ってから今日までの秦漢華のこと。
次に先刻、樋田が力になりたいと申し出たところ秦に拒絶されたこと。
そして最後に、彼女と草壁蟻間の間に何かしらの因縁があるであろうことを、なるべく要所だけかい摘んで手短に説明する。
「なるほどな。確かに初めから情緒不安定そうな女だとは思っていたが……いやはや想像以上に面倒臭いな。あのメンヘラチャイナ娘、色々事情抱えすぎにもほどがあるだろ」
一通り話を聞き終え、晴の総評は以上であった。
確かに今の彼女を取り巻く状況はいささか複雑である。果たして一体そのうちの何が、秦漢華という少女の心をあそこまで歪なものとしてしまったのだろう。
晴はそんな秦のことを面倒臭いと言い切ったが、樋田としては彼女がそれだけ多くのものを抱えていることに胸を痛めずにはいられなかった。
「まあ、それならば学園に向かったのは二重の意味で正解だったな」
脈絡のない発言に樋田は眉をひそめる。
「二重の意味……、だ?」
「なんだ、まだ気付いていないのかオマエ?」
そんなこと言われても分からないものは分からないのだから仕方がない。
目付きをジト目にして、心底呆れたように言う晴であるが、彼女はすぐにその答えを提示してくれた。
「里浦響子を覚えていないか?」
知らねえよと喉から出掛かり、ギリギリのところで何とか思い出す。確かそれは晴の入ったクラスを担任している女教師の名前であったはずだ。
「思い出せ、ワタシが学園に初登校した日のことだ。いきなり絡んできたメンヘラチャイナ娘が立ち去った後、あの女教師がなんかうっかり漏らしていただろう。あの子も昔は普通の女の子だったのに、とある出来事のせいで変わってしまった――確かそのようなことをな」
あっ、と思わず声に出る。
こうして指摘されると、確かにそんなことを言っていたような気もする。日常における一瞬の出来事であったとはいえ、そんな大事な発言を綺麗さっぱり忘れていた自分に呆れざるを得ない。
「つまり里浦響子は秦の過去を知っている……?」
「いや、別に担任でもないあの女が知っている時点で、なにも里浦に限った話ではないのだろう。もしかしたら秦漢華と関係ある人間は皆ある程度知っているようなことなのかもしれん」
そして、とそこで晴は一度言葉を切ると、
「確かに今は秦漢華を救い出すのが最優先だが、膨大なデータを精査するのには時間がかかるし、第一オマエに『顕理鏡』をイジる作業は手伝えない。だから、オマエはワタシでデータを洗っている間に、里浦からそのとある出来事とやらを聞き出せ。それさえ分かればオマエ達の過去、ひいてはメンヘラ女と草壁蟻間の関係性についても分かるやもしれん。仮に直接は繋がらなくとも、あの女を真の意味で救いたいなら必ず役に立つはずだ」
「……あぁ、そうさせてもらう。『顕理鏡』の方は頼んだ」
「あぁ、大船に乗ったつもりで任せろ」
これでとにかくこれからの展望はそれなりに固まった。
それにしても、やはり晴は頼りになるヤツである。樋田一人では何をすべきか分からなかったどころか、その決心すらも中々つかなかったというのに、彼女が加わってからは嘘みたいに話がスルスル前へと進んでくれる。
――――甘えてんじゃねえぞ、クソッタレ。
樋田はそのことに感嘆しつつも、それではいけないと頬を叩く。
頼るのは良い。だがしかし、頼り過ぎては無責任になってしまう。あくまで秦漢華を助けたいと言ったのは樋田可成なのだ。だからこそ、ここぞというときには自分が主体となって動かねばならないのだと、そのことだけは忘れまいと改めて心に誓う。
「で、お前はさっきから何してんだ?」
「ん? あぁ、これか」
樋田が疑問の声を上げるのも当然である。
実は晴はタクシーに乗ってから今この瞬間まで、樋田の話を聞きつつ、自分も喋りつつ、更にはずっと物凄いスピードでスマホで調べ物のようなことをしているのだ。
文字がビッシリ詰まった記事を一瞬で速読したと思えば、今度は何かしらの動画を五倍速で見始め、果てには同時並行でメモ帳にアラビア文字やら何かしらの図やらをグチャグチャと書き込みまくっている。
実際それはアラビア文字などではなく、国会での議事録作成などに用いられる速記文字なのだが彼の知識はそこまで及ばない。
聖徳太子もびっくりなマルチタスクを汗一つかかずにこなしながら、晴はスマホから目を離すことすらせずに応える。
「仮説の補強作業だ。まあ、あくまで仮説ゆえ、まだオマエに態々話す程のものではないがな。使いどころが生じればそのときに伝える」
そうこうしているうちにタクシーは東京湾の海沿い、即ち綾媛学園へと続く海上モノレールのターミナル付近へと到着する。
運転手に礼を述べ、釣りを貰う時間も惜しいと札だけ渡し、二人は車内から弾き出されるような勢いで外へと飛び出した。
幸い今日は日曜日、閑散とした駅構内をダッシュで進み、発車直前の車両になんとかギリギリのところで滑り込むことが出来た。
二人はモノレールに乗り込み次第、出入口のすぐ隣にある席に腰を落ち着ける。
確かに腰は落ち着けた。しかしそれで逸る心までもが落ち着くはずはなく、
「オイ、少しは落ち着けカセイ。こういう気を抜いても良いところで抜いておかねば、この先肝心な場面で持たぬやもしれぬぞ」
「ッせーな、ッだーてるつーの……」
一度乗り物に乗って仕舞えば、そこから先は待つことしか出来ない。いくら樋田が焦ろうとも、モノレールは変わらず一定の速度で海上を進むのみである。
イライラする。この上なくイライラする。
あくまで無意識の動作。されど樋田はいつのまにか、座席の肘掛を爪でカツカツと叩き始めていた。
とにかく時間が惜しい。
例え一分一秒でさえも浪費は許されない。
時間が過ぎれば過ぎるほど、秦漢華を無事に助けられる確率は加速度的に減っていくし――――それどころか、既にもう手遅れになっている可能性だって少なくはないのだから。
秦漢華の生死を別つデッドライン。
その瞬間がいつ訪れるとも知れない恐怖に、樋田はドロリと嫌な汗が垂れるのを許容せずにはいられない。
再び窓の外を見る。しかし、まるで焦る樋田の未熟さを嘲笑うが如く、学園との距離は先程見た時と比べてもほとんど縮まってくれてはいなかった。
♢
「さて、オマエはオマエでやるべきことを果たせ」
「あぁ、そっちもうまくやってくれよ」
モノレールが学園の敷地内に到着し次第、樋田はすぐに晴と行動を別にした。
群青の天使は街中に仕掛けた『顕理鏡』を洗うために『叡智の塔』を、樋田は里浦響子から秦の過去を聞き出すために中等部の職員室をそれぞれ目指す。
本日は日曜だが、晴曰く里浦響子は松下や隼志同様、学園が用意した学内の寮に住み込んでいるとのことらしい。そして恐らくは先程の秦邸事件に対応するため、非番にも関わらず仕事をさせられていると判断したのだ。
――――つっても、こんな状況で通報なんてされたらたまったモンじゃねえからな。
しかし、流石に樋田のような如何にもな悪漢が女子校に入るのはまずかろうと、彼はまず来客用の入り口へと立ち寄った。
受付のお姉さんにでっち上げた来校の目的を伝え、危険人物でないことを信じてもらうためにもと一応保険証も見せる。
幸い以前晴の保護者代理としてやって来たときの記録が残っていたので、すぐに職員から「来校者」と書かれた首掛けを受け取ることが出来た。
これで一応こんな見た目でも不審者扱いされずに校内を動き回ることが出来るだろう。
受付コーナーを通り過ぎ、今度は長い廊下を目的地目指してズンズン進む。
本日は休日であるにも関わらず、学校の中にはそれなりに女生徒の姿が見える。しかし、皆樋田の凶相を見るなり慌てて道を譲るので、先を急ぐのに苦労はしなかった
「――――ッ!!」
「――――――ッ!!」
異変。
職員室に近付くにつれて、段々と焦る教師の怒鳴り声のようなものが聞こえ始めてくる。
それもそのはずである。彼等にとってはつい先程自校の生徒が爆発事件に巻き込まれ、今もなお行方不明という悪夢のような状況なのだ。
保護者や学校関係者への説明、更には餓狼の如きマスメディアにも記者会見という餌を与えてやらねばならない。
例えそれらを抜きにしても、いきなり教え子が亡くなったかもしれないと伝えられたのだ。冷静でいられるはずがない。仮に表面的には冷静を装えたところで、言動や態度にはどうしてもマイナスの感情が浮き出てしまう。
そして、職員室がようやく遠くに見え始めた頃、その予想は確信へと変わった。
一瞬の断絶もなく、ひっきりなしに鳴り続ける電話の音。話し声の海に紛れて、何度も張り上げられる怒号。職員室から絶えず教職員等が出たり入ったりと、人の流れ的にも随分と荒れている様子であった。
――――畜生ッ、これじゃ里浦を引っ張り出すのも一苦労かッ……?
されど、僥倖。
幸運にもそこで丁度、職員室の中から目的の人物が飛び出して来たのだ。
安っぽいジャージに、如何にも活発そうな短い髪型。胸の前に大量の書類を抱えるその女性は、間違いなく里浦響子であった。
「里浦先生ッ!!」
声を上げつつ、その背中を追いかける。
幸い、向こうは自らを呼ぶ声にすぐ反応してくれた。こちらをガバリと振り返り、そして振り返るなり驚いて目を丸くする。
「ええと、樋田可成くんでしたよね……? どうしてここに……?」
以前会ったときは快活な、ともすれば空回りしそうなほどに明るい印象を受けた里浦女史であるが、その面影は最早カケラもないと言っていい。
普段上向きな眉毛は八の字型で、瞳も絶えず不安気に揺れている。元々生徒の自殺未遂に心を痛めて泣き出してしまうような人だったのだ。秦邸の事件があった直後で、これまで通りに振る舞える性格だとも思えなかった。
「……教えてもらいに来ました」
「教えるって、何を……?」
「秦――秦漢華があんな風になっちまった理由についてです」
余計な前置きも、小賢しい遠回りも必要ない。
ただ今最も知りたいことを単刀直入に問いかける。
秦漢華。状況が状況なだけに、その名を聞いた途端、先生は辛そうに眉間をしかめた。
「ごめんねッ、先生たち今忙しいから、また今度で……」
「オイ、ちょっと待てやゴラァッ!!」
「あひぃッ!?」
「……いや、すんません。とかく自分の話を聞いてください」
先生にこのまま逃げられないためにも、樋田はその場ですぐに、無理矢理だと分かっていても話し始める。
始めは、自分が秦邸での事件をニュースで知ってここまでやって来たこと。
そして、秦漢華が何か重たい過去を背負っていることに気付いたということ。
これまでの秦との関わりから異能や天使と言ったものへの言及は省き、それでもなんとか筋道が通るように自分と彼女の関係を説明する。
「……はぁ、なんでよりにもよって私のところに」
しかし、その甲斐はあったようだ。
里浦先生はいくらかバツの悪そうな顔をしながらも、いつのまにかちゃんと話を聞く態度になってくれていた。
これなら聞き出せると確信する。しかし、それでも樋田はまだ一つ大切なことを話していなかった。出来れば見落として欲しかったのだが、目の前の女性も流石にそこまでは鈍い御仁ではなかった。
「言いたいことは分かりました。ですが、そもそも一体君と秦さんはどういう……?」
「幼馴染です」
仕方なく、しかし即答する。
「幼馴染、ですか……?」
「はい、といってもガキの頃だけの付き合いで、そのあとはずっと離れ離れだったんです。それで最近久しぶりに再会したんですけど、何故か昔とは人が違ったみてえになっていて……それで」
ここへやってくるまでに考えていた、辻褄合わせのための嘘をつく。しかし、誰かを不幸にする嘘というわけではないのに、不思議と口にするだけで心苦しくなる。
それは昔とは人が違ったと、昔の彼女のことなど知りもしない癖に、分かったような口を聞くことに対する罪悪感であろうか。
「……ずっと聞こうとは思ってたんです。どうすれば俺はアイツの力になれるかだなんて殊勝なことも考えていたんです。だけど、アイツは俺の助けなんかハナから必要としてねえみたいで、そもそも俺なんかがアイツの事情に首突っ込んでいいのかも分からなくて……」
半ばうつむき、嚙み殺すように樋田は唸る。そして、次の瞬間彼は一気に顔を上げた。
「だが、あんな事が起きた以上もう尻込みは出来ねえッ……俺ァアイツのことを、秦漢華のことを知りたい、理解してやりたい。何でもかんでも一人で背負い込めば良いと思ってるあの馬鹿女に、助けてって言わせる方法はもうそれしかねえんですよッ……!!」
初めは嘘をついていたはずなのに、いつのまにか本音が入り混じっていた。どこからどこまでとは言わないが、本当格好がつかないにも程がある。
だが、なりふり構っていられるか。体裁だとかプライドだとか、そんなものは秦を助けると決めたときにまとめて捨てて来たのだから。
「……分かりました」
しかし、思いは通じたのか。
先生は覚悟を決めるようにすうと息を吸い、そして背後に続く廊下の先を指さしながら言う。
「付いて来てください。ちょっと行ったところに空き教室がありますから」
樋田は無言で頷き、されどそれだけでは済まない気がして軽く頭を下げる。そうして彼は先行く教師の後ろを、ところどころ早足になりかけながら付いて行くのであった。
♢
「ここです」
里浦先生に連れて行かれるがまま、とある空き教室の中へと通される。
空き教室と言ってもきちんと管理は行き届いているようで、晴が普段通っている教室と比べてもほとんど変わりはない。
一つ違いがあるとすれば、本来空間中に均等に並べられているはずの机類が、小学校の掃除の時間よろしく全て教室の後方にまとめられていることぐらいだろうか。
「さて」
「いえっ、自分がやります」
里浦先生が立ち話も何だろうと、机と椅子を引っ張り出そうとするのを慌てて制止する。代わりに樋田が二つ机と椅子を運び、各々が向かい合う形で文字通りの即席をセッティングする。
里浦先生が座るに続き、樋田も椅子に腰掛ける。準備は整ったが、すぐにほいほいと話し始められるような内容でもない。それでもやがて、里浦先生はやんわりと話を切り出してくれた。
「……先生って立場的に本当は話しちゃいけないんですけどね。幼馴染って言っても君、一応部外者ですし」
「……すいません」
確かにこのようなデリケートな話を他人に漏らしたことが知れれば、確実に里浦先生の立場は悪くなる。しかし、それでも自分に事情を話してくれようとする、先生の気遣いに感嘆するばかりであった。
「秦さんやご家族からも、何も聞いていないんですか?」
「はい、そうですね」
「じゃあ、秦さんの家が三人姉妹だっていうことは知ってます?」
「へ?」
完全に初耳であった。
言われれば彼女に兄弟や姉妹がいても何もおかしくはないだろうに、愚かにもその可能性は全くもって考慮出来ていなかった。
「漢華さんは次女なんですよね。妹さんは確か小学生で、一つ上には周音さんっていうお姉さんもいたんですよ……」
「いた……?」
いた。いるではなくいた。つまりは過去形。
些細な違いだが、そのような大切なことを聞き逃す樋田ではない。嫌な予感がした。いいや、きっとこれは事実だ。樋田の悪い予想は往々にしてよく当たるものなのだから。
「はい、お姉さんはその、お亡くなりになられたんです。今が六月の半ばだから……大体二ヶ月半くらい前ですね」
「ッ……!!」
グッと、拳を握る。
秦漢華にとってその秦周音という姉がどのような存在であったかは分からない。それでも家族を失う悲しみは理解出来るつもりだ。
自らに置き換えてみる。生まれてからほとんど顔を合わせたことのない父が殺されたときですら、樋田はあれほどまでに辛かったのだ。共に毎日を同じ空間で過ごし、常に顔を突き合わせてきた血縁を失う苦しみは、きっとそれ以上であろう。
「……死因は、なんなんだったんですか?」
「階段から足を滑らせて、それで打ち所が悪かったみたいです……確かに不幸なことではありますけど、一方それほど珍しい不幸ではありません。だから最初はみんな事故だと思っていました」
思っていた、再び過去形。
つまり秦周音は事故で死んだわけではないというのか?
「周音さんは殺されたんです。厳密にいうと、殺された可能性が高いんです」
いまいち要領を得ない言い回しに樋田は苛立つ。
里浦が言うに秦周音が死んでから既に三ヶ月近い月日が経っている。ならば、その日に一体何が起きたのか、既に警察が明らかにしていてもおかしくはないだろうに。
「……つまり、殺されたと決まったわけではないと?」
「いえ、確かな情報ってわけじゃないんですけど、実は周音さんが亡くなった場所の近くで女性同士が口論をする声を聞いたって人がいたらしいんです。そして、そのあと、その日周音さんと争っていたのが誰だったのかもすぐに明らかになりました」
つまり、既に犯人は確定したということであろう。
それだけが、この重い話の中で唯一安心できる要素であった。島国であるこの国で警察から逃げ続けることは困難を極める。きっともう犯人は捕まったのだろうと、樋田は自分の憶測だけで楽観的なことを考えていた。
「……じゃあ、もうそいつは捕まったんですね」
「いえ、捕まっては……いません」
「ハァ……?」
「その日、周音さんと争っていたと疑われたのは、彼女と同じ学校に通う三人の女の子だったんですが――――その子達も全員二ヶ月前に亡くなってしまったんですよ」
里浦は一瞬戸惑う。何に戸惑ったのか、当然それはその続きを口にすることであろう。
きっとこれから先生は確信的なことを言うと直感する。そして、その予感はやはり正しいものであった。
「……その、今日秦さんの家で起きたような、原因不明の爆発事故で」
「――――――――ッ!!!!」
ゾワリと、全身を悪寒が走った。
嘘だ。杞憂であって欲しいと心の底から願う。
されど、場所は東京、被害者は三人の少女、そして原因は爆発事故。その事件は間違いなく、先刻陶南萩乃が樋田に語って聞かせたものと同じ事件を指すのだろう。
つまりは、繋がってしまった。
秦周音と草壁蜂湖を仲介し、秦漢華と草壁蟻間が一本の線で結ばれてしまった。
秦周音の転落死、そして草壁蜂湖の事故死。
この二つの事件を紐付けると、秦周音を殺した草壁蜂湖を誰かが殺した――と図式になってしまう。
そして何より、草壁蜂湖達が死んだ事件では、原因不明の爆発を起点とする大規模な火災が生じているのだ。まるで人殺しの罪人に神の裁きが降ったかのようにである。
ここまで来れば最早決まったようなものではないか。考えたくはないのに、想像すらしたくはないのに、どうしても少年の考えはその最悪極まる予想に思い至らずにはいられなかった。