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世界の片隅に位置するきっと誰も知らない村人200人ちょっとの小さな村、カルム村。
村人は皆貧しくいつも朝早くから夜遅くまで働いてもその日の生活費しか稼げず、今日を生きるのに精いっぱいで他人を思いやる暇もなかった。
そんな村で私は産まれ、そして今日まで生きてきた。
私を産んで育ててくれた両親は私が7歳の時に病気で倒れた。この村でまともな治療なんて出来るわけなく、両親は数か月であの世へ去った。
それから7歳だった私は一人で路頭に迷うところを村の村長の元で働くことを条件にそこに住まわせてもらうことになった。
村長家の家事全般をこなしながら畑で働く生活が10年もの間続き、私も17歳となった。
そんなある日、高熱を出し寝込んだ私は前世の記憶を取り戻した。
前世で私は難病を患っていて人生のほぼ大半を病院のベッドの上で過ごしていた。たいしてすることもなくただただ読書をする日々。読書は嫌いじゃなかった。自分の知らないことを知ることが出来るから。自分が出来ない体験を本を通して体験した気分になれるから。
でもそれはただの妄想で実際に叶えることの出来ないことだった。
だから部屋に備え付けてある窓から見える病院の庭でかけっこをしている子供を見ると羨ましかった。
自分もあんな風に自由に走れたらなぁと小さな夢を抱いたりもしたが、結局叶うことなく短い人生に幕を下ろした――……。
目が覚めたときには前世の記憶が全て戻っていた。
そしてこっちの世界での生活を思い返して、自分が歩けるようになっていることがとても嬉しかった。今までは歩けるのが普通だと思って気にも留めていなかったが、前世での記憶を取り戻して歩けるということがどれだけ素晴らしいことかに気が付いた。
これからは自分が前世で出来なかったことが出来るんだ、と喜びに浸っていたら部屋の扉(と言ってもただの布が掛けてあるだけだが)を開けてこの家の家主であるマリスさんが入ってきた。
「アメリア何やってるの!起きたならさっさと皿洗いと部屋の掃除をしなさい!あんたがずっと寝てるから溜まってるのよ!誰のおかげで露頭に迷わずに済んでると思ってるの!!」
マリスさんはそれだけいうと出て行った。
これはいつものことで、自分の仕事をしないと食事もなにももらえない。働かざる者食うべからず。これがこの村の常識。
前世の記憶があってもここは別世界と自分に言い聞かせて自分の仕事に取り掛かる。