第7章:真実
土曜日の午後。
未来は高校時代の友人、寺内渚とショッピングに行く約束をしている為、待ち合わせ場所であるファーストフード店の窓際の客席に座りコーヒーを飲んでいた。
聞き慣れた携帯の着信音に気づき確認をすると−−寺内渚−−とあり、通話ボタンを押す。
「未来、ごめーん。今日さ、急に彼氏が部屋に来ちゃって……」
「仲直りしたの?」
渚はつい最近彼氏の浮気が原因で大喧嘩したらしく、今日はその鬱憤をはらすためショッピングに行こうと渚の方から誘ってきたのだ。
「……うん。今日の朝電話があって、その時に別れるって言ったらその足で部屋に押し掛けてきて、泣いて謝られちゃってさ……。で、今一緒にいるんだけど……」
「そっか、わかった。いいよ」
「ごめん。今日の埋め合わせは今度するから、ホントごめんね」
未来は携帯を切るとコーヒーを一口飲んだ。
あんなに怒ってたのによく仲直りできたよなぁ。
あたしだったら浮気なんてされたらきっと許せないと思う。
頬杖をつきながら窓の外を眺めていると、遠目だったがふと見慣れた顔が目に入った。
村木さん……?
未来が居るファーストフード店と反対側の歩道を村木が歩いていた。
そして村木の横には……。
お嬢様風の綺麗な女性が村木の腕を組んで歩いている。
えっ!
誰……?
未来は考えるより先にお店を出ていた。
今日は休日出勤だって言っていたのに……。
村木の服装はスーツ姿ではなく、ラフな普段着だった。
どうゆうこと?
まるで、恋人同士のように寄り添って歩いていた。
未来は横断歩道を渡ると、村木の後ろ姿を見つけ後を付けた。
あたしに嘘をついてまで一緒にいる女性は誰?
未来の脳裏には浮気の二文字がよぎった。
まさか、村木さんにかぎって……。
その思いを必死で打ち消そうとしたが、目の前を歩いているふたりは誰の目から見てもカップルにしか見えない。
一体、何処に行くんだろう。
後を付けたところでいい結果が待っているとは思えなかったが、それでも見てしまった以上無かった事にはできない。
しばらくすると、村木と女はホテルへと入っていく。
未来もその後に続きホテルの自動ドアをくぐると、村木と女はロビーを横切りその奥にあるお店へと入って行こうとしていた。
お店のショーウィンドーにはウェデングドレスが飾ってあり、ガラスには『ブライダルフェア』と書いた垂れ幕がかかっていた。
それを見た瞬間、未来は無意識のうちに村木達の方へ走り出していた。
「村木さん!」
名前を呼ばれて振り向いた村木は驚いた様に未来を見た。
村木はなぜ未来がここにいるのかわからないといった感じで言葉に詰まっている。
その様子を見ていた村木の隣にいた女が口を開いた。
「浩市さん、お知り合い?」
「……あっ、あぁ……」
村木はハッと我に返ったように呟いた。
なんなの、その曖昧な返事は……。
なんで、ハッキリと恋人だと言ってくれないの?
その人は誰?
相手に知り合いと聞かれて否定しないって事は……。
その時、未来は悟った。
あぁ、そうか、浮気相手は村木の隣にいる女ではなく、未来の方なのだと。
未来はキッと村木を睨むと
「どうも、お邪魔しました!」
かなりキツイ言い方をして踵を返し、自動ドアを通りすぎると未来は走り出していた。
遠くの方で未来の名前を呼ぶ声がした気がしたが、振り返る事はしなかった。