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第6章:揺れ動く心

次の日、未来が家に帰るといつもはバイトで遅い隼人がめずらしく先に帰ってきているようだった。


リビングの扉を開け中に入ると、雑誌を読んでいたのかソファに座ったまま上半身をソファの背に預け寝ていた。


買い物袋と自分の鞄を置き、未来はそっと近づいたが起きる気配がない。


未来は隼人の寝顔を見ながら思った。


それにしても、綺麗な顔立ちをしてるなぁ。


モデルとかやってもきっと売れるんじゃないかなとか思ってしまう。


いっそのこと、勝手に何処かのタレント事務所にでも写真と履歴書送ろうかしら。


そんな事を考えていると、ふと隼人がしている眼鏡が気になった。


眼鏡しながら寝るのって邪魔じゃないのかな。


両目とも一・五あり、未来は一度も眼鏡はかけた事がないだけに、変な事が気になってしまった。


未来は隼人の眼鏡に手をかけ取ろうとしたその瞬間


「なにしてんの?」


隼人の瞼が開きいきなり手首を掴まれた。


「なにって……、その……」


未来は焦った。


まさか、眼鏡を取ろうとしていたとは言えない……。


隼人は未来の手首を持ったまま、ジッとこちらを見ている。


こんな風にまともに目を合わせたのは初めてかも……。


そう思うと急に心臓がドキドキしてきた。


「……こんな所で寝てたら、……風邪……引くかなと思って……、起こそう……かと……」


未来は隼人から目を逸らし言い訳をしながら、最後の方の言葉がフェイドアウトしていく。


隼人はニヤッと笑い


「そう……、俺はまた寝込みを襲われるのかと思った」


「ばっ……、そんな訳ないでしょ!」


未来は隼人に掴まれている腕を振りほどきながら言った。


「それより、腹減った」


すでに隼人の意識は食欲の方に移行したようだ。


「……すぐ、用意するから……」


未来は急いでキッチンへと向かった。


まさかあのタイミングで起きるとは……。


あんな事しなきゃ良かった。


だいたい、高校生相手に何ドキドキしてんだろう。


出来るだけ平静を装いながら夕食の支度をしていたが、自分が思っているより冷静さを失っていたようで


「痛っ!」


包丁で手を切ってしまった。


すぐに水で傷口を流したが大量の血が止まる気配がない。


どうしよう……。


「どんくせえなぁ」


気がつくと隣に隼人が立っていた。


「いったいどんだけ深く切ったんだよ」


隼人は未来の傷口を見ると、どこからか輪ゴムを持ってきて切った傷口近くを輪ゴムできつく止め始めた。


その間、ずっと隼人の手が未来の手に触れていて、先程の事もあり未来はまたしても心臓がドキドキし始める。


隼人が輪ゴムを止め終ると大量に出ていた血が止まり、その上からガーゼを当ててくれた。


「完全に血が止まるまで輪ゴム取るなよ」


「あり……がとう……」


未来はまともに隼人の顔を見る事ができず、下を向いたままお礼を言った。


「何、作ってたの?」


「あっ……、シチュー……」


どうしよう……。


血が止まるまで料理は出来そうもないな、そんな事を思っていると隼人は包丁で野菜を切り出した。


「何……、してるの?」


「何って、その手じゃ料理は無理だろ。今日は俺が作るから座ってな」


「えっ! 料理出来るの?」


驚いて隼人に聞くと


「兄貴が結婚するまではふたりだったから、簡単なものなら作れる」


そうなんだ……。


この家に来てから、ずっと未来がご飯を作っていたから、まさか隼人が料理が出来るとは思ってもみなかった。


未来はその場に立ったまま、隼人が材料の皮を剥いたり切ったりしているのを見ていた。


器用だなぁ、そんな事を思っていると隼人が未来の方を振り向き目が合い、それだけでまたドキッとしてしまう。


「邪魔」


「えっ?」


「だから、邪魔! さっさと向こうに行けよ」


隼人に苛ついた様に言われ、未来は追い出される様にチッキンから出た。


未来はダイニングテーブルの椅子に座ると、小さく溜息をついた。


あぁ、今日のあたしはおかしい!


隼人と目が合っただけでドキドキするなんて……。


未来が自己嫌悪に浸っている間に、隼人はシチューを作り終えテーブルに並べてくれた。


テーブルの上にはいつの間に作ったのかサラダも置いてあった。


一緒に夕食を食べるが、隼人はしゃべる事なく黙々と食べている。


今までもそうだったが、ふたりで食べていてまったく会話がないのってどうなんだろう……。


そう思った未来は昨日気になっていた事を隼人に聞いた。


「あのさ……、昨日言ってた事なんだけど、あいつの行動ちゃんと見張れってどうゆう意味?」


「そのまま意味だよ」


隼人は食べる手を止める事なくすでに二杯目を食べている。


「そのままって……」


「お前、鈍すぎ」


隼人は未来を一瞥しそれだけを言うと、再び食べ始める。


鈍すぎって……。


あんたがハッキリ言わないのがいけないんじゃない!


そう思ったが、未来は言うのを止めた。


ハッキリ言う気のない隼人に何を言ってもきっと無駄なような気がしたからだ。


ふたりとも無言のまま未来が食べ終わると


「そろそろ外してもいいんじゃないの?」


そう言って隼人は未来の切った方の手を診ようとした時、とっさに手を引いてしまった。


まずい、そう思い未来は慌てていい訳をする。


「……大丈夫、……後は自分で出来るから」


一瞬隼人は怪訝そうな顔をしたが


「そっ、血が止まってたらあとは絆創膏で大丈夫だと思うから」


それだけを言うと、食べ終わった食器を全て洗って自分の部屋へと戻っていった。


……変に、……思ったよね。


未来は自分の頭を抱え込んだ。


何を過剰反応してるんだろう……。

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