第4章:Dwarfs
隼人がショットバー“Dwarfs”の扉を開けると
「おっ、隼人。今日はお兄さんの見送りだったんだろ、良かったのか?」
「はい。今行ってきた帰りです」
“Dwarfs”のマスター、八神隆は店の開店準備をしながら言った。
ショットバー“Dwarfs”は隼人のバイト先である。
知り合いを介して知り合った隆に隼人が頼み込むようにして、バイトをさせてもらっている。
さすがに高校生の隼人を店に出す訳にはいかないので、隼人の仕事は開店準備と裏方担当だ。
法律で十八歳以下は二十二時以降仕事はできないので、それまでには必ず店を終る。
「お前、お義姉さんの妹と一緒に住む事になったんだろ」
隼人が制服に着替え、開店準備を手伝い始めると隆が聞いた。
隆の言葉に隼人は未来の事を思い出していた。
のんびりしたお義姉さんとは正反対で、行動的で底抜けに明るそうな印象だった。
アイツが同居を承諾しなければ、気楽にひとり暮らしが出来たのに。
隼人はそんな風に思っていた。
そして、本来の性格を隠して良い子を演じて来た隼人にとって、大輔の海外転勤はそんな自分を家でも演じなくてもよくなると一抹の期待を持っていたのだが、未来の同居でもろくも崩れてしまったのだ。
そんな思いも知らずにニコニコ笑っている未来に苛立を感じ、つい本来の自分を出してしまっていた。
出してしまった後、隼人は開き直った。
どうせこの先一緒に暮らしていかなきゃいけないのなら、いっそのことそっちの方が楽かもしれないと。
そんな事を考えていると、店の扉が開いた。
「美香、お前店には来るなって言っただろ」
「ごめんなさい……。でも、お弁当作ってきたの。夕食に食べてもらおうと思って」
隆の言葉に、少しシュンとした感じで持っていた紙袋を差し出した。
名取美香二十歳は隆の恋人だ。
去年の大学のミスにも選ばれるほどの美人で、美香が隆に告白して付き合ったと聞いている。
「あぁ、いつも悪いな」
不機嫌そうにしながらも隆は、美香から紙袋を受け取った。
「隼人君の分もあるから、良かったら一緒に食べて」
隆の機嫌を伺うようにして、美香はお店を出て行った。
「隼人、店開ける前に食ってしまおうぜ」
隼人と隆はカウンター席に座り、美香の作ったお弁当を食べ始めた。
「美香さんと最近うまくいってないんですか?」
「そう見えるか?」
隼人の質問に隆は浅く笑って答えた。
「そろそろ終わりにしようかとは思ってるよ」
「そうなんすか?」
「あぁ、もう飽きた」
隆の言葉に隼人はムッとしたが、来るもの拒まずの隆は二股三股などはいつものことで、飽きれば捨てるといった感じの恋愛をしていた。
今も美香以外に付き合っている女が何人かいるのを隼人は知っている。
隆は隼人を一瞥すると、ニヤッと笑い
「美香を口説くなら今がチャンスだぜ。惚れてんだろ、アイツの事」
「べっ、別にそんなんじゃ……」
「無理すんなよ。お前が美香に惚れてることぐらいわかってるよ」
実際、隼人は美香に恋心を抱いていた。
もともと美香は“Dwarfs”の常連客だった。
隆を目当てに来ていたのを知っていた隼人は、自分から美香にモーションをかけるような事はしていない。
「近い内に別れるから、そん時は慰めてやれよ」
「ホント、そんなんじゃないっすから」
隼人は自分が惚れている女の事を、まるで人ごとの様にいう隆に苛つきを覚えながらもやんわりと否定した。
今後の更新は2〜3日に1回のペースになると思います。




