第3章:相手の正体
未来が香山家に引っ越した日の夕方。
五月、大輔、隼人そして未来の四人で夕食を共にした。
「未来ちゃんごめんね。変な事頼んじゃって」
大輔は未来のグラスにビールをつぎながら言った。
「いえ、とんでもないです。こちらこそ家賃もない上に生活費までみてもらえるなんてホントにいいんですか?」
「もちろん。無理な事お願いしたのはこっちなんだから、気にしないで」
未来は愛想笑いをしながら、大輔にビールをつぎ返した。
「俺が言うのも変だけど、隼人は真面目なヤツだから未来ちゃんに迷惑をかけるような事はないと思うから」
大輔は隼人を見ながら
「お前も家の事はちゃんと未来ちゃんの手伝いしろよ」
「大丈夫だよ。未来さん明日からよろしくね」
ニッコリと笑いながら、隼人は未来を見た。
隼人の丁寧な言葉使いにやわらかい物腰は、今時珍しいくらい真面目そうな感じだなぁと未来は改めて思った。
この分なら、うまくやっていけそうな気がする。
「こちらこそよろしくね。隼人君」
未来はニッコリと笑って答えた。
次の日、未来は大輔の車で、姉夫婦と隼人を乗せ空港へとお見送りに行った。
「じゃ、未来、隼人君の事よろしくね」
「うん。姉さんも元気でね」
「隼人、未来ちゃんの迷惑にならないようにな」
「心配しなくても大丈夫だよ」
大輔と五月は手を振って搭乗口へと消えて行った。
そして、空港からの帰り道、信号待ちをしていると信じられないものが目に入った。
「ちっ、ちょっと! あんた、何やってんのよ」
未来が見たものとは……。
タバコに今にも火を点けようとしていた隼人の姿だった。
慌ててタバコを奪うと、タバコより驚いたのが隼人の言葉使いだった。
「なんだよ。返せよ」
姉さん達がいた時にはずっと丁寧な言葉でしゃべっていたのに、まるで人格が変わったかのようにぶっきらぼうに言った。
未来はまるで面をくらったかのような気分だったが、気を取直して言った。
「返せよって、あんた高校生のくせして何言ってんの!」
「いいじゃん。別にタバコぐらいで目くじら立てなくても」
タバコぐらいって……。
「あんたね……」
「信号変わったぜ。ちゃんと前向いて運転しろよ」
未来が最後まで言い終わらないうちに隼人の言葉が被さった。
隼人の言葉に未来は慌てて前を向きアクセルを踏んだ。
「あんまり怒ると皺ふえるぜ」
からかうようなその言葉に未来はますます腹が立ってきた。
なんだコイツ、姉さん達がいた時の良い子ちゃんぶりは何処に行ったのよ!
「未来、今日俺バイトだから途中で降ろして。夕飯もいらないから」
そして、たたみかけるように隼人は言った。
みっ、未来って……。
さっきまでは未来さんって言っていたのに……。
あまりの豹変ぶりにもはや未来は言葉すら出てこなかった。
そして、我に返った時にはすでに隼人を降ろした後だった。
未来は自分の部屋へと入ると、持っていた鞄をベッドに投げ付ける。
もう! 信じらんない!
アイツ絶対二重人格だ!
なんだ、あの言葉使いと態度は!
未来は腹の虫が治まらず、ベッドの上に置いてあったクッションを何度も叩いていた。