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第19章:後悔

未来は会社のロッカーをパタンと閉めた後、額をロッカーの扉につけ溜息をついた。


隼人とケンカして一週間、あれ以来隼人は明らかに未来を避けている。


なんであんな事言ってしまったんだろう。


自分の幼稚な嫉妬のせいで、ケンカしてしまった事を心底後悔していた。


謝ろうかとも思ったが、ずっと避けられていては話すきっかけすら掴めない。


同じ家に住んでいてこの状態はかなりキツいな。


未来はもう一度溜息をつくと、更衣室を出た。


足取りも重く玄関の扉を開けると、何かにぶつかった。


「痛っ!」


「大丈夫?」


ぶつけた額を手に当てながら、声の主を確認すると敦だった。


「すっ、すみません!」


慌てて未来が頭を下げて謝ると


「いや、僕のほうこそちゃんと見てなかったから、そんなに謝らなくてもいいですよ。頭を上げてください」


未来が顔を上げると敦がジッと未来の顔を見た。


「な、なんでしょう」


「赤くなってるね」


えっ?


「額」


敦の言葉に未来は両手で額を隠した。


「……大丈夫ですから」


未来のその行動を見て敦はクスッと笑った。


「お詫びに食事でも奢るよ」


「え、いや、そんな。ぼーっとしてたあたしが悪いんですから」


「だからですよ」


敦の言っている意味がわからず何度か瞬きをしていると


「最近、元気がないように見たので。そうゆう時は飲みに出るのが一番でしょ」


敦はニッコリ笑うと、未来の腕を掴み歩き出した。


未来は突然の事で敦のされるがまま、タクシーに一緒に乗り込み前に一度行った居酒屋で飲む事になってしまった。


どうせ家に帰っても隼人と気まずい雰囲気の中いなければいけないのだ。


未来は開き直って、ビールを飲み始めた。


飲み始めると今までのストレスからか、一気に生ビールのグラスを二杯空けた。


それを見ていた敦はかなり驚いていたが、飲み始めた勢いもあり、目の前にいる人が会社の社長だということすらすっかり頭から消えていた。


「相羽さんって……、お酒強かったんですね」


「ええ、うちの家系はみんなお酒に強いんです。おかげで酔いたくてもちっとも酔えなくて……」


「よほど何か嫌な事があったようですね」


敦は苦笑している。


「ホント最悪です。こうゆうのを身から出たサビって言うんでしょうね」


「まぁ、何があったかは知りませんが、今日はトコトン付合ってあげましょう。額のお詫びも兼ねて」


未来は敦を見ると、優しく微笑んでいた。


こうゆう人を大人の人って言うんだろうな。


斉藤さんがあたしの好きな人だったら、あんな子供ぽいやきもちなんてしなくて済んだのかな。


やだ……、あたし何考えているんだろう。


隼人と斉藤さんを比べるなんて……。


居酒屋で食事を終え店を出ると


「まだ時間があるなら、もう一件行きましょう」


時計を見るとまだ九時過ぎだった。


この時間ならまだ帰らなければいけない時間ではない。


「連れてっていただけるんですか?」


「今日は知り合いがやっている店でパーティがあって、僕一人ではどうしようかと思っていた所だったから、一緒に行ってもらえると助かるよ」


敦と一緒に向かった店は、先ほどの居酒屋から二十分程歩いた所にあった。


お店の扉を開けて店内に入ると、未来は敦に促されるようにカウンター席に座った。


カウンターから店内を見渡すと従業員は男性しかいないからか、客席には九割がたが女性客だった。


「今日は何のパーティなんですか?」


「俺の誕生日パーティなんだ」


敦にした質問だったが、その返答をしたのはカウンター内側にいる男性だった。


「いらっしゃいませ、ようこそDwarfsへ。俺、隆って言います」


満面の営業スマイルで隆は挨拶をした。


「隆、彼女に何か作ってやって」


「敦さんはどうします?」


「あぁ、いつものでいいよ」


隆の言葉に敦は別の場所に行き何か作り始めた。


「隆とは長年の腐れ縁でね。今日は隆の誕生日パーティを店でやるから来てほしいって言われてたんですが、やっぱり……、相羽さんに一緒に来てもらって正解でした」


敦は店内を見渡しながら言った。


未来ももう一度店内を見渡した。


確かに来店客のほとんどが女性では、男性は入りずらいかもしれない。


「お待たせ、俺のスペシャルカクテルをどうぞ。で、敦さんはいつものね」


「美味しい」


未来はカクテルを手に取り一口飲むと、フルーティな香りが口いっぱいに広がり、とてもおいしかった。


「そう良かった。それ、俺の自信作だから」


隆は嬉しそうに言った。


その気さくな笑顔はとても魅力的で、誕生会に沢山女性客が来ているのが頷ける気がした。


「そうだ、ケーキあるけど食べる?」


「えっ、いいんですか?」


未来はケーキと聞いてつい顔がほころんだ。


敦は裏方に行くと誰かと話をしてから、また戻ってきた。


「ちょっと待っててね。今持って来てくれるから」


未来は楽しみにしながら待っていると、カウンターの内側から名前を呼ばれ、声のする方を見ると


「隼人……」


裏方から出て来た隼人は、ケーキのお皿を持ったままその場に立ち尽くして、驚いたように未来を見ている。


「なに、お前知り合いなの?」


その様子を見ていた隆が隼人に聞いた。


「え……、お義姉さんの妹で……」


「ああ、お前が同居している子って、この子なんだ」


隼人が言い終わる前に隆が言葉を繋いだ。


「同居?」


敦は隆の言葉を聞いて、未来の方を見た。


未来は敦に隼人との同居の経緯を説明すると、敦は納得したかのように隼人を見た。


隼人は敦を一瞥し、ケーキの皿を未来の前に置くと、一瞬未来と目を合わせそのまま奥へと踵を返した。


その顔は明らかに怒っている。


最悪だ……。


この前、斉藤さんの事で言い合ったのに、その原因になった人と一緒いるんじゃ、そりゃ怒りもするか……。


いや、待てよ。


そもそもあたしと斉藤さんとは付合ってないんだから、隼人に怒られる必要はないじゃない。


だいたい、あたしが誰と付合おうが隼人には関係ない事だし。


そう思うと今度はだんだん腹が立ってきた。


未来は目の前に出されたケーキにホークを思いっきり突刺して食べ始め、お酒のピッチも早くなる。


その様子を見ていた敦がクスクス笑い始めた。


不思議に思い未来は敦を見た。


「相羽さんはわかりやすい性格をしていますね」


敦の言っている意味がわからない未来は首を傾げた。


しかし、それ以上言うつもりがないのかただ黙って笑っていた。


「そうだ、未来ちゃんって言ったけ、最近隼人って何かあったの?」


「え……、どうしてですか?」


未来は驚いて隆を見た。


「最近の隼人、機嫌悪いんだよね」


未来は黙って下を向いた。


まさか、その原因のひとつが敦だとは口が裂けても言えなかった。


「さ、さぁ……。……あの、お手洗いお借りします」


未来はいたたまれなくなって、席を立った。


未来がレストルームから帰って来ると、耳元で話をしなければいけないほどざわついている訳でもないのに、敦と隆はなにやらコソコソと話をしているようだった。


未来が席に戻ると、慌てた様子で離れた。


「そろそろ帰りましょうか」


敦の言葉に時計を見ると、まだ十時を少し過ぎた所だ。


「でも、まだ来てそんなに時間経ってないですよ。いいんですか?」


「大丈夫ですよ。一応義理は果たしましたから」


ニッコリ笑う敦を不信に思いながらも、残り少なくなっていたカクテルを飲み干し、店を後にした。

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