第17章:三者面談
未来は午後からの仕事を休んで、隼人の学校に来ていた。
少し前に隼人から、保護者を交えた三者面談があるから来てほしいと、言われていたのだ。
普段の隼人を見ていると、大人びていてあまり意識したことはなかったのだが、こうして学校に来ると改めて高校生なんだと思った。
「余計な事は言わなくていいからな。ただ黙って返事してればいいから」
何を警戒しているのか、学校に着くまでの間何回この言葉を聞かされただろうか。
きっと学校でもいい子にしているのだろう。
家での事はよっぽど言われたくないんだろうな。
「そんなに言うなら、家でももう少しいい子ちゃんにしてれば」
からかうように言うと隼人はムッとして
「いい子をやってんのも疲れるんだよ。家に帰ってまでやってられっか」
隼人の本来の性格を知っている人って、一体どれぐらいいるんだろう。
きっと外では誰にでもいい子でいるんだろうな。
そう思うと、なんだか自分だけが隼人の事を知っているような幸せを感じてしまった。
隼人の名前が呼ばれ、教室に入り担任と対面になっている席に隼人と座った。
担任の男性教諭は五十を過ぎているだろうか、頭には黒髪よりも白髪の方が目立っている。
「えーと、あなたが隼人君の保護者ですか?」
若い未来が一緒に来た事に、男性教諭は少し驚いているようだった。
「ええ、海外赴任した兄夫婦の代わりに、隼人の保護者を頼まれています」
男性教諭は思い出したかのように、あぁと呟いた。
「隼人君はK大受験希望でよかったかな」
「はい」
K大……。
そんなにレベルの高い大学を受けるんだ。
K大と言えば県内でも難関と言われる国立大学だ。
「他の大学は受けないのか?」
「受けるつもりはありません」
ハッキリと言い切った隼人に、男性教諭は少し考えていたが
「まぁ、君なら合格圏に入っているから大丈夫だとは思うが……。一応滑り止めは必要だと思うがね。どうだろう、T大も受けてみては」
T大はK大よりは偏差値が低いが、それでも簡単に受かる事はできない私立の大学だ。
「いえ、T大は受けるつもりはありません。K大一本でいきます」
「まぁ、まだ時間はある。ゆっくり考えなさい」
三者面談が終わり、校内の廊下を歩いていた。
「隼人」
後ろから声がして振り向くと、ストレートの長い髪をなびかせながら、ひとりの女生徒がこちらに向かって歩いてきた。
「優香」
優香と呼ばれた女生徒は隼人に近づくと
「昨日はありがとうね」
「ああ、うまくいったのか?」
「うん。隼人のおかげだよ」
優香は照れたようにでも、とても嬉しそうに言った。
同級生だからか、隼人はとても気楽な感じで話をしている。
誰だろう……。
綺麗な子だな。
目鼻立ちのハッキリとした顔立ちの優香は、身長はそれほど高くはないが、隼人と並ぶと美男美女のカップルに見えた。
そういえば昨日の日曜、隼人は出かけていたけどこの子と一緒にいたんだ。
もしかして……、新しい彼女だったりして……。
そんなふたりを見て、未来は優香に嫉妬している自分がいる。
未来は心の中で溜息をついた。
あたしはなにを嫉妬しているんだろう。