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第16章:新たな発見


本編に戻りました。

未来は滅多にしない残業をしていた。


今日はいつも居る総務のお局様が急に体調を崩し休んだので、月末の決算をひとりでやっていた。


しかもこんな時に限って来客が多く、計算をしている手を何度も止める事になり、いっこうに作業が進まない。


電卓を叩いていると、総務部の部屋のドアが開き誰かが入ってきた。


未来は最後の数字を電卓に叩き込むと、手を止め部屋に入ってきた人物を確認すべく頭を上げた。


「珍しいですね、残業しているなんて」


総務部の部屋に入ってきたのは、敦だった。


「まだ、残業していくつもりですか?」


「いえ、ちょうど今キリがついた所です」


「そうですか、他の従業員は皆帰ったので、あとは相羽さんと僕だけですから一緒に出ましょう。施錠をしなければいけませんから」


そうだったんだ。


「すいません。すぐ片付けます」


未来は慌てて帰り仕度をした。


「頑張って仕事をしてもらっているのに、謝る必要はありませんよ」


敦は優しい笑顔を未来に向け言った。


「慌てなくてもいいですから、仕度が出来たら声をかけてください。僕は戸締まりの確認をしてきます」


そう言うと敦は総務の部屋を出て行った。


未来は帰り仕度を終えた頃、ちょうど敦が総務の部屋に戻って来た。


「この部屋の戸締まりは全て確認しました」


未来がそう言うと、敦と未来は会社を出た。


敦は玄関の施錠と警備の機械をセットをすると未来の方を振り返り


「良かったら、食事でもどうですか?」


突然の申し出に未来は戸惑った。


雨の降った日に家まで送ってもらったとはいえ、ふたりで食事となると……。


未来が返答に困っていると、申し訳なさそうな声が聞えた。


「急に食事なんかに誘って、……ご迷惑ですよね。すみません……」


その姿はまるで母親に叱られた子供のように見え、とても年上には見えず未来は思わず笑ってしまった。


急に笑い出した未来に敦は不思議そうに未来を見ている。


「すみません。社長の謝っている姿が、まるで叱られた子供のように見えたものですから」


「叱られた子供……ですか……」


敦は恥ずかしそうに頭を掻いた。


「お食事、連れてっていただけるんですか?」


「一緒に行ってもらえるんですか?」


未来の言葉に敦はホッとしたように笑顔になった。


今日、隼人は夕食はいらないと言っていたから、コンビニでお弁当を買って食べるつもりだったのだ。


未来の敦の車に乗り込だ。


着いた場所は居酒屋だった。


「すみません。こうゆうお店しか知らないものですから、と言っても車なので飲めませんが……。相羽さんは何か飲まれますか?」


「いえ、ウーロン茶で」


敦はウーロン茶と何品か注文をしてくれた。


「すみません。無理に誘ってしまって」


敦は運ばれてきたウーロン茶を一口飲むと、優しく未来に笑いかけた。


「いえ、家に帰っても特にすることもありませんから」


年上の、しかも会社の社長に敬語で話しかけられ、未来はかしこまってしまう。


なんで社長は年下のあたしにまで敬語で話すんだろう。


「相羽さんはいつも明るいから、うちにみえるお客様に評判いいんですよ」


「そうなんですか?」


こんな所で褒められるとは思っていなかった未来は照れて下を向いた。


「友達にはよく、無駄に明るいって言われるんですけど」


「そうですか。でも、僕は相羽さんの明るさは好きですよ」


「えっ?」


敦の思いがけない言葉に未来は顔を上げた。


「あっ、いえ、変な意味ではなく……」


敦は慌てて顔の前で手を振る。


「相羽さんがいるとその……、周りが明るくなるっていうか……、うちの会社は若い方がいませんから」


そして、また困ったように頭を掻いていた。


それを見ていた未来はまた笑ってしまった。


三十歳という年齢には似つかわしくないその態度に、未来はとても好感を持った。


「また、笑われてしまいましたね」


敦は照れたように笑っている。


「社長、じゃなかった。斉藤さんって面白い方ですね。あの……、斉藤さんはどうして、あたしにまで丁寧にしゃべられるんですか?」


敦に親しみを感じた未来は、いつも疑問に思っていた事を聞いた。


敦はフッと笑うと


「それは、僕が二代目だからです」


未来は敦の言っている意味がわからず首を傾げてた。


「年齢や経歴では長年勤めている方には敵わない。僕が父の会社を継いで社長になったとたん、横柄な態度をとったら周りの従業員はどう思うでしょうね」


あっ、そっか。


敦の言葉にようやく納得した。


「年下のしかも経歴の短い僕の下でベテランの方に気持ち良く働いてもらおうと思ったら、僕が下手に出るのが一番いいんですよ」


「でも、あたしは斉藤さんより年下ですし……」


「従業員を分け隔てなく接する事が出来なければ、上に立つものとして失格だと思いませんか」


「そんなもの……、ですか……」


「そんなものですよ」


きっと、上の立場の敦には、未来にはわからない苦労があるのだろう。


未来と敦はグラスに残っていたウーロン茶を飲み干し、店を後にした。


「相羽さんは、付き合っている方はいないんですか?」


敦は未来の家の近くの信号で止まった時、思い出したように言った。


「最近、別れちゃいました」


あまり思い出したくない思い出だったが、明るく言ったつもりだったが


「そうでしたか。余計な事を聞いてしまいましたね」


「いえ、もう終わった事ですから」


再び動き出した車のステアリングを握っている敦の横顔が、申し訳なさそうなり未来は慌てて言葉を付け足す。


しばらくして家の前に車が着くと


「今日は食事に付き合わせてすみませんでした」


「いえ、こちらこそご馳走さまでした」


「ご迷惑でなければ、また、食事に誘ってもいいですか?」


「あっ、はい。あたしなんかでよければ」


ただ会社で会うだけの印象より、今日一緒に食事をして敦への印象は変わっていた。


そして、敦とならまた一緒に食事をしてみたいなと思った。


「じゃ、また」


「はい、お休みなさい」

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