第1章:Prologue
ちっ、遅刻ぅ〜。
相羽未来はベッドから飛び起きた。
会社の始業開始時間に間に合わせる為には、七時半には出なきゃいけないのに、時計はすでに七時半を過ぎている。
慌てて服を着替えて、一階のリビングに駆け込むと、そこには椅子に座ってのんびりとコーヒーを飲んでいる香山隼人がいた。
「ちょっと、起きてんなら起こしてよ!」
未来は冷蔵庫から牛乳を取り出すと、カップに注ぎ一気飲みをした。
「まったく、朝からうるせぇヤツだな」
隼人は未来を一瞥しコーヒーを飲み干すと、立ち上がり未来を見下ろした。
高校三年生の隼人は百七十八センチの長身ですらりとした体格をしているが、百五十五センチしかない未来にとってはでかいヤツという印象しかない。
「お前なぁ、二十四にもなって高校生の俺に頼るなよ」
「なに言ってんのよ。あんたにはやさしさってもんがないの?」
未来はキッチンにあったロールパンを掴むと、玄関に急いだ。
「あっ、今日遅くなるから。今日の夕飯は昨日作った煮物を温めて食べて」
ヒールを履きながら未来が言うと、隼人は長身の体をリビングと廊下をつないでいる扉の柱に背を預けながら
「ふぅん。デートなんだ」
「えっ……、あぁ、まぁね」
ニヤッと笑いながら言う隼人に未来は曖昧に答えながら玄関の扉を開けた。
「じゃ、いってきます」
玄関を出ると、駅まで走った。
まったく調子狂うなぁ。
ニヤッと笑った時の隼人の顔は十七歳には見えず、妙に大人びていてドキッとしてしまう。
そもそも、未来と隼人は赤の他人だ。
いや、他人だった、一年半前では……。
それがどうしてひとつ屋根の下一緒に住む事になったのか……。
それは、今年の年明けの事だった。