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まさかの信行様泳げないことが発覚!

ここからは郁人たちの元服後の物語です。


前回投稿から一年半たってからの投稿になりますが生暖かい目でお願いします笑

「・・・殿」

 体が揺れている。

 なにか、世界がぶれているようだと郁人は他人事に思っていた。

「・・・殿!」

 まだ揺れている。

 遠くから馬の嘶きも聞こえてきた。

『そういえば、爪龍そうりゅうの世話、最近小姓に任せきりだな・・・』

 そんな風に自分の愛馬の心配をしていたが、叩き起こすような大声で目が覚める。

「郁人殿!!」

 ここで、一緒に参陣していた林秀貞はやしひでさだに叩き起こされた。

「郁人殿・・・寝られては困りますぞ・・・」

「すいません、秀貞殿。少々寝不足で・・・」

 あきれる秀貞をよそに、郁人は、先ほど見た夢について思い出す。

『ずいぶんと懐かしい夢を見た。幼少のころの夢か・・・、そういえば、信行様はいまだに泳げないんだよなぁ。水泳の技量と身長は成長しないんだよな・・・』

 と、不謹慎なことを考えつつも、起きるや否や、矢継ぎ早に指示を出し始めた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


 直ぐに、状況を知らせる早馬や伝令が戻ってきた。

「現在、柴田方が信長様の軍勢を押し込んでおります!」

「佐々孫介まごすけ殿討ち取りまして御座います!」

「柴田様、信長様の本陣に強襲を仕掛けたとの由で御座います!」

 秀貞は味方の有利を知らせる伝令を聞いて勇気が出たのか、ふと呟いた。

「こちらが押しているようですな」

 その言葉を聞き咎めた郁人は、窘めるように言う。

「まだまだです、信長様は馬鹿ではありません、必ずや勝家殿を撃破しこちらに来るでしょう」

 郁人の発言を否定するかのように林通具はやしみちともは反論する。

「何を言われる!あのようなうつけに、勝家殿が負けるものか!」

「通具殿、それはわかりませんよ、確かに勝家殿が負けるとは思いませんが、率いてる兵は只の兵ですから・・・」

 そう郁人が呟いたのが聞こえるが如く、

「柴田方崩壊! 兵が逃亡していきます!」

「柴田様負傷! 撤退していきます!」

 今度は一転して味方の不利を伝える伝令が矢継ぎ早に本陣に駆け込んできた。

「なんと・・・」

 この伝令を聞いた通具は愕然としていた。

「勝家殿が敗れるとは・・・」

 愕然としている通具を余所に、郁人は考えを巡らせていた。

『すぐに撤退するべきか、はたまた一発、手負いの虎の如く信長勢を叩くか・・・』

『いや、三十六計さんじゅうろくけい! 撤退だな・・・』

 郁人は思考を打ち切るとすぐさま秀貞、通具両名に説明をし始める。


 ――――――――――――――――――――――――――――――


「なに! 撤退するだと! 馬鹿を言うな!」

 郁人が予想した通りに通具は反論した。

「郁人殿、通具の言うことに同調するつもりは無いが、逃げるとはどう言うことか」

 そこにすかさず秀貞の疑問が被せられる。

「逃げはしません、戦略的撤退です、末森城に戻ります」

「末森に戻るだと! 戻ってどうするというのだ!」

「では説明します。まずこの場に殿しんがりを残しつつ撤退、最大兵力を保っている秀貞殿の軍勢は先行して末森に入ります。それから―――」

 郁人は自分の作戦を十数分間語って聞かせた。

「如何でしょうか?」

「作戦は解ったが・・・殿しんがりはどうするのだ」

「自分が承ります」

「なんと、それは危険ですぞ!」

 秀貞は諌める。

 郁人はそんな秀貞達にかぶりを振った。

「この作戦を提案した私が残ったほうが成功率は上がります。可能性の問題です。」

 秀貞と通具はあっけに取られていた。

「問答は以上ですね? では準備に取り掛かってください。敵方の軍勢はすぐ来ますよ!」

 それからの行動は迅速であった。

 郁人率いる軍勢はすぐさま、防御陣を組み立て、秀貞、通具は撤退の準備を完了させ出発の準備を整えた、

 その間わずか半刻であった。

「では、お二人は撤退を」

「死ぬなよ、郁人よ」

「信行様が悲しまれますからな、ちゃんと無事に帰還してくだされ」

 二人から激励される郁人。

「ええ・・・ありがとうございます」


「さて・・・」

 すぐさま思考を切り替える。

種十郎しゅじゅうろうはいるか!」

「は! 此処に!」

「お前に一隊を預ける! 我々本隊が撤退する振りをする故すぐさま、織田本隊に突撃しそのまま通り抜け回り本隊に合流せよ!」

「畏まりました!」

伴之助とものすけ!」

「お側に」

「お前にも一隊を預ける! 種十郎が突撃した後、すぐさま横撃を仕掛けろ! その後種十郎と同じく本隊に合流せよ!」

 続け様に言い終えた後、逡巡する様に言葉を濁しつつ言った。

「二人とも死地に向かわせてしまう不甲斐ない主を許してほしい・・・」

 その言葉に種十郎は明るい顔で

「気にせんでください! 我々は殿に命を拾ってもらった身、命の一つや二つ!」

 その言葉に伴之助も頷く。 

「種十郎、伴之助・・・すまぬ!」

 そこに急ぎ足の伝令が入る。 

「織田軍動く模様です! 前線の偵察兵から先鋒の旗は森の鶴丸の模様!」

 郁人は頷き、殿部隊全軍に体を向けた。

「来たか・・・森勢は強敵だが先ほどの策通りに戦えば損害少なく戦う事が出来るはずだ!」


「各々丹羽勢の精強さを鬼に教えてやれ!」


「展開開始!」


 ――――――――――――――――――――――――――――――

織田軍の先鋒にいる森勢は相対する旗印をみてしかめ面をする。

「ちっ、丹羽の小倅の軍か・・・」

森可成(もりよしなり)は面白くないような顔をして吐き捨てる。

「おい万千代よ、あれはお主の弟じゃろ、何故信行様方に付いておる」

そう問いかけられ申し訳ないような何とも言えない表情をする丹羽長秀

「信行様と昵懇(じっこん)の中だったからでしょうか・・・愚弟がご迷惑おかけいたします・・・」

そう言うと、可成に頭を下げる。

その態度をみた可成もバツが悪い顔になりため息をつく。

「はぁ・・・まぁよいがの、信長様には殺さぬ程度に痛めつけてやれと申し受けておるしの」

長秀に顔を向けてそう言い放つ可成。

「まったくもって不出来な弟で申し訳ございません・・・」

長秀はそう返すしかなかった。

ただ内心は、今の状況を作った弟に対しての心配で一杯で、

可成に対して申し訳なさを感じているわけではなかった。




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