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結婚式

作者: 相沢つとむ

頑張ります。

「暑いな」

 武志は、ネクタイを緩めてシャツの第一ボタンを開けた。

 確かに暑い日だ。四月だというのにこの暑さは異常だ、って毎年言っている気がする。

「何時からだっけ?」

 武志はタバコに火をつけながら、僕に聞いてきた。

 僕もタバコに火をつけた。

「もうそろそろじゃないかな?」

 腕時計をチラリと見た。お昼前。少しだけ、早く着きすぎたみたいだ。

「まさか、浩介が一番最初に結婚するとはな」

 武志の目はどこか寂しそうだ。

 武志は、つい一週間前に四年付き合った彼女にフラれたのだ。フラれる前までは、大学の友人の中で一番に結婚すると思っていたし、実際、武志もそれを公言していた。

 なのにフラれてしまったのだ。付き合うときは時間かかるのに、フラれるときは一瞬だな、と武志は力なく笑っていた。

 タバコのフィルターを強く噛んでみた。イライラしてるときにタバコを吸うと強く噛んでしまう癖がある。

 どこかおっちょこちょいで、頭の悪い浩介。大学だって四年生のときですら毎日授業を入れてギリギリで卒業したし、就職だって、卒業してから半年後に決めていた。いつも、危なっかしい綱渡りのような人生を歩んでいた浩介は、結婚だけは、余裕を持って決めれたみたいだ。

 真由美。浩介の結婚相手の名前だ。そんな浩介には、似つかわしくないすごく出来た女性だ。料理だって上手いし、裁縫だってできる。頭もいいし、年下の面倒見もいい。なにより、笑顔がかわいい。そこがすごくいいのだ。

 真由美。僕はただの浮気相手だったのだろうか。今でも疑問に思う。

 浩介のことで相談したいことがある、って言ってきたときも、二人だけで飲んでいたときも、真由美は本当は僕のことが好きなんじゃないのか、ってずっと思っていた。

 いや、思っていた、だけではない。

 浩介のことで、と理由をつけて何度も二人で会っていたし、そのうち、何度かは肌を重ねたことだってある。

 しかし、今思い返してみれば、好きの一言はもちろんなかった。僕が真由美を抱いていたときも本当は、浩介のことが頭の中にいたに違いない。

 そう、思うと悔しくてたまらない。

 タバコのフィルターをより一層強く噛み締めた。

「おい、時間だぞ」

 阪本が喫煙室まで僕たちを呼びにきてくれた。

 タバコの火を消して喫煙室を出た。

「今ごろ、浩介のやつ緊張してるんだろうな」

「ガチガチで登場したらちょっかけてやろうぜ」

「それは、さすがにマズいだろ」

 そんな二人の会話は、ただ僕の耳を通りすぎるだけだった。

 やっぱり、真由美が浩介の力で幸せになっているところを見たくない。僕が幸せにしてあげたかった。

 教会に入って後ろの隅のほうに三人で座った。時間がギリギリだったらしくすぐに結婚式ははじまった。

 真由美が入場してきた。ウェディングドレス姿はすごく美しい。すごくキレイだ。

 真由美は、すぐに僕に気がつくと照れるように笑い、ごめんね、と声に出さずに口だけで言った。

 真由美の目には僕が映っている。でも、あの目の奥の奥の奥には、僕ではなくて浩介がいる。

 真由美を幸せにするのは、僕ではなくて浩介だ。

 認めるしかないようだった。

「頑張れ!」

 大きい声で言った。

 周りの人が僕を見る。驚いたように、睨み付けるように僕を見る。

「頑張れ!」

 それでも、僕は続けた。真由美に伝えたいことがある。

「きっと、浩介は君を幸せにできるだろうし、君も幸せになれる。でも、その変わりに不幸せになった人だっている。その人の上にたって、君と浩介は笑っていればいい。僕なら大丈夫。僕が傷付いて、君たちが幸せならそれでいい! 結婚おめでとう!」

 一口に大きい声でそれを言って僕は、教会を出た。

 結婚おめでとう、それは、本当に思っているよ。

これからも頑張ります。感想お願いします。

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