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いじめっ子達をひたすら地獄に落とすだけの話  作者: 束間由一
第一章:いじめられっ子と地獄の死者
3/7

黒衣の使者

 


 彼が、再び目を開けると、そこには青い空があった。

 陰った太陽は、優しく頬を照らす。せめてもの慰めのように。

 彼は、仰向けになって、川辺の砂利の上に寝かされていたのだった。



 誰が、やったのか?

 上半身を起こして不思議そうにあたりを見回すと、さっき浸かってた川の縁に自分と同じくらいの身長の誰かが立っているのが見えた。



 「やあ、目が覚めたかい?」



 その、真っ黒なマントで背中を隠した誰かは、振り向きながらそう言うと、彼に向って近づいて来た。彼は、立ちあがってそれに対面する。



 「助けて、くれたんですか」


 「うん……君、名前は?」


 「ええと、西原(さいはら)善樹(よしき)と言います」


 「ヨシキと言うのか。僕はフドウ……地獄から使命を帯びてやってきたんだ」


 「地獄……から?」


 「そうさ」


 

 ヨシキと同じくらいの年に見える黒髪のフドウは、美しく優しそうな顔に憂いのような表情を浮かべて川に生える木々達の方を見た。



 「ヨシキ……君は、いつもあんなことをされているのかい?」


 「え……? それは……」


 「正直にいいなよ。いじめられているのかい、君は?」


 「……」ヨシキは、言葉が出ない。


 「わかるよ」そう言うと、フドウはヨシキの両肩に手を当て耳元で囁く。

 「でも、大丈夫だよ。僕は誰にも言わないから。……僕は、君を助けに来たんだ」


 「でも……」


 「さあ、話してよ。今まで、あいつらにどんな事をされたのかを」


 「あ……ああ……」



 ヨシキの目からはどっと涙が溢れてきた。

 積もり積もったものが、フドウによって解き放たれたように。



 言葉を詰まらせながら、彼は少しづつこれまでの経緯を話し始める。

 フドウはそれにしっかりと耳を傾けた。




 

 ヨシキがいじめられるようになったのは中学に入ってからだった。


 理由ははっきりと分からない。中学に入学してすぐにあの少年グループが近寄ってきて、勝手に仲間に入れさせられたのだ。おかげで、他のの子と仲良くなるチャンスを逃してしまった。


 最初の内は、ちょっとちょっかいをかけるだけだったが、徐々に脅すような言葉を並べるようになり、パシリの様な事をやらされはじめた。そして、ついに1学期の終わる頃にヨシキは暴行を受ける。校舎裏で殴る蹴るの集団リンチにあったのだ。理由は、ヨシキが彼らに言われていた額のお金を持って来なかったからである。

 この事件への担任や、学校側の対処はとてもずさんだった。少年グループをただ少し謝らせて終わりにしてしまったのだ。そのため少年グループは増長し、この事件以降、ヨシキに対するいじめは加速的にひどくなっていった。道端の石や犬の糞を食べさせられたり、体育館の資材置き場に縛られて監禁された事もあった。そして、そういった行為を脅迫に使い、ヨシキから高額なお金をむしり取ってきたのだった。

 至るところにアザが出来たヨシキだが、両親にはなかなかはっきりと言えなかった。父親が厳格な男だからで、こんな状況の彼に対して浴びせる言葉は、「勉強しろ」だの「将来の事を考えろ」だの、全く的外れなことばかり。母親も優しい人だが、その父親に反論できないような気弱な存在で。ただ、ヨシキがこっそりとお金を持って行くのを見届けることしかできなかった。

 同級生達も、不良集団であるヨシキ達のグループには恐くて何も言えないでいた。自分が同じ事をされるのが恐いからだ。

 

 だから、つまり、ヨシキには誰も支えとなる人間がいなかった。

 彼は追い詰められていたのだた。


 



 「そうか……それで、今日も?」


 「うん、お金持ってきたのに……少ないって」


 「……ひどいね。それは、許しておけないな」


 「……でも、どうすることもできないんだ……もう、死にたい……」


 「そんなこと言っちゃいけない。あんな奴らの為に命を無駄にしちゃいけないよ。それに、さっき君は死にたくないと心で思っていただろう?」


 「だけど……」


 「ヨシキ」フドウの目が鋭くなる。

 「1つ聞くけど。あいつらの事、地獄に落としたくない?」


 「えっ!?」


 「君が望むなら、僕が代ってあいつらに制裁を加えてあげるよ」


 「せい……さい……?」


 「そうさ、君が罪を背負うことなく……ね」



 あまりに急なフドウの提案に、ヨシキは瞬間的に戸惑った。

 しかし、その答えはすぐに固まる。



 「あいつらを、地獄に落としてくれるんですか?」


 「ああ」


 「じゃあ……お願いします。もうこれ以上、こんな生活耐えられないんです!」


 「よし」フドウの鋭かった目は再び穏やかになった。

 「確かに君の願い聞き届けたよ。じゃあ、明日早速決行しよう。……ただ、少しだけお願いしたい事がある」


 「何ですか」


 「まず、彼らの名前を教えてくれ」


 「……ええと……」


 ヨシキはイジメグループのメンバーの名前をフルネームでフドウに伝えた。

 

 「……よし、わかった。じゃあ、明日、彼等を君の力で再びこの川辺に連れてくるんだ。苦しい要求かもしれないけど、これで最後になるから、ね。頑張って」


 「……わかりました」


 ヨシキの言葉を聞き届けると、フドウは彼に背を向け、「君なら大丈夫」と言い残し歩きだした。

 黒いマントは風に当てられて大きくなびいていた。








 












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