誰だ。
僕は、よく何も考えずに歩くことが多い。
今日も何も考えずに歩いていたら、道に飛び出していた木の枝に頭を刺してしまった。少し、血が出てしまい絆創膏を張ろうと思ったけど、たいして痛くもなかったので、自然に治るのを待つことにした。
こういうことは、よくあることだった。
無事に家から目的地まで到着したことはあまりない。生傷も少なくない。
よく考えて動かないと、全く別の場所にいることも、しばしばある。
でも、今回はビックリした。
「え?」と、誰もいないのに、少し大きな声を出してしまった。
なんと言ったらいいのだろう。
トンネルを抜けるとそこは──。とか、扉を開けるとそこには──。とか、そんな明確に分かるポイントがなくて、突然に変わったというのか。なんと言うか。
映画みたいだと一瞬思ったけど、映画のような劇的な変化はなくて。
気付かなかっただけかもしれないけど。
突然目の前が、真っ暗になった。
死んだのかと思ったけれど、頭の傷はまだ痛むので、僕は生きている。死んだらこういう感覚なのかな、と思えるような。
誰もいない。
でも、誰かはいる。
何もない。
でも、何かはある。
何かが聞こえた。
「だーれだ」
声が聞こえる。誰だろう。僕は聞いたことのあるその声を、頭の中で懸命に探した。あの人ではない。この人ではない。あ、昨日聞いた声だ。そうだ……。僕はその声を口に出した。
「石村だろ」
「ピンポーン」
その言葉と同時に、僕の視界はひらけた。
後ろを振り向くと石村の姿があった。石村は、手を広げて笑っている。
「なあ、今日は何して遊ぶ?」
石村は無邪気に聞いてくる。僕はにっこりと微笑むと、「公園!」と言って公園に向かって走り出した。
小学生の最後の夏休みは、こうして幕を開けた。
こんにちは。葉崎です。
今回、一番苦労したのはタイトルを付けることでした。本文はいつものバカらしい感じなので楽に書けたのですが、なかなか似合うタイトルが付けられなくて……。
このタイトルもぴったり合っているか自信はないのですが「誰だ。」を読んでいただきありがとうございます。
それでは。