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<5・ひきこもり脱出と予想外の求婚。>

「さあカインくん!ちょっと私とお話しようかっ!」

「ぎゃああああああああああああああああああ!?」


 エリザベートと一緒に写真撮影会をした翌日。私は写真を入れたクリアファイルを抱えて、ウォーカー家に殴り込みをかけていた。

 事前にグレンとその両親に許可は取っていたので家に入るまではフリーパスだったが、散歩中だったカインにはまるでオバケでも見たかのように逃げられてしまう。なんなんだ、その反応。屋敷に飛び込み、部屋に飛び込んで鍵をかけようとするカインに対し、私は強行手段に出ることとする。


「逃げんな!ちょっと話があるだけだっつの!ていうかお前が話聞いてくれないと話が進まないんだっつーの!うおりゃああああああああああああ!」


 ドカバキドゴ!

 なんかすごい音がして、彼が飛び込んだ部屋のドアがぶっ壊れた。鍵をかけようとしていたカインは、完全にびびって尻餅をついている。

 おかしい。

 なんでノブを引っ張っただけで、ドアごとぶっ壊れて外れたんだろうか。しかも。


「あああああ……この間直したばかりなのに……ろ、ローザにまたドア壊された……」

「え?前も私このドア壊してたの?マジ?」


 がくがくがくがく、と首を縦に振りまくるカイン。このドアが脆いタイプだったのか、もしくは私=ローザが怪力だったのか。できれば前者だと信じたいところである。同時に、前にもドア壊して突撃されたからびびって逃げたんだろうな、というところまで察した。――元のローザは一体何をやらかしたんだろうか。

 まあ、それはそれとして。


「今日は、君に素敵なプレゼンをしにきただけだ。カイン、鉄道オタクなんだよな?」


 私は彼に、昨日撮影したばかりの鉄道の写真を見せた。え、とグレンによく似た銀髪の青年は目を丸くして這いずってくる。やはり、興味があることとなると食いつきが違う。


「実は昨日、エリザベートと一緒に列車に乗ってサンドイッチ食べてきたのだ!ふふふふ、どうだ、楽しそうだろ?」

「エリザベートって……あの、悪役令嬢と名高い、鬼のように怖いエリザベート・ベインさんですか?」

「確かにポジション的には悪役令嬢だろうけど、そんな怖くないぞあの人」


 多分誤解されやすいタイプなんだろうな、と結論は出ていた。実際、私と一緒に遊びに行ってくれた彼女はとても親切だった――ちょっとツンデレ気味というだけで。


「彼女と一緒に、ストリングクレイ駅からダイヤモンド線に乗ったんだ。ほら、この写真。君ならわかるだろ?」

「う、うん」


 私が見せた外観の写真に、こくん、と頷くカイン。彼の後ろでは、彼が作ったであろう列車の模型がぐるぐると走っている。壁には何枚も取り寄せたであろう写真が。

 しかし、列車の資料写真は、どうしても正面からとか真横からとか、画一的な角度でしか撮影されていないことがほとんどだ。――人の手で、それも素人の手で撮られた写真とは見えるものが違うだろう。ましてや。


「内装がどうなってるか、知ってる?これ、長椅子の下なんだけど」

「あ、き、キラキラしてる……」

「そう。宝石みたいなのがハマっててさ、キラキラ光ってるんだ。そこから時々、硝子が撥ねるような不思議な音がするんだ。エリザベートが言うには、魔導石が弾ける音なんだって。それから……」

「あ、う、運転席!」

「そうそう!運転席の後ろに立って線路を見てるの楽しいよ。なんか自分が運転してるみたいな気分になってくる。最初の駅に到着する直前にトンネルがあって、そこを抜けるとレンガ街が広がっているのが見えるんだ。青空の下オレンジが映えて最高に綺麗だったよ」


 だからさ、と私は彼に告げる。


「実際に、列車に乗って、好きなところに行ってみたくない?そして……こういう素敵なものを作る仕事に就いてみたくない?運転士、設計士……そう、君は魔法使いの家の子だから、魔導石の設計だって頑張ればできると思うんだ」


 写真を一枚一枚見せながらアピールする。少しずつ、カインの目にキラキラした光が灯ってくるのが見えた。

 やっぱりそうだ、と確信する。自分が好きなものを生かせる仕事がある。そして、自分が見たいものを見る方法がある。――彼は外に出たくないんじゃなくて、家でやりたいことがあるタイプのひきこもりらしいではないか。なら、外でやりたいことができれば、問題なく外に出ることもできるはずなのである。


「……ねえ」


 やがて、彼は一枚の写真に目を向けた。

 それは列車に乗った直後、車内で撮影したエリザベートの写真だ。頬を染めて、ちょっと恥ずかしそうに笑っている彼女。


「これ、撮影したのは……ローザ?」

「え?そうだけど?」

「……そう」


 どうかしたのだろうか。

 彼はぽつり、と「エリザベートってこんな顔するんだ」と呟いた。


「幸せそう。……恋も、悪くないのかな」

「え?」


 結婚してくれ、のアピールはまた別にするつもりであった私は拍子抜けすることになる。

 私が撮ってきた写真をひとしきり見たカインは、あっさりと「自分もお見合いする」と言い出したのだから。




 ***




 グレンもハロルドも完全にぽかんとしている様子だった。まさかこんなに作戦がうまくいくとは思ってもみなかったのだろう。


「……カインが、列車に関係する仕事に興味を持ってくれる可能性はあると思ってたんだ、わたしも」


 はあ、とグレンはびっくり顔のまま言った。

 最初に作戦会議をしたのと同じ、ウォーカー家のテラス席。

 私、グレン、ハロルド、そしてエリザベートの四人でテーブルを囲みながら報告をしているところである。


「しかし、結婚にまで興味を持ってくれるとは。一体何が彼をそうさせたんだろうか」

「ううん、それがわかんないんだよね」


 私の手元にはまだ写真が入ったファイルがある。

 彼が顔色を変えたのは、列車の社内で撮影したエリザベートの写真と、それからランチの時に店員さんに撮って貰った私とエリザベートの写真だった。特に後者は、遠くに列車は映っているもののメインではないし、彼にとってあまり楽しい写真ではないように思えたのだが。


「これ見せたら、なんか恋もいいかも?って。列車が綺麗に見える笑顔ってあるんだな、とかよくわからんことを……」

「へえ」


 すると、グレンとハロルドが何故かそっくり同じ顔をした。ややにやけながらエリザベートを見る。

 エリザベートはといえば、さっきから顔を真っ赤にしてそっぽを向いている状態だった。テーブルの上の紅茶にも御菓子にも手を付けていない。


「……そうですね。恋は、人を、景色を、あらゆるものを輝かせる。人を愛するっていうのは、とても幸せな感情だから」


 どこか愛おしそうに、ハロルドがグレンを見た。二人の手が、テーブルの上で重なる。今こうして隣にいられること、それ以上の幸福はないのだというように。


「……よく、わからないけど」


 私は少しだけ困惑しつつも、言うべきことははっきり言うことにした。


「とにかく。……カインが結婚に前向きになってくれた、ここがスタートだからね?彼が婚約してくれたらその次は、君達の番なんだぞ。ここから先は手伝えない。いくら跡取り問題が解決しても、身分の差と同性愛を納得してもらうのは大変なことだと思う。……二人で、頑張ってグレンの両親を説得するんだ」

「はい」

「ああ、わかってるよローザ。……ありがとう、ここまでしてくれて」

「いいっていいって。私は推しCPの萌えが見られれば最高……じゃなかった、とにかく、二人が幸せになってくれたらそれで十分だから!」


 うっかり本音が零れそうになるのを慌てて誤魔化して、私はグレンに向き直った。


「私はもう、貴方の婚約者じゃないけど。それでも、友達として応援したい。そういうの、いいかな?」


 結構、いい度胸なことを言っているのはわかっている。図々しいと思われても仕方ない。

 それでも私が差し出した手を、グレンはしっかり握ってくれたのだった。


「ああ」


 彼は泣きそうな顔で、何度も何度も頷いたのだった。


「ああ、ああ。……本当にすまなかった。そしてありがとう。君のような友人を持てて、わたしは本当に幸せだ」




 ***




 ティーセットを片付ける時、何故かハロルドと一緒にグレンもキッチンに引っ込んでしまった。テラス席に二人残される私とエリザベート。


「あの」


 とエリザベートが唐突に口を開く。


「ローザ。つかぬことをお伺いしますけど」

「なあに?エリザ」

「貴女は、同性愛に偏見がないってことでよろしいですわよね?だから、グレン様とハロルドの関係を応援した、と」

「うん、そうだよ?」


 ていうか、ゴリゴリ大好物です、とは此処だけの話。男女CPとGLも嗜むが、BLこそがごりごりの主食だ。同性愛と言う壁を乗り越えて幸せになる推したちの姿を見る、それこそオタクの本懐と言っても過言ではない。


「……そう、だったら」


 この時、私はエリザベートが何を言おうとしているのか直前までまったくわかっていなかった。

 否、そもそもなんでわざわざグレンとハロルドが私達を二人きりにしたのかも。


「わたくしでは、駄目かしら?」

「へ?」


 彼女は真剣な目で私の手を握り、はっきりと告げたのだった。


「ローザ。貴女を、わたくしが頂いてもよろしいかしら?……どちらが嫁入りするのでも構いませんから!」

「え、え、えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 まさかのまさか。

 思わずすっとんきょうな声を上げてしまう私。エリザベートの目は、けして冗談を言っているようには見えない。

 というか。


「隠してましたけどわたくし、バイセクシャルなんですの。男性でも女性でも、素敵な方なら性別なんて些末なことだと思ってますのよ。あ、貴女なら、笑顔の家庭が作れるかもしれない、と思って……そ、その、駄目かしら」


 確かにエリザベートは可愛い。しかし、私は女の子に恋愛感情を持ったことはないのだ。いや、めちゃくちゃ可愛いけれど、本当にいいのだろうかこれで。というか、いやその、アリっちゃありだと思い始めている自分もいるけれど。

 混乱する私に、彼女はトドメの一撃をくれた。


「わたくしと一緒にずーっと……グレン様とハロルド様の愛を見届けていずれは本でも出版しませんこと!?」

「よっしゃ乗った!」


 腐女子の私、乙女ゲームのヒロインに転生したらソッコーで婚約破棄されました。

 そして元婚約者のBLを応援していたら、悪役令嬢に告白されました。しかもその悪役令嬢と、BL本の同人誌出す約束までしてしまいました。

 自分でも何言ってるのかわからないが、なんかもうめっちゃ楽しい気がするので、これもこれでハッピーエンドと言うことにしておこう。



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