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<2・悪役令嬢さんに同情されてる件。>

 『魔法使いの伯爵様に溺愛されて』という作品には、最近流行の悪役令嬢的ポジションのキャラクターがいる。まあ、この作品の悪役令嬢はその名の通り悪役なので、ヒロインをいじめたり邪魔をしまくって、最終的には当て馬的な退場をするというキャラクターらしいのだが(ヒロインの婚約者にフラレたら隣国の王太子様に溺愛されました、とかそういうのもない。あと捕まって処刑されるとかいうエグい展開もないと聞いている)。

 私=ローザの家であるバーン家を訪れた悪令嬢――エリザベート・ベインは。私が思っていた悪役令嬢よりは、かなりまともな性格であるようだった。

 具体的には。


「そ、その……今回のことは、ご愁傷様ね」


 普通、悪役令嬢がこの台詞を吐いたら嫌味でしかない。社交界で、グレンが私のことを婚約破棄した件は広まっただろうし、その理由についてもなんとなーく知られてしまっていただろうから尚更に。

 ところが、エリザベートのその声は、それはもう、ものすっごく、同情に満ちたものであったのだから笑ってしまう。元々、エリザベート(ちなみに彼女の家は子爵であり、少しばかりローザ&グレンより階級が下なのだ)もグレンを横取りすることを狙っていたはずだから余計複雑な気持ちなのだろう。


「以前から一応噂はあったんですのよ。グレン様は、実はその、女性に興味がおありではないのではないか?と」

「あ、噂、あったんだ?」

「ええ。上流階級御用達のカフェーとかに連れていってもらっていたことはあったようなのですけど、女給さんたちにちっとも興味を持っていなかった様子だとか。あと、それくらいの年の方々が好きそうな春本の類をあの方だけ全然持ってらっしゃらなかったとか……」

「その情報が出回ってる時点でだいぶ怖いんだけど社交界?」

「一部の殿方は、それはもう明け透けに品のないお話をされますから。傍にわたくしたちがいるのもちーっともお構いなしに。何度その股間を蹴り上げて差し上げ……げふんげふん、背中をどついて差し上げようかと思ったほどに」

「あ、はは……」


 どうしよう。

 このゲームのキャラ全然知らなかったけど、この悪役令嬢さんけっこー好きかもしれない。私は苦笑いしながら頷いていた。

 確かに、社交界の場で女性が傍にいるのに関係なくえっちな話をするような男はちょっと御免被る。――ひょっとしたらエリザベートがグレンに好意を持っていたのも、彼は数少ない“品の良い話しかしない”男性だったからというのもあるのかもしれなかった。

 まあ、男性にしか興味がないなら、女性のえっちなアレソレに関して話を振られても乗ってくるはずがないのだが。


「あの方は唯一といっていいほど、そういう話を避けてらっしゃいますし、とても清潔感があって好感が持てたのですけど」


 はああああ、とエリザベートは我が家の客間で、心底疲れたようなため息を吐いた。


「まさか、殿方にしか興味がなかったから、なんて。どうしましょう、わたくしの玉の腰計画が……」

「私の前でそれ言っちゃうんだ?」

「だって、振られたのはお互い様でしょ。なんなら、貴女の方が名誉を傷つけられたようなものよ。しかも理由が理由。表向きは伏せてらっしゃったようですけど、これを機にあの方が同性愛者向けの社交場に顔を出していたことをぶっちゃけた方がいまして。まあ、そりゃあ、“あ(察し)”となりますわよね。流石に同情しますわ」

「ど、どうも」


 うーん、と私は考えを巡らせる。

 実のところ、私はローザとしての記憶がないし、ローザにどのような友人がいたのかもわかっていない。こうして尋ねてきたあたり、エリザベートはローザとはそれなりに話す仲だったのだろう。

 そして、なんだかよくわからないけどめちゃくちゃ同情してくれている様子。なんとか、目的のための仲間に引き入れることはできないだろうか。

 さすがに「実はBL大好き腐女子でーす!」をぶっちゃけたらドン引きされそうなので、なんとか穏便に――。


「……私は」


 グレンのことは(顔面偏差値最強イケメンの推しキャラとして)大好きだ。いや、この作品の事よく知らないから、性格はまだ全然把握しきれてないけど顔は好きだ。推せる。ゆえに。


「グレンのことがとても大切だ。それは今でも変わらない。だからこそ、これで良かったと思ってるんだ」

「というと?」

「だって、私と結婚したら、あの人は好きでもない女とベッドに入らなきゃいけない。自分の秘密を抱えて、永遠に苦悩しなければいけないじゃん?それって、結局私が、グレンの幸せを奪っちゃってるみたいなもんじゃないか。だったら……グレンが幸せになれる未来を見つけたい。彼が大切だからこそ、彼の幸せを全力で祈りたいんだ」


――おおおおおおおおおおおおおおおいいんじゃね?綺麗にまとまったんじゃね?私めっちゃいいこと言ってない!?


 心の中でハッスルしながらも、表向きはお淑やかで心優しいヒロインを演じる私。

 ローザの顔面もかなりのもんだし、にっこり笑ってこれを言えば結構通用するのではなかろうか。

 まさか高校時代演劇部やってた経験がここで生きるとは思ってもみなかったけれど。


「エリザベートも、グレンのことが好きだったんだろ?だから、辛いかもしれないけど……私と一緒に、グレンの未来を応援してあげてくれないだろうか。このままじゃ、あいつはみんなに冷たい目で見られて、辛い思いをしちゃうと思うんだ。それは、私にとっては凄く悲しいし、避けたい。できれば……あいつの恋が成就できるように協力したいと思ってる」

「ローザ、貴女……」


 エリザベートは暫く沈黙した後、少し目を潤ませて笑った。

 あ、やばい。思った以上に可愛い。自分なんかよりよっぽどヒロインに向いてるんじゃね?と思うくらいには。


「わたくし、貴女を誤解していたわ。てっきり、イケメンで身分と経済力がある男の玉の腰に乗れるなら後のことはどうでもいいとかむしろ考えるのメンドクサイとか思ってる頭からっぽの女性だとばかり……」

「おーい?」


 ちょっとまて、今までローザってどういうキャラだったんだ。ていうかその認識は普通に酷くないか。思わず引きつり笑いを浮かべる私。


「わかりましたわ。貴女がそこまで言うなら、わたくしも手を貸しましょう。そのためには、問題点をいくつも洗い出す必要があります……おわかり?」

「問題点?」

「ええ。まず大前提として、貴族の家は血を繋ぐことに重きを置いております。特に、跡継ぎに子供が生まれないと結構困ったことになるんですの。昨今は、爵位を継ぐのは女性でも良いという風潮になってきてますけど……それも、子供がいなければ議論のしようがないことですわ。そして、最大の問題は、グレン様がウォーカー家の長男だということです」

「あーあーあー……」


 確かにそれは問題だ。

 グレンは、使用人のハロルドが好きだと言っている。奇跡が起きて使用人との結婚を家族が許したとて、その場合は二人の間には確定で子供が生まれないことになってしまう。養子を取ることはできようが、養子には爵位の相続権がない。その家の血を継いでいないのだから、跡継ぎを任せるわけにいかないのも当然と言えば当然なのだが。

 つまり、このままグレンがウォーカー伯爵家の跡取りのままだと、ウォーカー伯爵家は実質途絶えてしまうことになる。そんな状態になるのがわかっているのに、グレンにハロルドと結婚が許されるはずがない。身分違いの恋というのに目をつぶっても、だ(ちなみにこの国、同性同士でも一応結婚は可能であるし、養子をとることもできるのだとエリザベートが教えてくれた)。

 それどころか、本人の趣向を無視して別の女性とお見合いさせられるか、最低でも愛人作って子供だけ生ませろと言われかねない。


「あ、結構詰みかけてる?コレ?」

「詰んでませんわ!何よ、貴女から言い出したのに早々に諦めるようなこと仰らないでくださる!?」


 ぺし、とエリザベートは私の額を叩いた。

 結構力強い。いちゃい。


「とにかく、グレン様にきちんと話を通して、今後のことをどう考えているのかお尋ねしましょう!ほら、今からグレン様の御宅に伺いますわよ!」

「え、ちょ、エリザベート!?」

「ほらほら、はやくはやくはやく、ハリーアーップ!」


 すげえ、この悪役令嬢超ぐいぐいくる!

 腕をひっつかんで立たされながら私は思ったのだった。しかし、なんでこうものすごいやる気になってるんだろう、この悪役令嬢様は。




 ***




 そんでもって。

 二人揃って、ウォーカー家にダイナミックお邪魔しますをかましたのだが。


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!」」


 庭に出て早々、私とエリザベートは仲良くツッコミする羽目になったのだった。

 屋敷の裏手にグレンを発見。

 しかも、長身黒髪の執事服の青年――ハロルドと思いっきりちゅーしてるではないか!


「どわっちゃあああ!?」


 飛び出してきた令嬢二人に、男二人はびっくりして尻餅をついた。まあそりゃ、いきなり繁みから女二人がツッコミしながら飛んで来たら普通に怖いだろうが!


「お、お、お前らなあ!」


 私は思わず叫んだ。


「秘密の恋だって自覚あるなら、もっと隠れたところでいちゃいちゃしやがれ!こんな、すぐ見つかるような場所でキスする馬鹿いるか!?」

「え、え、す、すみません……」

「は。はい、ごめんなさい」

「さすがローザ、よくぞ言ってくれたもんだわ!!」


 グレンの胸元をがっくんがっくん揺さぶる私の後ろで、何故かエリザベートがうんうんと頷いている。なんだろうこの、とてつもなくシュールな図は。


「私達を振っておいて、中途半端で終わらせるなんて絶対許さないてーの!あんたらには何が何でも結婚して、ハッピーいちゃいちゃBLライフを送って私にオカズを提供……じゃなかった、とにかく、しっかりくっついて貰わなきゃ困るの!私が生きてく気力に大幅に関わるの!!」

「え、え、そんなに?」

「おかず?」

「BLらいふ?」

「……そのへんはスルーでよろしく!」


 はいこっち来なさい、と私は全員をすぐ傍にテラス席に誘導する。


「カップリング成立のために、とにかく作戦会議すんだよ!はい全員こっち、こっち座る!!」

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