二度目の転移
最初の記憶は、家の階段でずっ転げて頭を打った瞬間だ。三歳の俺にとって一番の衝撃的な出来事だった。俺はそれから平凡な生活を送り、平凡な引きこもりになった。引きこもりといえど、外に出ることはそれなりにあった。普段と変わらず行きつけのコンビニから帰っていた時に、階段から足を踏み外した。気づいた時にはそれなりに高さのある階段で転がり落ちて頭から血を流していた。
次に目を開けた時に広がっていたのは中世ファンタジーの世界だった。容姿は変わらないままだったのは残念だったが、そんなことが気にならないくらい異世界チートをしっかり味合わせてもらった。「勇者となり、魔王を倒す。」よくある物語で簡単にまとめられてしまうことだが、様々な経験をした。俺はこの世界で第二の人生を歩むのだと決めた、はずだった。新たな冒険を始めようと仲間と歩き始めようとした時、その背を押すように風が吹いた。その風は俺の背を押し、俺を突き落とした。頭の理解が追いついた時には、階段の下で血を流していた。チート能力を持った勇者の最後がこれは、あまりにも無様すぎないか。そんなことを考えながら目を閉じた。
今度、目を開けたら目の前には白い天井があった。横には泣いている母親がいた。何年振りの再会だろう。俺も思わず涙が一粒流れた。この世界に戻ってきたことに。諸々の検査やら何かしらをしながら、少しづつ自分の現状を理解した。俺は階段から足を踏み外し、一年間意識不明だった。たった一年間。俺があの世界にいた時間はもっと長かった。正確な年数は分からないが、少なくとも五年以上を俺はあの異世界で過ごした。その後、世界に何か大きな異変が起こることもなく、俺もただの学生生活を送ることになった。異世界に行っていた弊害は色々な状況で出ていた。宇宙飛行士が地球に戻ってきたように物をよく落としていた。それ以前に荷物を忘れることも多かった。周囲から変に見られる行動をよくしていたが、一年も過ごしていれば普通な人間になっていた。この世界では一年遅れた人間になったが、俺からすれば同年代より五年、いやそれ以上の経験をしているが、だが、そんなことは何の価値もなさなかった。この地球では俺の人生はまだまだ長く、走り続けることをやめられなかった。異世界に行く前と変わらず、俺はまた引きこもった。あの頃とは違い大学には行ってる。でも、それ以外は何もしなかった。
「ねむい。」
この地球に戻ってから悪夢を見ない日はなく、まともに眠れたことは一度もなかった。
「コンビニでも行くか。」
昔と変わらないコンビニに行くために足を動かした。いつも通りの道を歩くとあの時の階段に辿り着いた。ゆっくりと足を動かし、一つ一つ登っていった。頂上に辿り着き、階段を振り返る。そこには何もなくただの階段がある。
「帰るか」
足を大きく開いて、下りていく。当たり前だが歩きずらいが、それでも一段飛ばしながら下りていく。二、三歩下りた時、何かが背中に当たった。足に力を入れていなかった俺はそのまま転がり落ちていった。あの時と同じように頭から血を流し、気を失った。
「ここはどこだ。」
目を開けると木に囲まれていた。この光景には既視感がある。心臓の鼓動がはやくなる。
「戻って来れた、のか。」
ふらつく体を無理やり起こして、立ち上がる。近くにあった枝を持ち、心臓を落ち着かせながら集中した。すると、手の中にあった枝は綺麗さっぱり消えた。何もない手のひらを見つめ、ゆっくりと呼吸を落ち着かせる。そして、ゆっくりと顔を上げ空を見上げた。頬には一粒の涙が流れた。




