1時間目 math
「おはようございま〜す」
数学教師が入ってきた。こいつの名前は馬鹿阿保子。
去年は小学校一年生の担任をしており、その影響で幼児退行した。
では逆に高校に飛ばせば戻るのではないか?と考えた教育委員会は馬鹿を高校教師にしたのである。
あいさつを終え、早速授業に入る。
「はい、教科書51ページを見てください!」
「今日は、数を数える練習をします!3の時間までに頑張って解いてください!」
3の時間とは、3分という意味ではなく、「長針が3を刺す時間まで」つまり15分まで、ということらしい。
でも今は45分。
うーん…???
馬鹿は自分で15分を指定しておきながら、それを忘れたようで指名を始める。
「はーいそこまで!ココちゃん、みんなの前で答えを発表して!」
「ボクかぁ…」
ココは立ち上がる。
「…」
ココは立ったまま何も言えず困っている。当たり前だろう。なぜなら、馬鹿が使っている教科書と俺らが使ってる教科書は違うものだから。
「ココちゃん、間違えは恥ずかしいことじゃないから、勇気を出して!!!」
「…」
もうやめて!ココのライフは0よ!
「わかり…ません」
ココの目は死んだようだった。そりゃそーだよな。こんな簡単な問題が解けないって思うと尊厳壊れるよな…
噂によると馬鹿はこの学校に来てから数々の生徒を泣かせているらしい。
「ココちゃん偉い!みなさん、分からないこと、間違えることは恥ではありません!では、今からこの問題の解き方を教えますね!!!」
「…」
「りんごがひとーつ、りんごがふたーつ…」
そう言って馬鹿は綺麗な持ち方を補助する子供向け鉛筆を使いりんごに斜線を引いていく。
「解き方を教える」と言っておきながら自分で解いているだけである。
必死にりんごを数える馬鹿に、あむが切り込みを入れる。
「せんせー!キティーちゃんの体重がりんご2個分って本当ですかぁ?」
「あむちゃん、難しい質問ですね」
「ちなみにりんご1個分の質量は一般的に150g〜300gで、大きいサイズのものは過食部だけでも400gも超えるものがあるらしいですよ。」
杏子はやっぱ頭良いなぁ…。
「ふぇ…?しつりょー?かしょくぶ…あーちゃん難しいのわかんない〜!わかんないいやいやぁ!」
「あ、ごめんなさい…。もう少し簡単な言葉で説明しますね。まず、質量というのは簡単に言えば重さのこと。多少差はありますが、多くのりんごの重さは150g〜300g。ただ、ブレがあると計算しづらいと思うので200gと仮定しましょうか」
「かてい?」
「ごめんなさい、また難しい言葉を使ってしまいましたね…仮定とは、「もし〇〇だったらどうなるか」という意味です。だからここでは、「もしりんご1個が200gだったら」と考えてください!」
「うん…」
「じゃあ、りんごが「2」個分ですので、200gを2倍にしましょうか。」
「2倍…?わかんない…」
そうウダウダしている間にあむが切り込む。
「馬鹿先生〜!こんな問題もわかんないんですかぁ?体ばっかでかくなって中身はガキですよねぇ!」
「ちょっと、その言い方は…」
「ふぇーん、わかんない、わかんないよぉ…!!!」
「恥ずかしくないんですか?教える身として、恥ずかしくないんですか?」
「というか貴方は視野が狭いんですよ。自分視点でしか物事が見えていない」
「つまり雑魚ってことです!ざぁーこざぁーこざぁーこ!」
あむが一気に畳み掛ける。
「ゔぃえええええん、ああああん、うわああん…!」
ぐずる馬鹿、困り顔の杏子、したり顔のあむ、相変わらず死んでるココ。
レミは化粧直しをしているようだ。1時間目なのに…早くね?
というか…いくらなんでも口紅を瞼に塗るのはおかしいだろ…!!!
男でもわかる!おかしい!!!
死んでいたココだが、隣のレミの異変に気付いたようだ。
「レミちゃん、ちょ、何して…」
「化粧直し。馬鹿先生には内緒ね?」
「そ、そういうことじゃなくて…!それリップティントでしょ?そんなもん瞼に塗っちゃダメだよ…!」
「え、でもこれツヤツヤになるって噂だから瞼に光が入って可愛いかなって思って…」
「ツヤツヤになるのは唇に塗った場合だよ!瞼に光取り入れたいならパール入りとかラメ入りのアイシャドウ使おう?CA●MAKEのアイシャドウパレットとかおすすめだから…!」
「でも、リップティントとか口紅をチークとして使えるって見たことあるから…」
「それはほんのちょっとだけ乗せる場合…!レミちゃんの使い方は明らかにおかしいから…!」
「え、そうだったんだ…」
レミは悲しそうな顔をする。
「ちょ、ごめんってば…!別にレミちゃんを傷付けるためにボクは言ったんじゃないの。そ、そうだ、この授業が終わったら一緒に化粧品買いに行こ?」
「うん…でも学校抜け出したら怒られちゃう」
「もう、レミちゃんは変なとこで真面目なんだからぁ…今週の土曜日行こっか?」
「うん、行く…!」
そうこうしているうちに授業は終わった。
馬鹿は杏子と絵を描いて遊んでいたようだ。
馬鹿は描いた絵を大切そうに抱えて職員室に帰っていくのであった。




