第8話 強敵! バーサークナイト!!
ウィッチを封印してから、僕は全力で走り、みふだちゃんを追いかけた。
そこまで早く移動しないでくれたおかげでなんとか追いつく事ができた。
あとはやっぱり、風を切るように走れる事も大きい気がする。
きっと敏捷性が上がっているのだろう。
これはスキルのせい、そうスキルのせい!
「ふぅ……。ここからが第二区画か。区画が違うとどうなるのか、あんまりわかってないんだけど、実際どうなの?」
「かなり変わるかな。ダンジョンによってまちまちだけど、警戒した方がいいと思う。ボス戦終わりで油断してる探索者を狩るモンスターもいるから」
「何それ怖い!」
「そうだよ。気をつけないと襲われちゃうからねぇ」
警戒してカンモンを出てみたが、今回はいきなり攻撃される事はなかった。
ただ、雰囲気からして第一区画とはまるで違った。
第一区画は、歩くたびに土ぼこりが立つ山を切り出したようなダンジョンだったが、第二区画は、岩壁によって補強された迷路のような場所だった。
「すごいね。ここまで雰囲気が変わるなんて……」
「ぶわっ」
「ひゃっ」
急に装備のスカート部分をめくられて、僕は慌てて押さえた。
今、変な声が出た気がする……。
急な出来事に心臓がバクバクと鼓動し、顔に熱が上がってくる。
何が起きたのか探るため周りの様子をうかがうと、みふだちゃんが満足そうに笑っていた。
両腕を持ち上げた姿勢からして、どうやら今回の犯人らしい。
機嫌が戻ったって事かな……。
「何してるの?」
「驚くかなーと思って。いいものも見られたし」
「驚いたけど、みふだちゃんって、こういうイタズラ好きなの?」
「歴ちゃんだからするんだよ」
「……、そうじゃないから変人って言われるんじゃ……」
それに僕だからするってのも意味がわからないような……。
ダンジョンでスカートめくるってどういう心境なんだ? まったく。
あー。変な汗かいた。
「かあいいなあ、歴ちゃんは」
「やめてよ。さらに危険なんでしょ?」
「その通り。本当は、もっと警戒してカンモンを出るべきだよ」
「本当は……って……」
堂々とスカートの中を見ようとするなんて肝が座りすぎだろう。いくら今は同性でも行動に限度ってもんがあるんじゃなかろうか。
それともこれくらい普通なのか?
気が緩むんだか引き締まったんだかわからないまま、ふと先ほどのウィッチの行動を思い出す。
もしかして、ウィッチは僕を引き止めようとしてたんじゃ……。
「……」
視線を感じて、僕は足を止めた。
またしてもみふだちゃんのセクハラが飛んでくるのかと思ったが、違った。
遠巻きに、道の角から白い鼻をのぞかせて、こちらをうかがっているモンスターの姿がある。
「オオカミ……?」
「あれは、ソニックウルフかな。かなり賢いモンスターだから」
「Dランクだっけ。初心者探索者は要警戒って教わった気がする」
「そうだね。低ランクのダンジョンでも出てくるから、慣れてくるまでかなり危険視されるモンスターでもあるよ」
そんなモンスターだが、今は様子をうかがうだけで、攻撃してくる様子はない。とても警戒しているようだ。
こちらの1人じゃない事から、スキをうかがっているのだろうか。
「強そうだな。賢そうだし」
「ダンジョンは長く存在しているほど、モンスターが狡猾になるって都市伝説があるからね」
「そこは都市伝説なの?」
「出てくるモンスターにもよるし、狡猾って具体的に何をしてくるの? っていうところも難しいから。ただ、真っ直ぐ攻めてこない個体が多い印象はあるかな」
「真っ直ぐに攻めてこない……、カニ釣りみたいな」
「学習されたのか釣りにくくなったよねー。みたいな」
伝わった?
これも僕の感覚で、実際にどうなのかは知らない。都市伝説だ。
とはいえ、便利なスキルも多かったが、モンスターの位置を把握できるスキルはない。
目視、もしくは何か別の方法を応用しなくては、どこにいるのかまではわからない。
「警戒しすぎて悪いって事は……」
ないってこと? そう聞こうとして、突然、視界が暗くなった。足元に影が伸びる。
振り返ると、飛び上がったソニックウルフだった。
さらに、待ち構えていたソニックウルフが駆けてくる足音が聞こえる。
「くっ」
真っ直ぐ攻撃してこないってこういう事か。
道順はソニックウルフたちの方が把握しているのだろう。
してやられた。
僕は転がりながらなんとか攻撃を回避。
見える限り相手は3体。
せんちょーも戦ってくれるだろうが、今度の相手は動きが速い。
ここは……、
「ウィッチ! 僕が気を引くから闇魔法で援護を……ってくっつかないで」
「んーん! んーん!」
一度引き離したからか、先ほどより強い力でくっついてくる。
駄々をこねる子どものようにまったく離れようとしない。
「だーもう!」
僕はウィッチを抱きかかえた。
「んっ! ん?」
「これでいいでしょ? 魔法の準備をお願いね」
「んー!」
一瞬固まったウィッチだったが、すぐに首が取れそうなほど激しくうなずいて、周囲に魔法を放った。
ただ、今回の魔法は僕の周りに浮遊したままの状態となり、近づいてくるソニックウルフに対して反応してぶつかりに行くようなものだった。
こちらから近づいても誘爆され、僕の蹴りと二連撃。
相手のスピードを活かさせず、ソニックウルフたちは尻込みするように動きを止める。
「蹴りを食らえええええ!」
慣れない足技でソニックウルフの群れを一掃した。
「みふだちゃんは大丈夫?」
「やっぱり引きがいいね」
僕の質問には答えず、背中を向けたままみふだちゃんは言う。
ちょっと投げやりな反応に視線の先を見ると、戦闘の音を聞きつけたのか、くすんだ灰色をした巨大な甲冑が、その肉体と同じくらいの大きさもある巨剣を手に、一歩、また一歩と僕らの方へと歩いてきていた。
赤く光る怪しい目と目が合った気がした。
背筋が凍る。
「あれはバーサークナイト。なかなかお目にかかれない異常種だよ」
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