第6話 さあ、ダンジョンを攻略しよう!
進化もでき、探索者としてだけでなく、ダンカプレイヤーとして徐々にレベルを上げられつつ、僕はみふだちゃんとダンジョンの攻略を進めていた。
とはいえ、ダンジョンのあちこちに人の手が加わっているように見える。なんなら道も歩きやすく、モンスターとの遭遇もかなり少ない。まるでモンスターの出るアトラクションくらいの雰囲気だ。
「このダンジョンって、もう結構攻略されてるよね?」
「家にあるからね。あんまり危険な状態にはできないもん」
「それはそうだ。と言っても、残ってるからには、攻略し切ったわけじゃないんでしょ?」
「もちろんだよ。ただ、できない訳じゃなくって、攻略し切らないようにしてるって感じかな」
みふだちゃんが実力者だとはわかっていたけど、今の発言で確定的になったと言ってよさそうだ。
この世界のダンジョンは一度攻略されるとなくなってしまう。
そのため、一般に情報が公開されているダンジョンで残っているものは、高ランクのダンジョンで攻略に時間がかかっている場合や、残す事にメリットがあると判断された場合くらい。基本、速やかに攻略し、潰してしまう。
「わざわざプライベートダンジョンを持ってるんだから、なくしちゃうのはもったいないしね」
「その通りだ」
どういう手続きが必要かなど、僕ごときには到底思いもつかないが、それでも、とんでもなく煩雑な色々がありそうだと予想はできる。
とはいえ、家にプライベートダンジョンなんて、敷地が莫大に広いからこそできるのだろう。
普通のダンジョンでも、モンスターが出てくる事故がない訳ではない。常に危険と隣り合わせという訳だ。
ただ、安全管理はされていようと、ここはダンジョン。モンスターがいない訳じゃない。
先ほどから現れるモンスターはトロールへと変わり、ゴブリンより手強くなってきていた。だが、相手が一体なら、スライム、いや、ボブスライムも戦闘に参加できる。
「いけっ! ボブスライム!」
「……!」
体当たりのキレがよくなり、巨体のトロール相手でも、弾き飛ばしてから、隙をつく連撃ができるようになってきた。
「ナイスファイト!」
「みふだちゃんの指導のおかげだよ」
「そうかなー」
照れたように頭をかくみふだちゃん。
実際、さりげないサポートのおかげで探索の負荷は下がっているように感じる。
そのおかげで苦戦も少なく済んでいると思うし。
「でも、こうしてレベルアップで進化できるなら、わざわざ探索を進めなくてもいいんじゃないの?」
「そうもいかないよ」
みふだちゃんは、チッチッチと舌を鳴らした。
「高ランクの探索者は、高ランクのダンジョンで、高ランクモンスターをカードに封印してゲームで使ってくるからね。特別な制限ルールで戦うんでもない限り、高いランクのダンジョンを攻略できる方がお得だよ」
「やっぱり探索者の実力ゲーじゃん」
「……一応、ダンカの世界一は七年間無敗を誇ってるからね。そうそう実力差は覆らないんだよ」
どこかさみしげに言うみふだちゃん。
頂点を目指そうと言っていたけど、やっぱりどんなものでも頂点へ至るのは難題って事か。
トップとの壁を感じ、なんだか静かになってしまい、しばらく黙り込んだまま探索を続けた。
少しして、目の前には雰囲気の異なる扉が見えてきた。
その前には、今までのトロールよりも大きなトロールが2体待ち構えている。
僕らの姿を見ても突っ込んでこないのがなんとも不穏だ。
「あれが、上層の第一カンモン?」
「そう。あの中にカンモンボスがいるよ」
攻略が進められても、ボスすら再度湧いて出てくる。ダンジョンとはそういう世界。
「歴ちゃんのスキルが優秀で早いとこ辿り着けちゃったね」
「みふだちゃんのおかげだよ」
「そんな事ないって。しっかり適切な対応を取るってのは慣れないと難しいものなんだから。その点、周りを見えてる証拠だよ」
「……ありがとう」
でもたしかに。今までの自分よりも行動へ移るスピードが上がっているような気はする。
スキルのおかげか、みふだちゃんの誘導が上手いのかまではわからないけど、課題が一つ潰せたって事かな?
「そういえば、ボスでもテイムできるとかって聞いたし、もしかしてボスを封印しようと……?」
「その通り。当然できる優れものだよ。深層最終ボスなんかをテイムしている人もいるくらいだし、探索者ってのは恐ろしいよね」
「……」
底が見えないみふだちゃんも、実はかなり恐ろしいと思うのだけど、どうでしょう。
こんなこと口には出せないがね。
「ちょっと待って。カンモンボスの前にトロールが門番みたいになってるけど」
「今回は、リーダーがお控えって事なんだと思う。ここまで、トロールが多かったでしょ」
「たしかに」
その時々でボスが変わるカンモンもあるとは聞いていたが、話ぶりからして、このダンジョンもその類。
とはいえ、ここまで来て引き返すというのもおかしな話だと思う。
「どうする?」
「当然戦う!」
「その言葉、待ってました。もう少しだけ頑張ってみよう!」
「うん」
みふだちゃんの応援があると、いつもより力を出せる気がする。
僕は、トロールへ向けて駆け出した。その後を、ボブスライムがついてくる。
「ボブスライムは左のをお願い。僕は右のをやる」
「……!」
「連携まで取れてきたなんて……」
感じ入ってる風のみふだちゃんを残し、僕は右のトロールへと向かう。
武器を振り上げた隙を見逃さず僕はトロールを切り飛ばした。
探索は今日が初めてのはずなのに、上層のモンスターは一撃で倒せている。調子がいい。
すぐさまボブスライムの方へと目をやった。
「ふ、ぐぅ……」
「……!」
スライムは素早い動きでトロールを翻弄していた。動きの鈍いトロールの攻撃を地面へとぶつけ不発に終わらせ、連続の体当たりによって体力を奪っていた。
苛立つ様子のトロール。だが、目で追うのが精一杯なのか、反応する事ができていない。
すぐに、ドシン! と大きく地面が揺れ、倒れ込んだトロールはダンジョンへと吸収されていった。
「す、すごいよ! ボブスライム!」
「……!!」
何を言っているのかまではわからないけど、なんだかとっても喜んでいるように見える。
今までのトロールよりも強そうな相手も余裕の勝利を収めるなんて、スライムとしちゃあ優秀すぎるんじゃないか?
何よりプルプル揺れてるのがかわいい。
「待って。ここまでの連戦でまた進化したんじゃない?」
「本当だ」
今回は色だけでなく、これまでの戦いの勲章か、十字の傷のような模様が描かれていた。
早速カードに戻してみると、ボブスライムはスライムリーダーへと進化したらしい。
スライムが群れるイメージはないのだけど、軍隊スライムってのは厄介そうだし、かなり高ランクなのではないか?
「Fランク! 普通のスライムだったのに、この子、Fランクだよ!」
「自分で考えて攻撃までしてくれてたし、すっかり仲良しだね」
「スライムリーダーが頭のいい子なんだよ」
「そこまで信頼してるなら、ボス戦の前にニックネームをつけてあげたら?」
「ニックネーム?」
「そう。モンスターの愛称。結構つけてる人多いんだよ。もちろん種族名で呼んでもいいけど、愛着が湧くよ」
スライムスライム言ってたら、野生のスライムと区別がつかない。
僕は封印されたスライムリーダーを見た。
ニックネーム、つけてあげた方がいいだろう。
「それじゃあ、せんちょーかな」
「せんちょーね。スライムリーダーは十字傷がかっこいいもんね」
「そう!」
少しずつ深い青色になっているのも、海をイメージさせるし、ぴったりだと感じた。
「さあこい! せんちょー!」
「……!」
再召喚したスライム、もといせんちょーも、喜んでくれているように見える。
やっぱり名前は大事だ。
僕も人間人間と言われたくはない。
「よろしくな、せんちょー」
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